破壊力は強大でした
本日二話目です。
騎士団長を先頭に、三人はリリアーナが臥している部屋へと入室した。
ピリピリと看病に徹していた二人、そして病に苦しむリリアーナ。はたしてそんな室内の、突然やって来た男たちへの反応は。
「何しに来たのですか」
役立たずは出て行けとの副音声が聞こえたサロメの微笑だった。
特にその眼は自由人二人を射抜いて凍えている。
さもありなん病の元凶がやってくれば王女の容体は悪化する。分りやすい図式である。
王女が大事な侍女に黒と金は敵だった。
が。
「薬です」
騎士団長が一歩引いてミコトをさした。
サロメとイリュートがミコトの手元の薬瓶を見た。
それから三秒。
で、
ポン、と。
二人が一つ手を打ったのは同時であった。
見事にきれいさっぱり忘れていた事実が彼らの脳裏によみがえる。
『ミコトは薬師』。
数ある彼らのおかしい能力が驚愕ではなく感嘆をもたらす瞬間であった。
まあその手の中にあった薬の青緑を見てサロメの頬はひきつったけど。
しかし飄々とミコトは固まる彼女の横を通り過ぎて。
「起きれるか? 薬だ」
リリアーナに声をかけて当り前のように薬を差し出した。
それに反応してうっすらと目を開けたリリアーナ、はっと気づいたサロメの手を借りて体を起こす。
で。
「毒ですのこれは」
真顔で一言王女は言った。
わかる。騎士団長以下三人は思わずうなずいた。
しかしミコトは冷静に。
「薬だこれは。飲めば明日には楽になる」
言ったけどなんだろう、その言い方やめて。
まるで違う意味で『楽になる』かのように聞こえるのはなぜだろう。
いや風邪が治るから楽になるんだろうけど。昇天するから楽になるとかいう意味じゃないことは解ってるんだけど。
王女も顔をひきつらせた。
しかし。
「急ぐ旅なんだろう。飲まないなら治らんぞ。色が嫌なら目を閉じて一気に飲め。安心しろ、害はない。味もしない。――苦しいままではアンタもきついだろう?」
そんな王女の反応に気分を害するでもなく淡々とミコトは言ったのである。
王女をはじめとした四人はそれに思わず瞠目、硬直。
その顔は如実に語ってる。
ミコトさんが優しい、だと……? と。
しかし当のミコトは無表情のまま。
ただスラギだけがにこにこと笑ってみていた。
そして。
「――――っ」
金縛りから回復した王女は意を決してぎゅっと目をつむり、一気にその青緑の液体を呷ったのである。
そして開口一番言ったのは。
「……不味くありませんわ」
ミコトの正しさの証明だった。
言われた通り、不味くはなかった。というか味がしなかった。あたかも水を飲んだかのような。
その様子に騎士団長たちも驚愕。だってあんなに強烈な色だったのに。
王女も瞬きして、戸惑いも露わに傍らに立つミコトを見上げた。
だがしかし、そこで追い打ちをかけるのがミコトである。
すなわち。
「……いい子だ」
ほんのわずか、うっすら。
ミコトが笑って言ったのだった。
笑って、言ったのだった。
瞠目、硬直。
彼らの気持ちは一つである。
ミコトさんがデレただと……!?