世界は狭いのです
※シリアス注意!
の、はずが黒金節で加筆したら崩壊しました。
そう、騎士団長とスラギはそんな出会い。
しっちゃかめっちゃかである。どうすればいいの? どうすればよかったの? 最初から今まで何もかもおかしい。そこはぶれてほしかった。せめて国王を泣かさないでほしかった。
ともかく。
そんな始まりから五年。それから、今に至った。
ここで話を現在に戻そう。
そんな過去も現在もおかしくないところなどないスラギは、ミコトたちを見ながらいつもと同じく笑っている。
わらっている、けれど。
なぜだろう、騎士団長は、それを見ながら初めて彼を恐いと思った。
なんというか、背筋にぞぞっとしたものが走って顔が引き攣ってしまったのである。
いや、よく考えなくても冷静に事実だけを並び立てればスラギほど怖いものはないけども。なぜって、スラギは大概規格外で、突拍子もなく、その実力は底知れないのだ。
未知のものは怖い、当たり前の感情である。そこのところ、騎士団長はまだ常識を捨てていないのだ。
ていうか捨てたくない。棄てたら終わる。こう、なんか大切なものが終わる。
では何が今更『はじめて』怖いのかと言えば、スラギの『笑顔』が怖かったのだ。
スラギの『能力』ではなくて、『笑顔』が。
――思い出せる限り、スラギは何時だって笑っていた。
初めて出会ったときも、命令を拒否する時も、逃げる時さえも。
せめて逃げる時は笑わないでほしかった。心底首を絞めたくなるからやめて。ホントやめて。じわじわ来るから。
ともかく。
いつも笑っていたのだ、彼は。
だからあまりに見慣れていて、そもそも笑顔なのだから、その表情自体を『恐ろしい』と、思ったことはなかった。
ミコトに足蹴にされても足蹴にされても笑顔で戻ってきたときはそれはそれで戦慄を感じたけど。
それはそれだ。
なんにしろ、笑顔を恐いと思う人間はそんなにいない。まあ、スラギの笑顔に関しては、騎士団長はうっすら、でも確信的に思ってることもあったのだが。
『ああ、こいつ何にも興味がないんだ』と。
笑ってる、けど、
『見て』はいない。
だから、彼は脅威にならない。怖くない。
一応スラギが特別騎士などという地位に懇願のはてについている理由は、言ってしまえば『手綱』で他国に対する『抑止』のためだ。
けど騎士団長は思う。
ぶっちゃけ実際にスラギが戦争に、どんな形であれ参加することはないだろうと。
だってその周囲への興味のなさは筋金入りだ。
お気づきだろうか? スラギも、そしてミコトも。
あたかもラブイチャな恋人同士のように互いしか心の中にいないという衝撃の事実。
スラギだけではない。ミコトもである。あの淡泊なミコトもそうなのである。
というかむしろそれは一見、ミコトの方が分かりやすかったりすると騎士団長は思う。だってあれだ。ミコトったら表情は少ないわ言葉も少ないわ、時に発したそれは辛辣だわ。
これを『排他的』と言わずになんという。いやミコトさんスラギにも手厳しいけども。
そんなミコトに対してスラギは笑っている。口調はたいへん柔らかだ。言っていることを理解しようとしなければ良心的に見えなくもない。理解しようとすると理解できなくて欠片も親切心なんてないけど。
ただ、そんな柔らかさを排除して見ればあら不思議。
むしろ笑顔で全部拒否してるんじゃねと言いたくなるような馴染まなさである。
入ってこないでね☆と言われているような気さえする。なんで想像ですら笑顔で楽しそうなんだろう腹の立つ。
――まあその拒否っぷりの例外がミコトなんだけど。
わかりやすい例を挙げよう。
信じられるだろうか? なんだかんだ言いながらスラギと騎士団長は五年来の付き合いがある。それでも、一度だってスラギは騎士団長の名前を呼んだことはないのだ。
『団長』、と彼は呼ぶ。かつては『補佐官さん』、と呼ばれていた。
合ってるけど! 間違ってないけど!
ねえスラギさん、騎士団長の名前憶えてる? 覚えていなくても不思議に思わないけどちょっと泣きたくはなるよ?
そんなものだから、ぶっちゃけ騎士団長、ミコトの事を聞いた折にはちょっとどころでなく驚いた。
スラギに友達がいた、だと!?
しかもわんこのごとき懐きっぷり、だと!?
いったいそいつは何者だ!?
ぜひスラギのしつけ方の御教授を!
そうして出会ったミコトは自由人でした。
ままならない!