彼らは『そういう生き物』です
「……なんで、この国に来たんだ?」
その壮大な気まぐれの末に。
騎士団長の目は先ほどまでのうれしさなど微塵も残らず死んでいた。
しかし自由人の追撃は止むことはなく。
「え~と、なんだっけ?」
理由など忘却したことを報告された。
覚えてないほどの些細な理由?
それで旅を打ち止めにして定住したの? 就職したの? いやスラギに限れば頼み込んで転職してもらったんだけど。
ちなみにスラギは王国特別騎士になる前は一応冒険者という職業についていた。
魔王がいて魔物がいて魔法があるこの世界には当然のように冒険者ギルドも存在するのだ。
世界共通の巨大なギルド組織である。そんな場所に所属していたスラギ。
そんでもってそのランクは燦然と輝く最高位・Sだった。
パーティは組んでおらず常に単独行動、ギルドに残っているいろいろ色々頭のおかしい伝説の犯人でもある。
そしてパーティは『組まなかった』んじゃなくて『組める人間がいなかった』が多分正しい。
主に精神面において。
そんな彼の二つ名は『金色の不死鳥』。
騎士団長は思う、その由来、別に火魔法に突出しているとかいうわけではなく、空飛べるからとかいうわけでもないのだろうと。
火魔法どころか全属性ぶっ飛んでいるのは周知の事実で、空は飛べるけど重要なのはそこじゃないのだ。
きっとただただ『殺しても死なない』って言いたかった、それだけだ。
ともかく。
話を戻そう。
『なんだっけ』とかとぼけたことを言い出したスラギを横目で見ていたミコトが言ったのだ。
「俺が言ったからだろう、『飽きた』と」
……。
ああ、飽きたんだ。だから旅やめたんだ。なるほど。
見事なまでに些細な理由だった。
「あ、そうだったね~。そっか、それで雑貨屋始めたんだよね~」
そっかそっかとスラギはやっぱり笑っている。
つまり。
ミコトが『飽きた』のがたまたまこの国の王都だったと。
だからそのままミコトは定住して、まだ遊びたかったスラギはミコトの店と旅とで行ったり来たりのフラフラな生活が始まったと。
「ああ、そのふらふらしてる時だったのか、お前が盗賊を一網打尽にしたの……」
遠い眼で騎士団長はつぶやいた。
それにスラギは。
「そうだよ~。山に入ったらおじさんたちが向かってきたから、ちょっと一緒に遊んだんだよね~」
壊滅させて簀巻きにした挙句、その盗賊団の討伐作戦練ってた騎士団の駐屯所に笑顔で放り込むのは全然『ちょっと遊んだ』じゃないと思う。
そしてそんな『ちょっとつまらなかった』とか言われても、あれは凶悪で有名な、賞金首が何人もいるような一大盗賊団だったんだけど。
まあ、その事件がきっかけでスラギと知り合い、その一騎当千どころか万でも億でも笑顔でひねりつぶすだろう過剰戦力を知って、特別騎士として引き摺りこむ騒ぎにまで発展したのではあるが。
「え~。やだ」とか言いながら笑顔で行方をくらますスラギを見つけるのに時間のかかったことかかったこと。
ちなみに。
「「普段は仕事ないから! 自由にしてくれていいから! 報告書も要らないし用事ない時は登城しなくていいからああああああ!」」
そう叫び倒して「じゃあ、まあいっか~」との言質をもぎ取った騎士団長と国王は半泣きだった。
だが、騎士団長は今でも思う。
確かにスラギは強い。魔法がなくても過剰戦力だ。今では全属性保持という規格外も発覚している。だからいろいろな安全のためにも、国力の為にも味方でいてほしい、味方である保証が欲しい。
それは正しい考えのはずだ。
けれど思ってしまうのだ。
選択、はやまったんじゃねと。
だって王国特別騎士として、名目上は首輪を嵌めたはずなのに機能している気がしない。行方をくらます命令を拒否する、自由な笑顔に殺意がわく。
それでも王都に何度も戻ってきてたから効果は一応あったと思っていたのにそれさえも間違いだと判明したし。
だってあれだよね。騎士団の為じゃなくてそこにミコトさんがいるから帰ってきてたんだよね。
この駄犬が!