本日のお天気は晴れ、ところにより豚です
それは今から二十年近く前の事である。
ミコトが七歳、スラギが八歳。
見た目だけはたいへん愛らしい二人組であった。見た目だけは。
まあそれはいいとして。
その日は何の変哲もない、よく晴れて小鳥のさえずりが耳に優しいうららかな春の日であった。
そしてその幼き日のミコトとスラギの所在地は山だった。
なんのことはない、その日を生きる食物たる山菜を採るためである。
問題は一つもなかった。
――いや、丁度その時二人が歩いていたのが崖に近い急斜面のそばであったということがこののちに起る事の遠因であるのだから問題と言えば問題であったのかもしれない。
ともかく。
その日その時である。
ふと。
上を見上げたのはミコトとスラギ同時であったのである。
そしてそこで見たものは。
見てしまったものは。
ひゅうんと。
むしろ効果音は『ズゴゴゴゴ』ってつけたかったけど。
まあともあれそれは。
――空から降ってくる、
豚。の、着ぐるみ。
――を着た爺さん、だった。
ちょっと意味が解らない。
普通の人間なら理解を越えて硬直することは必至だろう。
だがしかし、幼くても愛らしくてもミコトとスラギはミコトとスラギだった。
つまり。
見上げた。
見た。
避けた。
潰れた。
イマココである。
見事なまでにさっとミコトとスラギは避けた。タイムラグはなかった。
そしてやはり見事に着ぐるみはつぶれた。ぐしゃって言った。
「……」
「……」
「……」
おちる沈黙、微妙な空気。
豚の着ぐるみは動かない。
そしてミコトとスラギは――
当然のように何も見なかったことにして踵を返した。
「いやいやいや、待たんかガキども! 助けろ!」
豚から突っ込みが入った。
「「え……。めんどくせ」」
子供の声は揃った。
そして辛辣だった。
「正直なガキだのうお前ら!」
「うん、じいさん元気だよね~。助ける必要ないよね~」
「というか何してたんだ、あんた」
飛び起きて叫んだ着ぐるみに、二人は冷静だった。そして着ぐるみは元気だった。一応崖から落ちてきたんだけど元気だった。
そしてミコトの問いにやっぱり元気に。
「今なら飛べると思ったのだ!」
笑った。
飛べそうと思った? だから崖から飛んでみたって?
なるほど意味が解らない。
「なんでだ?」
「気分だ!」
「……その恰好でか?」
「飛べそうだろう!」
「いや全く」
むしろ豚の着ぐるみのどこに飛べそうな要素を見出したのか。
とりあえずミコトとスラギは結論を出した。
こいつは変人だと。