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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
ユースウェル王国内編
22/254

多分色々大丈夫じゃないけど気にしたら負けです


 その後の事である。

 スラギの無双でたいへん簡単に魔物との遭遇を乗り越えたため、予定通りサクサク行程をこなして現在地は今晩の宿泊宿である。


 いつも通りスラギは狩りに出かけた。本日は別に眠くなかったらしい。明日の安全と快適はおおよそ確保された。


 スラギが気まぐれ起こして一網打尽にしないという可能性は消え去らないけど。

 予測不能が代名詞なのだからどうしようもない。


 まあいい。


 そしてミコトである。こちらもやはりいつも通り、夕飯の支度にとりかかってプロ顔負けの手際の良さで滑らかかつ流麗に動いている。

 その姿は芸術に等しいものがある。


 ちなみに。ミコトが毎日毎食料理を披露してくれるのには理由が三つある。

 ひとつ、美味しいご飯が食べたいといってまとわりつくスラギがうざいから。

 ふたつ、ミコト自身も自分で作った方がおいしいから。

 そしてみっつ、ミコトは料理が好きだから。

 ミコトさんは料理男子だった。


 ともかく。


 そんなこんなでスラギが遊び(狩り)に行ってミコトが料理。

 いつもの光景である。


 が、しかし。


 いつもの光景じゃないのはミコトの背後だった。

 ミコトの背後。そこにはズラリ、四人の人間が並んでまじまじとミコトを観察しているのである。


 その四人とは、もちろん王女・リリアーナ、騎士・イリュート、侍女・サロメ、そして騎士団長・ジーノである。


 ミコトが料理をするのはミコトとスラギが使用する個室である。魔道具を使用した簡易的な台所が出現しているのはもはや見慣れた光景だ。

 では一体何を彼等は観察しているのか。


 もちろん言うまでもなくミコトの使う神聖魔法、その一つ。

 空間魔法である。


 まあ、出てくる、出てくる。調理器具から食材、調味料までポンポン空中から出現してはミコトによって活用され、そしてまた空中へ消えていくのだ。


 その手際、汚れない狭くない。


 おかしい、伝説の神聖魔法、幻の神聖魔法。

 何処までも便利に活用されまくってる。


 いや便利だけど!


 というか。


 本当に、多用していた。ミコトの様子は『いつも通り』そのもので、無理をしている様子もなく普通である。

 これだけ観察されているのに、時々声も上がっているのに、完全無視して欠片も気にせず『いつもどおり』な精神は控えめに言って普通じゃないけどそれはそれだ。


 つまり。


 このように、ミコトは料理する時は何時でも、空間魔法を駆使していたわけだ。

 ミコトとスラギの言う通りだったわけだ。


 なのに四人の誰一人として、それに気づいていなかったこの事実。


 こんなに流れるように使っているのに。出たり入ったりしているのに。毎回ではなくとも、全員が一度はミコトが料理している様子を見たことがあったはずなのに。

 摩訶不思議現象が目にも入らなかったその理由は。


「くっ。ご飯がおいしいのが悪いんだ……!」


 そう、ミコトの手によって生み出される美味しいご飯にすべての意識が持っていかれ、その美味しいご飯ができていく過程など眼中になかった。

 それが全てだった。

 全員が衝撃にうなだれた。

 が、そこへ。


「ただいま~。わあ、今日はハンバーグか~。おいしそ~。もう食べれる?」


 スラギが帰ってきてミコトに本日の獲物を渡しながら尋ねる。ミコトが答えた。


「帰ったか。今日は……虎か。この辺りは猛獣が多いな。……もうできる。机の用意しとけ」


 瞬間である。

 うなだれた全員が元気になった。生き生きしていた。

 そしてスラギとともに食卓を用意。きびきびしていた。役割分担も手慣れたものだ。


 ……虎? ミコトが片手をひょいで解体した後に亜空間へGO。いつも通りだ。そして悲鳴は上がらない。


 だって慣れた。王女さえも慣れた。

 王女は日々たくましくなっている。主に精神的なものが。


 五分後には全員着席で『いただきます』。

 今日も今日とてご飯はおいしい。


 誰の頭にも、食前の自己嫌悪は残らない。


 餌付けの完璧さがここに証明された瞬間だった。




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