貴方も仲間です
もちろんジーノたちの叫びではことは収まらなかったがミコトの鶴の一声で場が収まった。
「いい加減にしろ、煩い」
そんな言葉だけだったが威力は推して知るべし。
一瞬で静まり返った部屋の中は耳が痛くなるほどでした。ミコトさん怖い。
しかし出ていくのは決定事項のようだ。ミコトの目に迷いはない。いつもないけど。むしろ迷いがあったことないけど。
混乱必至である。この世に神はいないのか。
(違うめっちゃいる。目の前にいる)
目の前の黒髪麗人が神だった。なにこれむごい。引き止める言葉が浮かばず、初歩的な混乱に陥るジーノである。
ジーノがこれではその他、王女も侍女も騎士もかける言葉がない。なぜなら自由人との交渉はジーノの担当だったからだ。そして前提として自由人の意志を覆すにはすごい根気と気まぐれという名の奇跡が必要だ。
「あのっ、ちょっ、」
本当に行くの? 行っちゃうの?
割と本気で、ジーノは縋るような目をしていた。
――と。
「阿呆が」
かつん、足を止めたミコトが振り向き、視線がジーノを射抜いた。
仕方ねえなとでも言いたげで、しかし優しげなそれに目を見開く。
ものすごく、場違いに、注目を集めてしまった。
「呼べば聞こえると言ったろうが。どうしても俺が必要なら呼べ。暇なら何処にいようと行くのはたやすい」
紺色の美しい瞳に、吸い込まれそうだった。
「あ、」
呆けたような声を出したジーノ。
しかしここで。
「分ったか、ジーノ」
特別製の爆弾を落とされた。
違うこれ優しさじゃない。
だってミコトに集まっていた周囲の視線が、電光石火でジーノに戻ってきた。
ゴッて音がした。充血した目を見開き眉を歪ませ口元はひきつったものすごい形相をしている者が周囲にたくさん。
ぎぎ、と視線をそちらに向けた。
心から後悔した。
とても怖かった。
すごく怖かった。
国王やその周囲の騎士団員その他は困惑しているが、騎士団長の周囲……そう、王女・リリアーナ、侍女・サロメ、騎士・イリュート、魔国宰相・ガイゼウス、魔国近衛隊長・ファルシオ、魔王側近・アスタロト、雪男・アリ、ユニコーン・オリ、世界樹の化身・ハベリ、黄龍・イマ、精霊の長・ソカリ。
彼らの目は語っていた。
お前、いつの間に抜け駆けしやがった、と。
「……騎士団長様? どういうことですの?」
「あなた、ご説明を」
「団長、……どうして?」
「ジーノ殿、儂にもご教授いただきたいですな」
「盟友と思っておりましたが、……ジーノ殿?」
「ジーノ殿、こちらへくるであります」
「吾輩も教えてもらいたいものでござるな」
「さて、時間はあるのだ」
「……ジーノちゃあん? ほおら、怖くないわよお?」
「ねーっ、速く教えてっ……?」
「妾ら全員、この場で欺けると思うてか? はよう、吐くのじゃ」
すごく怖い。
すごく逃げたい。
だってみんな薄く微笑んでるのに誰一人として目が笑っていない。
何この尋問。何この矛先の急転換。ミコトを引き留めるあれがまさかのジーノを追い詰める公開処刑の場に早変わりして自由人にそこまで傾倒してない国王たちがすごいドン引きしているけど気おされていて何の助けにもならない。
涙目で今にも去ろうとしている自由人たちを、みた。
が。
「「「ジーノ、がんばれ~」」」
三重唱は金赤茶白。
そこには綺麗に笑ってひらひらと手を振る悪魔しか、いなかった。
なおミコトさんはいつのまにかいなくなっていました。
心の底から人でなしだと思いました。