花畑で戯れたいなんて言ってません
よし、と。
気合を入れてクールダウンという名の現実逃避の中から帰って来た騎士団長は顔をあげて目にしたのは。
一面の花畑でした。
咲き乱れる花、漂う芳香。
びしりと一瞬固まった騎士団長、叫んだ言葉は。
「何が起こった!」
もちろん目はぎょろりと巡って自由人を探した。
探すまでもなかった。
部屋の真ん中で彼らは、
「あはっ。ほら出来たよ~」
「スラギお前器用だな……」
「ミコト、この種はどうだ?」
「肥料が足りんな」
騎士団長は思った。
何やってんだろうあの人たち。
騎士団長は混乱に一時停止した。
スラギは咲き乱れる花々で美しい花輪を作っていた。見事である。
それをアマネが見ながらたどたどしくまねている。拙い手つきが初々しい。
その横でヤシロが種を捧げ持って頬を染めている。目が輝いていた。
そしてそんな種を前に如雨露を持ったミコトは小首をかしげる。清楚にさえ見える。
何やってるんだろうあの人たち。
ここはどこ? あれは誰?
魔王の執務室であれらは自由人という名の神とその眷属どもではなかったか。
なんでこうなった。
なんでそうなった。
「ミコト、あ~げるっ」
「……相変わらず、よくできてるな」
「むっ、俺だって……」
「私もこの花ですぐに!」
乙女か。
何このファンシーな光景。なんでミコトにスラギが花輪をかぶせて微笑みあって、それに可愛らしくアマネとヤシロが頬を膨らませてるの。
仲良しなの? 仲良しなのは知ってるけど! 知ってるけども!
とにかく!
「説明を要求する!」
がっさああと花畑をかき分けて騎士団長は叫んだ。
返ってきた答えは。
「「「「花だ」」」」
「そんなことは判っている!」
やだ何その見たままの回答。超端的。しかも四重唱。久々に地団太踏んでシャウトしたよ騎士団長は。
現実逃避している間にまさかの目の前がリアルで浮世離れしていた騎士団長の気持ちが分かりますか。
わからないからその回答なのだろう、そんなところで見事な安定を見せなくていいんだよ自由人どもめ。
いや、駄目だ冷静になろう。
「これが花だということは見ればわかる。見ればわかるんだよ俺にも。聞きたいのはなぜ俺がちょっと見てなかったうちに部屋がここまでファンシーな光景に様変わりしてるのかってことだよ」
騎士団長はばっと室内の光景を手で示す。
が。
「あんたが見ていなかったからだろう」
「団長がどっかに気を飛ばしてたからだよ~」
「てか、見てろよ」
「待たせる貴様が悪い」
そんな答えが口々に帰ってきました。
それを受けた騎士団長は。
「斬新な超理論! 原因が回りまわって俺だとかいうまさかの糾弾!? 超理不尽!」
だああんと悔し紛れにテーブルをたたいた。
そう、ここは室内、魔王の執務室。花が咲いていようが咲き乱れていようが執務室。家具も壁も窓もそのままだ。
ていうかよく見たら腰丈の花が群生してるかと思ってたけど違うわ。膝丈の花が土ごとぷっかぷか浮いてるわ。さっきがっさああとかき分けたけどかき分けたっていうか花が両わきによけたっていうか今は元に戻ってるよ、ミコトですかミコトですね。
「つかそんな暇だった? そんな俺意識飛んでた?」
知らない間に三十分とかたってたのだろうかそれは多少、悪いと思う。
が。
「ううん、五分もたってない~」
「五分でこれかよ!」
飽き性どもが! と騎士団長は、テーブルに突っ伏したのだった。……慰めるように花が寄り添うのが、泣きそうだった。