そんな馬鹿な
ジーノは手を挙げた。なぜ己はこんな役回りなのだろうと呪いながら手を挙げた。
自由人の視線が一気に集まって訝しがられた。
彼らはいつでもどこでも自由なのに挙手には必ず気づいてくれるのはなぜだろう。優しさだろうか。そしてジーノたちがこの特性を知ったのが何時だっただろう。お蔭でこのスタイルが確立されて等しい。
……スタイルが確立されるほど不可解な状況に疑問を呈し続けてきた事実が、わびしい。
ともかく。
「質問です。御一行はなんでそんなことに?」
挙手した手でそのままそっとセルジア皇国皇室御一行を指したジーノ。ちなみに明確に言葉にするのは避けた。哀しくなってくるからだ。
すると。
「あははっ、わかんない~」
「俺も知らねえよ」
「私たちは見ていただけだからな」
満面の笑みのスラギ、肩をすくめたアマネ、うむと頷いたヤシロ。
ジーノたちはばっとミコトを見た。
それすなわち。
「おお、やはりミコト殿の実力でござるか」
「ここでやってくれてもよかったのだ。見たかったのだ」
「ミコトちゃん、すてきっ!」
「えへへっ、ボクはミコトだって思ってたよっ!」
「ミコトの実力ならば安いものだのぅ」
キラキラと拳を握る雪男、口をとがらせるユニコーン、頬を染めてくねる世界樹の化身、両手をぶんぶん振り回す黄龍、バサリと扇で口元を隠す精霊の長。
確かにそういう事なんだけど無駄に賞賛しないで。調子に乗るミコトさんじゃないけど複雑な気分になる。あんな被害が出ているのに何言ってるのこの人たち。
が。
「ミコト様……」
「ご主人様……」
「吾が君……」
案の定賞賛を華麗にスルーしたミコト、その沈着さに、恍惚としていたのは当のセルジア皇国皇室御一行でした。
なにこれシュール。
あれなの、もしかしてミコト至上主義に染まり切ってないジーノたちが可笑しいの? ジーノたちが異常なの? そっち側が正しいの?
確かに比率的にミコト信者は自由人三人+希少魔族五人+セルジア皇国皇室御一行二十人=二十八人。常識を遺した面々はユースウェル王国組四人+魔王側近三人=七人。
何だこの圧倒的ミコト信者。
いや、考えてはだめだ。
ともかく。
「……ミコト?」
勇気を出して、しっかりした声で。本人に、聞いてみる。
が。
「知るか」
「そんな馬鹿な」
あなたが知らなかったら誰が知っていると。
「あいつら本人に聞け。俺は少し話しただけだ。勝手にああなった」
「そんな馬鹿な」
何それ怖い。
そっともう一度、セルジア皇国皇室御一行を見た。そうか確かに端的なことしか言わない自由人、しかも明らかにに面倒臭がってるミコトに聞くよりも当事者に聞けば、……
「ミコト様、お話ならばお椅子を、」
「わたくしめが椅子に、」
「いいえ吾輩こそ椅子に、」
「いっそ踏み台に、」
駄目だ彼らの操る言語は理解ができない。
一瞬で判断したジーノたちは何も見なかったことにして視線をミコトからその周りの自由人に固定した。
「見たままでいいので、教えてくれないかな?」
頼んだ。すると思いのほか。
「えっとね~、まずはミコトが精神魔法であの人たちを固まらせてね~」
「それからくいっと顎を掴んでだな」
「ふっと嘲笑していたな」
「あはっ、そんでそのままぶん投げて~、その上に座ったんだよねえ」
「それから椅子になったやつの耳元でなんか言ってたけど聞こえなかったな」
「まあ顔色は最初に真っ赤になったと思えば青くなって土気色になって最終的に真っ白になっていたが、ミコトが次に行くころには、」
「「「頬を染めた『アレ』が完成してた」」」
そしてミコトはバリエーションはあれども最終的にそれを全員にやりました、とにこりと綺麗に笑って教えてくれた彼ら。引き攣った顔でジーノたちはたった一言。
『……何それ怖い』