ここまでが現実逃避だったと主張します
落ち着こう。
騎士団長は深く深呼吸をした。
自由人相手に己を失ってはダメだ。ただでさえ話が通じないのにこっちの頭に血が上っていたら話が通じないどころか違うところに連れていかれて本題が何だったか忘れ果てる結末しか見えない。
ともかくも。
「誰が花を咲かしたんですか。ミコトですか」
聞いた。すると。
「俺だな」
「他に誰がいるの~?」
「団長さん、阿呆なのか?」
「馬鹿なのだろう」
黒髪の麗人より答えは素直に返ってきた。
だがいかんせん雑音が煩かった。
なんなの、周りの金と赤茶と白は騎士団長を貶めないと気が済まない病気なの?
騎士団長のこめかみはひくりと引き攣った。しかし根性でにっこりと。
「オッケー、やっぱりミコトなんだな分かった。あと今のところ回答しか求めてないから。罵倒は欲してないから」
ひたすら視線はミコトに固定した。そして。
「じゃあ次です。なぜ花を咲かしたんですか」
「あんたが意識を飛ばしたからだ」
「暇だったもんねえ」
「暇だったもんなあ」
「貴様が悪い」
その着地点はやめて。
ていうか。
「何という責任転嫁。人のせいにしちゃいけません。そして俺はミコトに聞いています」
なんで茶々入れるの。騎士団長とミコトさんのお話です、あっち行ってなさい。
無理か? 無理なのか? ミコトがいる部屋ではミコトから離れられない仕様なのか?
そもそも彼らは五分くらいなんで普通におとなしく談笑できないの。優雅にお茶でも酒宴でもしていればいいだろう。お茶の気分じゃなかったの?
そして暇だと花を咲かせるんですか素晴らしく繋がらないんだけれどもどうしよう。
花咲じじいか。
いや、駄目だきっと意味なんかないんだ、気まぐれなんだ。
次に行こう。
「どうやって花を咲かしたんですか」
「こうやって、こうだな」
ミコトの右手に種、空中に土、左手に如雨露。
種を埋めて水をかけたらむくりと芽吹いて可憐な花が一瞬で。
「なんでだ」
魔法の如雨露ですか。それとも魔法の種ですか。視点を変えて土ですか。ミコトのアレな力がこもっているんですか。
「やだな、みればわかるでしょ~」
「見て判らないから聞いている」
何言ってんだこいつって顔しないでくれるかな、その顔したいの騎士団長だから。
「ミコトが魔力を込めた種を、ミコトが丹精込めて培養した土に埋めて、ミコトの作ったすごい汁が入った水をかけたらこうなるだろ」
「まさかの全部」
そして『すごい汁』ってなに? 何が入ってるの? 濃縮されてるの? 聞かない方がいいの?
「水に入っているのは」
「やめて聞きたくない」
ヤシロの高説をぶった切った騎士団長である。なんでヤシロが把握してんの。一緒につくったの? 不穏な気配しかしないから死んでも聞きたくない。
とりあえずつやつやと咲き誇りぷかぷかと浮いている花畑を生み出したのは原因も過程もミコトであることが確定した。
いや割と初めから予想してたけども。
とりあえず。
「……そうか。分った。でも部屋中に浮かせるのはやめような。何ていうかこう……俺は泣きそうです」
ふんわりと。
微笑みながら騎士団長は、諦めきった瞳で告げたのでした。
するとミコトは。
「まあ、すこし鬱陶しいか」
そうおっしゃるが早いが、パッと右手の一振りで。
シャボン玉的なものに包まれた花々が、列をなして窓から出ていったのでした。
すっきりした室内、呆然とした騎士団長、花冠を亜空間にしまい優雅にお茶を始める自由人たち。
……うん。
今のは多分、夢だったんだろう。
そう結論付けた騎士団長は、花畑の光景をなかったことにすることを決めた。
ここまでお読みくださってありがとうございます!
年内最後の更新となります。
そして年末年始は更新に間が開きます。
次は4日に投稿できたらいいなと思っています!
たびたび間が開きますが、来年もどうぞよろしくお願いいたします。