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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
人間大陸編
230/254

着実なる悪影響の結果がこちらです


 ちなみに。


「……追って、沙汰は下すことになるが……イリュート。なぜ、こんなことをした」


 問うたのはジーノだ。


 家族を人質に取られた。脅されていた。だから、言いなりになるしかなかった。

 それは理解できる心理だ。


 けれど、『仕方がない』では済まないのが国というもので、それに属している騎士、しかも王女付となれば言い訳すら許されない。

 一族郎党処刑もあり得る。


 まあ恐らく今回は、死刑まではいかない。国内の重大事項や王女の情報については語っていないし、スラギに関しても観察日記だ。あれはもともと自重していないから、冒険者ギルドを通しても、本人の自由気ままも過ぎる奇行を通しても、イリュートが報告するまでもなく知り得る範囲のことでしかない。むしろ『この規格外がなんと一応味方です』という牽制にすらなる。


 そして、ミコトは、彼はユースウェル王国に属しているわけではない。いや、国に住んではいる。けれどその出自をたどればセルジア皇国に住んでいた時期もある。

 そもそもミコトやかつてのスラギ……おそらくは今はアマネも、どこの国にも属さない『由民(ゆうみん)』だ。


 身分や国の庇護をすべて与えられない代わりに、全ての国を自由に行き来する権利を持つ。一部の孤児や元奴隷、冒険者がこれに属すことが多い。ミコトがそうであることは、そもそもこの旅に出発する時分に本人から聞き知っている。


 ぶっちゃけて言えば『由民』は自由度は高いが相応の能力がなければそうであり続けることは難しい。

 彼らは個々の能力が高く結束しないし、大抵の場合群れない。利害の一致以外で助け合うことはおよそないし、それで何とかなるのが彼等だ。だからこそ各国が、『由民』を自国に引き入れようとするのだが。


 スラギがいい例だ。

 スラギはミコトが行方をくらましたら即刻一緒に去っていく気満々だけど。


 ミコトは、今はユースウェル王国で商売までしているが、飽きればきっと不意に姿を消すのだろう。


 ミコトやスラギ、アマネを知れば知るほど、ああこれが、と納得してしまう。

何せ彼らは『由民』の見本のような生き方である。

 気のむくままふらふらして不意に行方をくらませて誰の庇護もなくて十分生きていけて、各国が喉から手が出るほどに欲する逸材。


 自由人にはぴったりだと思うよ。組織も国も、集団行動さえも似合わない人たちなので。


 ともかく。


 そんなこんなで、現状『由民』のミコトにくちばしを突っ込む権利はユースウェル王国にはない。

 とすれば、『自国の貴族誘拐』というカードを使って有利に交渉を進められる可能性すらある現在、罪状は情状酌量も入って、悪くて爵位剥奪の上国外追放。良ければ協会預かりで済むはずだ。


 だがしかし。


 だからと言って罪は罪。その行為自体が既に許されはしないのだ。


 ジーノ、侍女・サロメ、そして王女・リリアーナ。それから空気に近いが宰相・ガイゼウス、側近・アスタロト、近衛隊長・ファルシオ。六人の視線は騎士・イリュートに集中する。


 が。



「……ミコトさんの事、話せば、……あの国、なくなるかなって」



 こてん、と。

 可愛らしい、仕草で。


「俺の可愛い部下が知らないうちに腹黒になっている!」


 ジーノは絶叫した。


 待って待って待って。ぼんやりしていた部下が。ジーノは彼の幼少期も知っている。あの優しい少年が!


 怖い怖い怖い! 策士なの? 計算ずくだったの? 今まさに自由人と魔族の間でセルジア皇国駆逐作戦が着々と完成しようとしているのを実はジーノたちは必死で聞かないようにしています。隣の畑は焼け野原(物理)。とんでもなく不穏な単語をとても楽しそうに語るあの集団は更地を作るつもりです。


 騎士・イリュートは実は怒り心頭だったのか。いや、怒り心頭で当然だけどまさかの自由人を利用しようとするのか。


 なんという剛胆さ。色んな意味で震えたジーノたち。

 なのに。


「ああ、合理的な考え方だな。あいつらをよく見ている」


 いっそ当然だとでも言いたげに黒髪の当事者様は評価しました。


 何言ってんのこの人。何言ってんのこの人? ジーノたちはガン見した。しかし御尊顔はただただ麗しかった。目がつぶれそうだったので見るのをやめた。


 そしてくるり、騎士・イリュートに視線を戻して。


「だが、そのあとのことは?」


 騎士・イリュートの言い分では、情報漏洩がばれることが前提だ。


 が。







「……陛下、いいよって」







 ……オッケー、まとうか。前提を覆してきやがった。





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