堂々としていたら怪しまれない、訳がありません
「ちなみにどこに入るつもりなんだろう」
引きつく頬を根性で抑え込んでジーノは尋ねた。
すると眉根を寄せてミコトが答えた事には。
「阿呆か。こいつの中にきまっているだろう」
そうしてミコトさんはホワイトニング君を指しました。
なぜ決まっているのだろうか。この状況でアホと罵られる対象が己であることに理不尽を感じるジーノは間違っているだろうか。非常に微妙な顔を晒したジーノだったが、しかし次の問いには。
「お前もいくか?」
「いいえ行きません」
即答だった。
出てこられなかったらどうするつもりなんだ。飄々と自分でできるだろうとのたまって置き去りにされる可能性の高さにチャレンジ精神など疼かない。安全第一。好奇心は猫を殺す。
けれどジーノの即答に返されたミコトの返答も早かった。
「そうか。ならば待って居ろ」
そして次の瞬間黒髪の麗人は消えました。
ついでに金と赤茶と白も、消えました。
なんでお前らも消えた。見学か? それとも加勢か? どっちにしろ恐怖しか覚えないけど止める間もありませんでした。なんでこんな時だけ行動が速いの?
……というかやつら、密室で、何をするつもりなんだ? あの自由人どもがそろい踏みで、セルジア皇国皇室御一行を、如何する算段なんだ……?
……悲惨な光景しか浮かばない。何故なら彼らの内四分の三は大陸消滅を画策していた中心人物だ。
ミコトさん、大陸消滅は難色を示したけど、セルジア皇国へのお仕置きは宣言してたから……。
ブルリと震えが走った遺された面々。
現実逃避気味に立ち尽くし、沈黙に場が支配され、だからこそ己のことに考えがなかなか至らなかった。
はた、と気付いたのはおそらく大体同じ瞬間で。
「ミコト様が不在で、わたくしたちが見つかった場合……皇族誘拐としてとらえられるんじゃありません事……?」
ぞっとしない未来を口にしたのは王女・リリアーナだった。
正にそれだ。
特に王女・リリアーナと現伯爵家当主にして騎士団長・ジーノは顔が割れている。大変、不味い。そしてユースウェル王国友好使節組以上に、一緒にいる八人……魔王側近組と希少魔族五人組が、やばい。
なぜなら彼らは魔族だからだ。
現時点でようやっと鈍い脳みそを回転させて世界で初めてユースウェル王国が魔王に友好使節を送ったのだ。
つまり、大体の人間国家において魔族は恐怖の対象乃ち敵。
なおかつ王族が消えうせた城の中、不法侵入も甚だしい。しかも堂々としていてふてぶてしいことこの上ない。
同じことがユースウェル王国で起ころうものならばジーノは迷わず彼らを誘拐犯と断定し捕縛にかかるだろう。
捕縛できるかどうかは別の話だが。
そしてそれらと一緒に親し気にしている『人間』も、共犯とみなすことは想像に難くない。
そのうえで隣国の王族・貴族とばれたら本当にどうしようもない。
違うんです、これは自由人による巻き込み事故なんです。自由人の行動を変えさせようとするには多大な労力が必要であって、今回展開がいろいろと早かったものだから説得する時間が与えられなかったんです。
努力はしたんです。
いや、そもそもの発端はセルジア皇国がミコトにやらかしてその周囲を怒らせたっていう愚行なんだけど。
でもだからと言ってそれとこれとは別というか、そんな事情を説明する暇など与えられるはずもないのだからこの際いっそ背景事情は関係がない。目の前にある現実が全てだ。
やめてくれ。
何処に、どこに逃げれば。これはあれか、むしろミコトの誘いに乗ってホワイトニング君の中にチャレンジしてみるのが正解だったのかそうなのか。
どっちも、切実に、いやだ。
絶望し悲嘆にくれ項垂れた、ユースウェル王国友好使節団一行。
その横で希少魔族五人組は和気あいあいとしている。
さらにその横で魔王側近組はちょっと疲れたように息をついている。
……ちょっと待ておかしい、なぜ思ったより魔王側近組は落ち着いているのだ。彼らほどの魔族となれば人間の攻撃など露払いに等しいだろうが、外交問題は仕事が増えるので嘆き案件のはずだ。
なぜだ。
訝しげに、宰相・ガイゼウスを見つめた。――と、
「大丈夫ですぞ」
サムズアップされた。