すべてで彼を愛しています
それでも蘇ったグレン翁は、つらつらと自身やミコトたちのことについて話し出した。
一応、それをミコトたちは聞いていた。
そして。
「知っているが、だからなんだ」
集約されたミコトの言葉だった。にこにこしているスラギ以下三人にも動揺などかけらもなかった。完全に知っていた雰囲気である。言葉の足りない自由人どもの以心伝心はどんな回路でつながっているのだろうか、不可解である。
しかしグレン翁はそれを受けて。
「やっぱり気づいとったのう。そうだと思ってた! 流石わしの保護者!」
ゲラゲラ爆笑していた。
笑いの沸点のわからぬ爺である。
その時。
「ねえ~、俺たちが『眷属』っていうのは、ミコトの傍にいられるってことだからいいけどさ、」
ゆるく、スラギが口を開いて、『眷属』と言われた三人は首をかしげる。
「なんで、『眷属』~?」
「うむ。ミコトが決めたなら判るがな」
「なんで、師匠がきめれんだよ、それ?」
口をとがらせる三人は、どこまでもミコト至上主義だった。
ミコトに選ばれたならうれしいが、爺に決められるのは微妙に過ぎる。
ありありと感じられる本音である。
本人を目の前に隠す気のない清々しさだった。
グレン翁は生暖かい目になった。生暖かいまま言った。
「お前ら、ミコトが大好きじゃな」
「「「だって愛してるもの」」」
三人は蕩けるような、笑顔だった。
それを一身に受けたミコトはいつも通りの無表情だったけど。
「……わしは?」
ちょっとだけ、小さい声で爺は言った。
「グレン爺さんでしょ?」
「グレン爺さんだな」
「爺だろう」
真顔でディスられたけど別にグレン翁は自分の名前は忘れていない。
爺は叫んだ。
「わしも愛してっ!?」
しかし三人は極上の笑顔で。
「俺の愛はミコトのものだから~」
「ミコト以上はいねえから」
「爺がミコトに並べると思うな」
総攻撃だった。
グレン翁は膝を抱えていじけ始める。
「神だったのに。頑張ったのに。老人はいたわるものなのに」
しかし。
「労わられたいなら、ミコトに迷惑かけないようにしようね~?」
「神だったことを振りかざすなら、もうちょっと大人になろうぜ?」
「そもそもグレン、貴様何を頑張ったのだ?」
どこまでもそっと、グレン翁の肩に手を添えながら言われた三人の言葉は心を込めて辛辣な真実だった。
最新例としてグレン翁は古の龍を叩き起こして島国半壊原因を作りながらうっちゃってきた。反論は出来なかった。しかし。
「終わったことは、いいではないか」
ケロリと開き直った爺である。
何も反省がなかった。とんだ元神である。
が、ここで。
「で、」
にっこり、スラギはグレン翁の肩を掴んだまま。
「なんで、俺たちのことを、グレン爺さんがきめるの?」
話を戻した。
するとここで、きょとりとしたグレン翁。
最前の質問を忘れていたようだ。鳥頭である。
あるいは本当に、単純すぎて答えのわかり切った質問だと、グレン翁は思っていたのだろう。
なぜならば、しごく何でもない事のように、その答えは、
「それは、お前ら失敗作がもったいなかっ……」
紡がれ、――――――――――――――――――――――瞬 間 。
まっくらに、
次元が、歪んだと、
―――――全員が、思った。