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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
人間大陸編
228/254

自由研究です


 ここで話を要約しよう。


 騎士・イリュートの言う事には、初めは確かに金髪の悪魔ことユースウェル王国特別騎士という立場に成り行きで収まっている癖に全くその責務を果たしていないばかりかそんな責務なんて実は存在しないんだという言質を国王から直々に手に入れ腐ったスラギの報告……のようなことをしていた、らしい。


 曰く、今日もスラギは道行く生態系を破壊する勢いで狩りを楽しんでいます、とか。

 曰く、本日も歩くのに飽きたのか空に打ちあがっては自由落下を繰り返しているスラギの笑顔が眩しいです、とか。

 曰く、明日はそろそろ青空を見飽きたので自家製雷雨を巻き起こす予定だそうです、とか。


 そんなこともあったね。


 しみじみとしたユースウェル王国友好使節団の面々である。


 しかし同時に彼らは思う。


 それは只のスラギの観察日記ではないだろうかと。


 自由人の思考回路は非常に単純故に複雑怪奇であることを見せつけてセルジア皇国の面々を戦慄させているだけではないだろうか。

 セルジア皇国の面々の精神衛生は大丈夫だろうか。直接見ていない分インパクトは薄れるが、なんとも言えない顔で報告を受けているのが目に浮かんでしまう。


 同情などしないが。

 ちなみに。


 騎士・イリュートの連絡手段はごく単純に『魚』だそうだ。騎士・イリュートの魔法属性は水。水に文字としてインクを落としてそれを魚の形にして運ぶ。魚を紙に落とせばしっとりとした手紙の出来上がりだ。一般的な連絡手段である。


 これがジーノのような火属性や雷属性であれば鳥の形で飛んでって紙に焦げ跡で文字を作る。香ばしい手紙の完成である。風や土なら物理で紙を運ぶことも可能だが。


 ともかく、そんなものだから川や海の近くで騎士・イリュートは手紙を出していたそうです。


 そんなスラギの観察日記を繰り返していれば、当然のようにたびたびとミコトの容赦ない鉄拳制裁についても触れていた、らしい。

 金髪の悪魔を叩きのめすさらなる悪魔の顕現である! と、セルジア皇国は沸き立った、らしい。


 その沸き立ち方はどうなのだろうか。

 悪魔を叩きのめす『悪魔』に喜ぶのは矛盾ではないだろうか。


 まあいい。


 ともかく、スラギはすでにユースウェル王国に属しているがミコトは違う。これは略奪案件であると思い至ったらしい。


 単純思考なのだろうか、それともただただかわいそうな頭なのだろうか。


 普通に考えてスラギが怖いならミコトはもっと怖い。『悪魔』と評すのならば判っているのではないのか。その命名は只の本能で目を逸らしているのか。


 気持ちはわからなくもないが現実を見るべきだ。


 むしろ笑顔で『やだ~』としか言わないスラギに対してミコトはただ一言『阿呆か』と吐き捨ててそれ以降完璧に行方をくらましそう。それでも探して煩わせようものならものの半日で一国くらい根元から転覆させそう。


 なおかつて彼らは某連邦を三日ほどで崩壊させた輝かしい実績があります。

 それでも彼らを敵に回してみますか?


 自由人は一人いれば過剰戦力なのに、ここに集結している彼らはとても仲が良すぎるのでもれなく全員ついてきます。今ならおまけで希少一族な雪男・ユニコーン・世界樹の化身・黄龍・精霊の長もつくよ。


 人間大陸の寿命はすぐそこなのだろうか。

 手の込んだ自殺だろうか。


 巻き込み事故はやめていただきたい。

 本当にやめていただきたい。


 ていうか、だ。


 ミコトに関しての騎士・イリュートの報告の一部を晒そう。


 曰く、本日のフルコースは前菜も美しくメインの肉は舌の上でほどけて消える柔らかさでした、とか。

 曰く、本日のパンは焼き立てで胡桃も香ばしく、隠し味の香辛料と相性が抜群でした、とか。

 曰く、本日のランチは色どり・栄養バランス・量、全てが調和されていて完全に胃袋をコントロールされているようです、とか。


 なんという美味しい記憶。


 思い出によだれをたらしながらユースウェル王国友好使節団の面々は思った。今日のお昼はサンドイッチを出してくれないだろうか。


 ではなくて。


 ともあれそんな報告が大半だったらしいが、甚だそれはミコトの観察ではなくただのグルメリポートではないだろうか。

 いやミコトさんを語るうえでおいしいご飯は欠かせないけど。


 でもシェフとして目を付けたはずはないから、やはり。


「割と自然な感じでオプションに成り下がっているミコトの特異性について」

「……つい、」


 紛れ込んで、語ったらしい。






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