つまり自由人は最恐です
残酷! この自由人なんて残酷なんだ!
完全放置宣言に驚愕の目でジーノはミコトを見た。この人数をこんなことにしておいてまさかの。
確かにもう十分だし、そもそも『お仕置き』なのだから自業自得かもしれない、それでもこうしたのはミコトなわけで。
「拾ったものは捨てちゃいけないと思います……」
もっともしっくりくる表現を探した結果、ジーノはそう口走った。
あ、言葉選び間違った、と瞬間思ったが誰も疑問に思わなかったようなので気づかなかったことにした。
と。
「何を言っている」
心底不思議そうに目を丸くして、口をはさんできたのは白い人だった。
乃ち魔王・ヤシロだった。
お前が何を言っているんだ。今の異様な魅了作用と心酔具合と突然の突き放しを見ていて何も心に響かないのか。ここでもミコトの言うことは絶対とかいう至上主義を掲げて、かつ己はミコトに優先されているという自慢でもするつもりなのか。追い打ちか。
ジーノは胡乱な視線をヤシロに向けた。
が。
「私の国民にも同じことを言ってミコトは行方をくらましたが私の国民は元気だ。問題なかろう」
ヤシロのこの発言に一瞬ジーノは思考を停止しました。
「………………………………あっ」
そう言えばヤシロは魔王=魔族の王だったと思い出した。
つまり魔国国民がいる。
そう、あの、ミコトのグッズに狂喜乱舞し大地を揺らし軍隊の出動まで巻き起こして暴動を治めなければならなかった熱狂ぶりを発揮した、魔都・カンナギ。その都民が、いる。
「……あんたあの人たちにも同じこと吐いて放置したのかよっ!?」
完全に信者だった魔都民。
すごく怖い思いをした大地の揺れ。
確かにあれは元気だったというか、元気すぎた。
ヤシロの長い髪がバッシバシ当たって痛かったことまでジーノは覚えている。だって数日前の実体験だもの。
これまでのあれこれ、というかとても長かった昨夜の記憶が色濃くてちょっと記憶の隅に追いやられてたけど。
いやでも、万人が同じとは限らないし、てか各地でやらかしているとはミコトの身勝手が留まるところを知らない。
と、思っていた。
が。
「あはっ。ミコトはそうするにきまってるじゃない~。ていうか、皆のものじゃないからね? 俺のものだから」
「馬鹿言ってんな。俺のもんだ。なあミコト」
「戯けたことを。ミコトの傍に相応しいのは私だ」
そんな妄言を皮切りに喧々諤々、わりと物理が入って騒ぎ出したのは金と赤茶と白の自由人どもでした。
そこに希少魔族五人組が参戦していかないのは、名前を呼ばれるか呼ばれないかというボーダーラインを恐らく理解しているのでしょう。
そして、そんな光景をジーノは、ついいつもの、死んだ目で見ていました。
同じくそんな三人を見ていたミコトは、ただぽつりとつぶやきました。
「……阿呆どもが」
心なしか本当に呆れが滲んでいるような気がしました。
「……ああ、」
ジーノは理解した。
希少魔族五人組はきっとわかっていた。後ろの魔王側近組とユースウェル王国友好使節団組も理解したことだろう。
自由人眷属組の嫉妬という名の暴走を起こさないためという意図も、ミコトの言動にはたぶんに含まれていたのだ、と。
面倒臭い、というのも後のことなど関知しない、という身勝手もミコトの本音だろう。そこは揺るぎない。だって自由人だもの。
でもあれだ。ミコトが万一気まぐれを起こして、不特定多数を侍らしたら、……あれだ。金と赤茶と白の悪魔が降臨して血の海ができる。
むしろ人間界は破滅する。
魔族界は一応仮にも白い自由人は魔族の長なので生き残るかもしれない。ちょっと断言できない。
なぜなら大分常軌を逸して、あの自由人たちはミコトを愛している。ミコトだけを、愛している。……愛しすぎているのだ。
冷汗が頬を伝った。
ミコトの無関心ありがとう。
本当にありがとう。
あなたのその残酷な、しかしある意味平等な仕打ちに多分人間は救われているんだね。
ならば仕方がない、セルジア皇国皇室御一行には諦めていただこう。
そう思ってジーノはそっと、ミコトの言葉に打ち震えていた皇室御一行に目線を向けた。そして声をかけようとして――――聞いた。聞いてしまった。
「皆の者、聞いたか。信頼して任されたのだ、吾が君よりご用命、しかと果たすのだ!」
『言われずとも!』
キラキラしていた。
どうやら彼らは歓喜に打ち震えていたようだ。
なぜミコト信者はこうも前向きなんだろう。
ちょっと理解できなかったジーノだった。