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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
魔王執務室編
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意思疎通ができた喜びをどう表現しましょうか


「――つまり、あれはガキのまんま年だけ食ってた阿呆だって話だ」


 幸せそうに床に懐いている三人を放置し、とさりとミコトは再びソファへと腰を下ろした。

 見事に何もなかったことにして話をつづけるミコトさんも素敵だと思うよ。


 そして彼の言う『あれ』はたがわず『元神』グレン翁の事を指していると思われる。

 なぜって大変腑に落ちてしまったからである。


 創世の神の一生を騎士団長が想像することなどできないけれど、『神』という壮大なものではなくただ一人の『心』を持つものと考えれば、その機微の一端ぐらいはわかるような気がするのだ。


 ぶっちゃけ、騎士団長のこれまでの『グレン翁』に関する感想はなんと面倒な爺であろうかという一貫したものである。なんでって素敵にミコトにお世話されている元気すぎる爺だからだ。ていうかイマさんってそうだったの? 爺によって蘇りし古の黄龍だったの? 何してくれてんの?


 はた迷惑な爺である。

 繰り返そう。はた迷惑な、爺である。


 他者を混乱の境地に陥れる自由人たちにしりぬぐいをさせている時点で極めてはいけないものを極めてる。


 まあ、つまりだ。


 それが『子供』と言われてしまえば『ああそうなんだ』と思うのだ。いや傍迷惑だけど。

 ミコトが言ったままだ。


 最初から『神』で何もかもを自由にできる力をもって、咎める者などだれもいなかった、リゼライア・グレミリオ・ディ・オロストは、

 心の中のとても大切な部分が、ずっとずっと、子供だったのだろう。


 例えばアマネや騎士団長たちにとっての親のように、スラギやヤシロにとってのミコトのように。

 間違えば叱り、頑張れば褒める。

 裏切らない。傍にいてくれる。絶対的な庇護。

 愛してくれる人。

 絶対的な『強者』として生まれ、そういうふうに生きてきたグレン翁には、……ミコトにも。

 そんな存在は、いなかったのかもしれない。


 きっと、最初から自分が他者を護る立場だったのだ。


 大人になる方法など知らない。けれど、子供の時に子供らしく、誰かに甘えるということは案外大切だと思うのだ。

 何をどう感じるかなどは人それぞれではあるけれど。


 恐らくはグレン翁にとって、そのような存在がミコトで、

 ミコトにとって、そのような存在がグレン翁だったかもしれない。


 つまり。




「やっぱりミコトはお母さ「あんな息子はいらん」」




 真顔で言った騎士団長に間髪入れずに返したミコトだった。


 むしろ食い気味に言われた。

 やっぱり爺な息子はいらないらしい。

 うん、騎士団長も、遠慮したいかな。


 ともかく。


「それはもういい。それより、大体ここまでで、俺たちの関係性はわかっただろう」

「ミコトが『神』ってことと、スラギたちが『眷属』ってことは理解した。まあ、そこに至るまでの過程も、なんとなく」


 受け入れ方が柔軟な思考過ぎるとは思うけど。

 ていうかミコトは何時から己が神様だと知っていたんですか。実は生まれたときから知っていたんですか。


 聞いてみた。


「知っていたが、それがどうした」


 バッサリ肯定しないでほしい。

 騎士団長は顔をひきつらせた。むしろこの引き攣り顔が標準装備になりつつある。

 ホントやめて。

 が。


「驚くことなどないだろうが。俺は神で、そのことを自分で知っている。それだけの事だ。グレン爺さんもそうだったが……」


 ミコトはあんまりにも普通の顔をして。


「そういうふうに、出来ている」


 それ以上でも以下でもない、と。

 そんなことを言うものだから、騎士団長は、


「……そうか」


 葛藤さえもしないその何でもない言葉に、思わず。




「何という前向きな諦め」




 真顔だった。


「なんだやっぱ分かってんじゃねえか」


 もちろんミコトも、真顔だった。

 頷きあった二人、流れる沈黙。



 初めての以心伝心だった。






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