脳の容量が足りないようです
「いや、そんなことよりも」
はっと気づいた騎士団長である。お母さんとマザコンという自由人による自由人の寸劇を鑑賞している場合ではなかった。
「だから質問です。ミコトのところに就職と言いますがそれはつまりどういう仕事をするんですか。そして現在進行形で俺は騎士団長という役職持ちの公務員なので掛け持ちは出来ません」
正座で打ちひしがれているスラギたちと優雅にお茶を嗜んでいるミコトに向って今度こそ騎士団長は質問を投げた。
挙手と質問二つの間に間は空けなかった。
脱線事故はもういらない。行方不明になって帰ってこれなくなる。
が。
「別に、これと言って仕事はない」
「ないのかよ」
反射的に突っ込んだ騎士団長だった。
てかあれ? ないの? それでいいの? いや、確かに『神』としての仕事とかグレン翁の話を聞く限り特別ないっぽいけれども。
でもじゃあなんで騎士団長がいるの。いじりたいの? 思わず胡乱な目で言おうとした。が、その前に。
「それとあんたの今の職をやめろなどという気はない。気にするな」
「気にするぞ」
どういうことだ。
就職先を強制斡旋されている最中ではなかったろうか。バレなければいいという思考回路なのか。そうなのか。
が、ここで。
「別に四六時中傍にいなけりゃなりゃならんわけじゃない。鬱陶しいだろうが。あんたが来るなら、まあ、死んだ後だろうな」
……。
「……。…………?」
幻聴かな……。
「悪い、ミコト。もう一回」
考え考え、騎士団長は頼んだ。
と。
「『別に四六時中傍に「そこじゃないかな」」
食い気味に遮った。
「……『鬱陶しいだ「そこでもないし心折りに来てんのか」」
なんでそこだと思ったの。そうじゃないでしょ。おかしいところは一か所だけでしょ。
サイドの騎士団長の遮りにミコトは眉を寄せていた。しかしそれでもようやく。
「『あんたが来るなら、まあ、死んだ後だろうな』」
「幻聴じゃなかった」
返って来た望むリピートにうっかり感謝を忘れて呟いた。
どういうこと? ねえどういう事? 死後の話? 幽霊的な話? 騎士団長の未来って地縛霊なのでしょうか嫌だ。
「何を言っている。あんたは人間だろうが。そのうちくたばる」
「そうだけどそうじゃない」
いつか騎士団長が天に召されることに驚いたんじゃないんです。召された後が存在したことに動揺してるんです。
目を泳がせた。
が、そこに。
「……俺たちだって死ぬぞ。寿命はあるからな」
「噓だ」
爆弾を落とされて思わず間髪入れずに返しました。ミコトの眉間にわずか皺が寄る。
そして。
「あんたは阿呆か。この肉体は『両性体』だが『人』のものだ。不老でも不死でもない。まあ『両性体』は長寿だからあと三百年はこの姿のまま生きるだろうが」
待って待ってわからない。だってほら、あれだ。
「え、ミコトは『神』だよな。で、グレン翁って創生から割と近年まで生きてたんだろ。え? どういうことだ?」
「……俺は生まれたときから『神』だが、最初からすべての力を持って生まれてきたわけじゃない。グレン爺さんが死ぬまでにすべてを受け継いだ。俺の『器』に『神』の力を馴染ませるために必要だった時間が『人』としての生で、受けとめるための『強い肉体』が今の俺なんだろ」
「へー、そうなんだ……」
「俺もあいつらも、死後『人』の肉体がなくなった『神』と『眷属』になるだけだ。まあ、爺さんがやったようにその後の実体化もできるんだろうがな」
「へー、そうなんだ……」
「つまり、あんたも俺の『眷属』となるなら同じだ。その頃には今の職など関係ないだろうが」
「あー、そうですね……。とりあえず、」
ちょっと混乱してきたので、クールタイムを要求した騎士団長だった。