報告は必要です
どこら辺がどう大丈夫なんだろうか。
困惑も露わにジーノたちは宰相・ガイゼウスを見つめ返す。それから近衛隊長・ファルシオ、側近・アスタロトへと視線を移すが返ってくるのは一様に落ち着いたまなざしで。
「?」
首を傾げれば、すっと。それはそれは自然な仕草で、宰相・ガイゼウスは窓を指差した。
「見なされ」
その言葉も合わさって手の動きにつられるように、ジーノたちは外を見て……
ああ、と理解し肩から力を抜いたのはジーノだった。
しかしその他、王女・リリアーナ、侍女・サロメ、騎士・イリュートの三人は未だ戸惑いに眉をひそめている。
「何を見ろと言っていますの?」
「恥ずかしながら、只の景色としか……」
「どこ、みるの……?」
彼らは口々に訴えた。
すると眉をあげて魔王側近組は意外そうに。
「……まだ、知らなかったのですか?」
「とっくにご存知とばかり思っておりましたぞ」
「騎士団長様だけが、ご存知のようでありますね」
最後の側近・アスタロトの言葉。それが放たれた瞬間に、すさまじい速さと目のぎらつきで仲間からにらまれたジーノの心境は、思いのほか、恐怖がまさっていました。
だって彼女たちの目は語っていた。
『なぜ、お前だけが知っている』
『なぜ、すぐに教えない』
うん、悪かったと思うから憎悪の瞳はやめて。だってジーノの方が自由人に詳しいのは仕方がないじゃないか、対自由人がかりに強制就任しているのがジーノなのだ。普段の心的負担を考えれば情報共有が遅れたことぐらい大目に見てくれ。
というか、ジーノだって知ったのはつい最近で、その時一緒に語られた内容は他言を躊躇うものだったのだから。
誤魔化すように、ごほんと咳払い。魔王側近組を見ればどうぞとばかりに説明係までも投げられたので、ため息をついて苦笑する。
そして。
「俺も、つい昨夜、知り得たことだったので。ガイゼウス殿たちが言いたいのは、景色は景色ですが……よく見てください」
謝罪を織り交ぜつつ窓辺に寄ったジーノ、それについてくる王女たち。
じっと、再度彼女たちは外を見る。外は青空。白い雲。輝く太陽。本日実に快晴である。
「……何が可笑しいというのです」
「何も変わらないようにしか、」
王女、侍女。眉を寄せたままジーノを振り返って訴える。が。
「……あ」
唯一間の抜けたような声をあげた騎士。
「……イリュート?」
王女・リリアーナがジーノから傍らの騎士に視線を移しその顔を覗き込む。
と。
「姫様、……あれ、みて」
見開かれた騎士・イリュートの目、指差された窓の外。
ジーノは微笑んでいて、王女と侍女は困惑しながらも騎士・イリュートの指し示す先に視線を投げる。
景色は変わらない。......変わらな過ぎる、
「「あ、」」
上がった声は同時だった。
次の瞬間頬がびしりと引き攣ったのも、シンクロしていた。
「鳥……浮いてる」
「雲、も……動いてませんわね……?」
「下方に見える、兵士らしき影も、微動だにしておりませんね……」
泳ぐ視線信じられないという感情をにじませた声音。
ぎぎっ、と最終的に彼女たちはジーノを見て。
「ミコトです」
一言だった。そしてそれが全てだった。
「「「……」」」
「ミコトによる時間操作の賜物です。いつから止まっていたのかは私にもわかりかねますが……やったのは、ミコトです」
あまりにも三人から返って来たのが沈黙一色だったので捕捉するジーノ。
「多分、この部屋に転移した時には止まっておりましたな」
「面倒くさいことは、お嫌いですから」
「ミコト様は実に周到であります」
そんなジーノにさらに捕捉する魔王側近三人組。
そうか、最初から止まっていたか。
がくり、膝から崩れ落ちた王女たち、その気持ちすごくわかる、と憐憫の瞳のジーノ。
部屋の中には希少魔族五人組のキャラキャラとした笑い声だけが、響いていた。