全力で平和が逃げていきました
よおし、平和が遠のいたらしいことは感じた。
とりあえずなに喜んでんだ最後の発言者もとい自由人ども。
ミコトに拠るミコトの為の凄惨なる制裁がセルジア皇国皇室に巻き起こることを期待しているかのようなわくわくな瞳はやめて。子犬のように純粋だけどその向こうで願っているのは血なまぐさい惨劇だろ知ってる。
ともかくも。
「『お仕置き』なるものの中身は、いかに」
冷汗だらっだらで、聞いてみた。
のに。
「見ればわかる」
「見たら遅いんだよ」
間髪入れずに返したはずジーノ。
だがしかしそれは正しく『はず』に終わったことを次の瞬間思いしる。なぜならば。
――ひゅう、と。
風を頬に感じたからです。ジーノは、自分の発言が終了しない時点ですでに手遅れであったことを知りました。
……なぜ?
それは、
「うわ、変わってねえな、まあそうか」
「俺はちょっと久し振り~」
「私も同じくだな」
きゃいきゃいと世間話に興じる自由人たちがいて。
「「「……ああ、仕事が」」」
諦めの目でつぶやいた魔王側近組がいて。
「特等席でござるな」
「高みの見物も乙なのだ」
「イイオトコがいたら遊びたいわあ」
「あーっ! ほらほら、人、いぃっぱい!」
「はよう、演目は始まらんのかぇ?」
観光客かよな客人五人組がはしゃいでて。
「「「「………………っっっっ!」」」」
絶句・硬直・顔面蒼白のスリーコンボなユースウェル王国友好使節団がいたからです。
ではここで現在地の簡潔な説明をしよう。
上には青空下には街並み。
空中です。
「……っっっっっ!!」
声にならない悲鳴を上げて王女と侍女が、騎士と騎士団長が手に手を取った。
ミコトですね解ります。
転移ですね重力魔法ですねプカプカ浮いてるんですね知ってます。
でもね、理解してるのと現実って違うと思うの。
なぜユースウェル王国友好使節組以外は冷静なんだろうか。慣れだろうか。その冷静さは欲しい気もするがそんな残酷な慣れは御免蒙るのでやっぱいらないわ。
ともかくも。
目に痛いカラフルさも巨大に過ぎる世界樹・魔王城も見えないところからして人間大陸。そしてなにより。
「やめてくれ幻覚だろう直球過ぎる本当に」
うわごとのように真っ青の顔色でつぶやいたジーノは悪くないと思う。
なんでって眼下に広がる街並みの中ひときわ目立つ建物にジーノは見覚えがあります。
そんなジーノにとどめを刺した会話がこちら。
「あの城だよねえ」
「おう。俺が出てくるときにちょっと壊したんだけど、修繕は終わってる見てえだなあ」
「全部潰して来ればよかっただろう」
「ははっ、俺もそれ思ってるぜ」
金と赤茶と白い人の一見ほのぼのな会話です。
ほのぼのなのは彼らの楽しそうな表情だけで内容も現在地も周囲の心象も全くほのぼのしてないけど。
そしてやっぱり、そうなんだね。
あれは、あの無駄に絢爛豪華な城、眼下に広がる都市。
此処はセルジア皇国皇都上空ドンピシャリですね。
……。
沈黙、瞑目。
そして。
「なあ、アマネさん」
ふとジーノは顔をあげ。
「そう言えば、アマネさんの本名? 皇子としての名前? は『セドリック・セルジア』だろう。なんで『アマネ』って名乗ってるんだ?」
タイミングを逃して燻っていた疑問を投げた。
現実の全てから逃避した結果だったことは、全面的に肯定する。