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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
魔王執務室編
204/254

師匠という名の被保護者です


 それは、今から十三年前の話。ミコトが十三歳、スラギとアマネが十四歳。仲良く破天荒ライフを送っていた少年たちの前に、白い魔王・ヤシロが文字通り降ってきて割と、すぐの事だった。


 その日も何の前触れもなく何処からともなく湧いて出てきて何か言っているヤシロを完全に無視する形でミコトは薬草を煎じ、スラギとアマネはじゃれていた。破壊音が響いていようと時々閃光が走っていようとそこにヤシロも仲間に入って白刃が舞っていようと、彼等はじゃれていた。


 日常である。

 しかしその日常は一人の老人の登場で途切れるかと思ったけど別に途切れなかった。


「帰ったぞ!」


 バーン、と扉を開けて清々しい笑顔で、老人とは思えぬしっかりしすぎた足どりで入ってきたのはもちろんグレン翁だった。

 しかしその帰宅は空気のようにスルーされた。

 薬草を煎じるミコト、じゃれる三人。玄関に立つグレン翁。


「……」


 グレン翁は背負っていた画材をそっと下ろして、ミコトに近寄り、そっと言った。


「……お腹が、空きました」


 ミコトはそこでようやく、グレン翁を見た。まだ幼さの残る大きな瞳。しかし静謐な色を湛えたそれで、黒髪の美少年は言った。


「なんだ、あんた。餓える前に帰ってくることもできるのか」


 辛辣だった。


 ちなみにこの時のミコトは芸術の香りに呼ばれて数日前川を流れていったグレン翁を、明日当たり帰ってこなかったら仕方がないので回収に行こうと思っていた。

 回収に行く前に帰ってきて手間が省けたという言はもちろん本気である。


「お前、わしの弟子のくせにわしを何だと思っとるんじゃ」

「自分の世話も出来ねえ阿呆だと思っている」


 間髪入れない返しも本気だった。

 しかし。


「よくわかっとるのう!」


 そんなもんが分かられていることの何が喜ばしいのだろうか。

 それでも師匠である自覚がある辺りがなんともアンバランスな爺だった。


 ともかく。


 ミコトが反応を返したことで、ようやくじゃれ合いを一段落させた三人もグレン翁の存在に注意を払い始める。


「帰ってたんだ~。珍しいねえ。何処に後始末に行けばいいの?」

「今回は何をやらかしてきたんだよ?」


 スラギはにっこり、アマネはじっとり。


 いずれもやらかしてきたことが前提の発言である。一応仮にも己の師匠を何だと思っているのだろうかと言われそうだがグレン翁には前科しかない。


 しかも。


「ちょっと向こうの国で眠りについてた古の龍が目を覚ましたかのう」


 やらかしていた。


 なお、聞いた瞬間、ミコトは消えた。転移だった。十分ぐらいで帰って来たけど。そのたった十分間で寝起きの龍の破壊行為につき壊滅寸前だった小さな島国は救われた。どうやって救ったのかと言えば殴って、龍の隠れ里に捨てた。

 それだけだ。

 物理である。


 ちなみにミコトは完全に忘却しているが、これがのちに行き倒れているのを拾って再会することになるミコト信者・黄龍イマさんその人だったりする。完全に余談だ。


 ともあれ。


「お腹が空いたのじゃー!」


 己の不始末のせいで一仕事してきた弟子に、何も可愛くない無邪気さでなお飯をたかったグレン翁が四つの拳で床に沈んだのは仕方なかったといえる。


 不屈の生命力で蘇ったけど。

 そして結局食事を貪ったけど。

 とんだ爺である。


 そしてここまで来てようやく。


「そう言えば、魔王くんがおるのう」


 言って、ではついでだからと少し居住まいを正したのである。

 遅い。


 で。


「始めまして、魔王くん。そしてガキども、聞いて喜べ。わしは神じゃった。グレン爺さんこと、リゼライア・グレミリオ・ディ・オロスト。リゼちゃんって呼んでね!」


 ポーズを決めた。


 それを見た自由人たちはもちろん。


 ミコトはひたすら無表情に、スラギはひたすらにっこりと。アマネは不快に顔を歪め、ヤシロは口元を引きつらせる。四者四様、表情は違えど顔に描いてある文字は同じだった。


 とても気持ちが悪い。


 明確だった。

 そしてそんな爺に次の瞬間、落ちたのは四つの踵。


 グレン翁は再び床と仲良くなった。

 そんな師を見て、ミコトは。




「今更言うとはあんたは阿呆か。そろそろ墓が必要か」




 辛辣だった。






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