告白によく似ています
少しだけ真面目なお話です。
これか、これなのか。
一同に走った動揺、硬直は続行中。しかし騎士団長はどこか納得していた。
だって騎士団長は常々、あんなにミコトはすげなく容赦なく愛想がないのに、どうしてスラギはあんなになついているのだろうと大変疑問に思っていたので。
自由人ゆえの未知の原因があるのかと考えていたくらいだ。
だがしかしここにきてこのミコトのデレ。
これはきつい。普段冷淡にもほどがある分破壊力がえげつない。鉄面皮の麗人の微笑は非常に高度な殺傷能力を所有している。
これはやられる。
というか見事にやられた。
リリアーナもサロメもイリュートも呆けてミコトに見蕩れているというこの現状。
まってサロメさんあなたの旦那様こっち。
これには騎士団長も我に返って部屋の空気を割ろうとした。
が。
「そんなに驚かなくたっていいのに、大げさだねえ」
不意に横から声がして、騎士団長は顔を向ける。そこに立っていたのはいまだ呆けて此方の声は耳に入っていない様子の三人とミコトを、にこにこと笑いながら見つめるスラギだ。
その言い方は『仕方ないなあ』と言わんばかり。
騎士団長は物申したい。
「いや驚くだろ。ミコトさんって普段結構、……わりと……、かなり、手厳しいだろう」
あからさまに『手厳しさ』への形容詞のグレードがアップしたけど事実である。むしろ『大変』と言わないだけオブラートに包んでいる。
けれど、そんな騎士団長をスラギは緑の瞳で見据えた。
――そして。
ふわり、笑って紡ぐ。
「ミコトは、優しいよ」
その言い方こそひどく優しい調子で。でもきっぱりと言い切ったから、騎士団長は言い返すことができなかった。スラギは続ける。
「なんでもないみたいに、誰にだって手を差し出すやつだからね」
と。
……そうだろうか? 己の知るミコトという青年は優しいっていうか恐いっていうか。
騎士団長は記憶を振り返る。
それほど長い期間ともにいたわけではないけれど、ミコトはきっとスラギと同じで、やりたいことしかやりたくなくて、無駄が嫌いだ。
だからこの旅の始まりだって、不快そうにされて、利益を求められた。
伝家の宝刀『王命』がなまくらであることを証明されたことは簡単には消え去らない強烈な記憶である。騎士団長は今でも顔が引き攣る思いだ。まったく優しくない思い出だった。
が。
それと同時に現状を想えば、印象も変わるなと気付いた。
だって結局、旅にはついてきてくれたのだ。その振る舞いは奔放だけれど、行方をくらますことはしていない。
まあミコトが行うことも大概常識外れだけど。価値観の相違も甚だしくって遠い眼になるけど。
でも。
よくよく思い返してみる。そうすると、ミコトのそれは無意味ではなくて、此方が処理しきれないようなおかしい行動をスラギがしたら、その対処をするのはミコトだったと気付かされる。
言ってしまえば、今回の薬だってそうなのだ。それを用意したことも、王女に飲ませるという事への配慮も。言われるより先に毒見代わりに騎士団長の前で一口自ら飲んで見せたのだから。
今も薬を片付け王女の熱を測り、寝かしつけてサロメに細かい助言をしている。態度はぞんざいだけど。敬意のかけらもないけど。
――でも。ああそうか、と、思った。
「優しいのか」
意味がないことはしない。無駄なことはしない。甘やかすこともしない。
自由気ままで奔放で、冷淡な面と言葉で言いたいことはきっぱり言いすぎてたまに泣きたい。
だから一見、そうは見えないのだ。それを『損だ』などと欠片も思わないところが自由人たる由縁だろうけど。
でも思う様に行動している結果が今で、そこに計算などないのなら、思わざるを得ない。
かの黒き麗人の本質は、ひどくひどく、優しいのだろうと。
「うん。だからね、俺は、」
スラギは笑う。ミコトをその視界に納めて目を細める。
「ミコトが、大好き」
甘い甘い睦言みたいに零されたそれを、騎士団長は静かに聞いていた。
思う。
――この金色の青年の、世界の全てはあの優しい黒なのかもしれないと。