おいしいご飯の魔力です
待とうか、ちょっと待とうか。
サクサク行こうとする二人を、騎士団長はがっしと掴んで引き留めた。
そのほかのメンバーは、いまだ袋が消えたあたりを呆然と凝視しながら硬直の真っ最中であるので、その回復はかなり早かったと察せられる。
経験の差である。
常日頃からスラギという規格外と最も接触しなければならないという不幸と日々向き合ってきた結果であった。
ともかく。
引き止められて振りむいた二人。その眼は「一体なんだ」と如実に語って騎士団長を射抜いてくるが、彼はそれにめげはしなかった。
恒例になりつつある疑問、「あれ、こっちが可笑しいの?」が発動しそうになるのも抑え込んだ。
そして尋ねる。
「今のは、なんだ?」
ゆっくりと、的確に、はっきりと。
すると。
「魔法だな」
「知ってる」
ミコトの即答に即答で返してしまった騎士団長。
デジャヴである。
だからなんでそんな端的な回答するの。それでわかると思うの? わからないこっちが可笑しいの?
何とか引き攣る顔を元に戻して、騎士団長は丁寧に言い直した。
「魔法なのは知っている。見ればわかる。分らないのはなんで袋が消えたかだ。光魔法でも闇魔法でも重力魔法でもないだろう?」
本当に懇切丁寧な問い方だった。
そうしてやっと建設的な回答が。
が。
「ああ、そうだな。……今まで見ていなかったのか」
……ん?
「今までもミコトは結構使ってたよね~」
……あれ?
「あれは神聖魔法の一種で、空間魔法だ。異次元に亜空間を作り出してそこにものが収納できる。中は時間も止まるから使い勝手がいいんだが……俺は今までも使っていたぞ。本当に気付いていなかったのか?」
言ってこちらを見てくる黒金コンビ、しかし騎士団長をはじめとしたこちらはぽかん。
……知りませんけど? 気づいてませんでしたけど?
だから驚いたんですけど!?
「えっ……。ど、何処で……?」
思わずどもりながら聞いてしまった騎士団長。それに対してミコトとスラギは目を見合わせて。
「……あのな、こいつが毎晩自重せずに狩ってくる肉や魚、どこに保管してると思ってたんだ?」
こいつ、とミコトはスラギをさす。
言われて一同思い描いた。
まずはスラギの狩りスタイル。
何が何でも一網打尽。何のためらいもなく大変楽しそうで何よりで、魔物も狩ってしまうから安全快適の鍵でもあるそれ。
結果、持って帰ってくる肉の量はどれくらいかっていうと、えっと。
……いっぱい。
次の日の晩に美味しいご飯になって出てくるけど……六人で消費できる量ではない。
あれ?
「……最初の熊は、……町で売ってた……」
イリュートがぼそりといった。だからその他も売っていると考えていたと。なるほど筋道が通っている。
が。
「アホか。こいつが帰ってくる時間帯に店が開いてるわけがないだろう。出発は早朝だし、いつ売りに行くんだ」
正論だった。
「熊はたまたま時間あったからね~」
あはっと笑ってスラギにまで言われた。
「それ以外は亜空間行きだよ~。調理する時は器具なんかもそこから出してたりしたのに~」
そしてとどめにこてんと首を傾げられ。
「何で気付かなかったの?」
尋ねたスラギ、見つめるミコト。
四人は顔を見合わせて声をそろえた。
「「「「ご飯がおいしかったからです」」」」
真顔だった。