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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
魔王執務室編
210/254

愛情確認行為です


「えーっと」


 長い話だった。それでも結構ダイジェストだったけど。


 だがしかし今まで『変にハイスペックなおじいさん』だったグレン翁が『いろいろとメンドクサイ元神』にクラスチェンジを遂げるには十分な話だった。何その面倒臭い子。聞いているうちに引き攣ったまま騎士団長の顔は固まったくらいだ。


 いや、とりあえずはまとめよう。整然とした思考には情報の整理が必要である。

 騎士団長は思った。


 ので、深呼吸一つ、しっかりはっきり真顔で。


「つまり、神さえ誑し込むミコト最強って話か」

「ううん、俺たちがミコトにものすごく愛されてるって話~」


 真顔で即答だった。


「……」

「……」

「「「「「……」」」」」


 見つめ合い、数秒。平行線に不毛さを感じた騎士団長は視線をはずした。

 視線をはずした先ではてそもそもなんの話だったろうかと考え始める始末だけど。


 が。


「あの時は……あれだよな」

「うん、こう……あれだよねえ」

「うむ……。あれだった」


 そんな騎士団長をうっちゃって、アマネとスラギとヤシロはしみじみしていた。


 何しみじみしてんのお前ら。


 つかあれって何? 何が『あれ』? もしかしてミコトさんの怒り? 元神をもビビらす怒髪天のそれ?


 騎士団長は胡乱な目で三人を見た。

 そんな視線を完全に無視して、しみじみと、懐かしげに、穏やかな微笑みを湛えて、三人は言った。



「「「あの時のあれは、ああ此の次元もそろそろ終わりかと思った」」」



 三重唱はやめて。


 そしてそれ、そんな幼子のいたずらを見守る祖父母のごとき鷹揚さでのたまうこっちゃないんだけど。


 終わるの? 終わっちゃいそうだったの? 何気にこの世の危機だったの?


 何てことしてくれてるのグレン翁。貴方の不用意な発言が全人類どころか次元を巻き込んだ恐怖を巻き起こすところだったという暴露を聞かされた騎士団長はソファで正座で震えています。


 それなのになぜか自由人はとってもいい笑顔なんだけど話し始めるまでは脅えていたあなた方はいったいどこに行ったの? 演技だったの? ミコトに与えられる刺激は全て愛情に換算できるドMの神髄を発揮しているの?


 そんな打たれ強さは引き千切って捨ててしまえ。


 ともかく。


 なぜかミコトの憤怒は次元の危機という話題からミコトに一番愛されているのは俺という彼らにとっては永遠の命題にスライドしていった白金赤茶をどうすべきだろうかわからない、と騎士団長が黄昏ていた時。


「うるせえ、糞ボケ共」


 凛、と澄んだ声が空間を切り裂き。

 けたたましい音が華麗に三つ、間髪入れずに響き渡った。


 後に残るは地にはいつくばった屍だった。ピクリともしない。完璧である。

 あまりの躊躇なき清々しさに騎士団長は無表情で拍手を贈った。


 生態系の頂点に君臨するであろう自由人どもの意識を拳一つで刈り取っていく手腕はいつみても本当に素晴らしいと思います。

 それ以上に光の速さで手が出るミコトさんには暴力反対って小さく心の中だけで言っておくけど。


 が。


「――ったく、」


 小さく息をついたミコトは珍しく、沈めた三人に届いているか届いていないかは知らないが、言ったのだ。




「てめえらはなぜいつまでたっても言わねえと判らねえんだ。俺はお前ら全員愛しているっつったろうが、阿呆ども」




 ぜひ起きてるときに言ってあげてください。


 何そのデレ。意識を刈ってから言ったのはあれ? 実は羞恥してるの? 全然見えないけど。いつみても美しい御尊顔はやっぱり美しい白皙の美貌のままだけど。


 そうだね、本音しか言わないミコトは別に恥ずかしがったりとかそんな繊細な情動は持ち合わせていないね。


 でもむせび泣いて喜ぶ自由人ども聞こえてないから。騎士団長がいたたまれないむず痒さに苛まれただけだから。


 ……いや、床に沈んだ自由人どもの顔が異様に幸せそうに微笑んでいるからもしかして聞こえたのだろうか。でも明らかに意識はなさそうなのだけれどもそれも愛の力だとでもいい腐るのだろうか。


 殴りたい。


 ……なんで、自分、今、ここに居るんだろう。

 騎士団長は何度目かの自問自答に、やっぱり答えが出なかった。






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