笑い事ではないと思います
息子はいらないそうだが『母』は否定しないのだろうかと思ったところで、騎士団長はミコトが男だけど女であることも思い出した。
うん、美味しいご飯を作ってくれるし傷の手当てもしてくれるミコトはもはや無意識化で否定できないほどに母性を秘めているのかもしれない。
暴挙と暴言がひっどい自由人だけど。
ともかく。
「爺さんが自分が『神』だといい出したのは、ヤシロが来た頃だったな」
「割と亡くなる直前」
なんで隠していたのだろう。いや、役者がそろうのを待っていたのか。まあ出会ってすぐ言われても信じなかったと思うけれども。時間がたっていようがすぐに信じられる発言でもなさそうだし。それでも信頼度をあげるのは大事なことだ。……あれ、出会った当初からミコトに保護されていたグレン翁ってどうやって信頼度をあげたのだろう。むしろミコトが周囲の全幅の信頼を受けていたんじゃないだろうか。
騎士団長はそう思った。
「ミコトたちはどう答えたんだ?」
聞いてみた。
すると。
「とうとう壊れたかと思って墓の建設について検討した」
グレン翁は信頼されていなかった。いや、というか突飛な発言にやはりさすがのミコトも信じなかったようだ。検討内容はそれでいいのかと突っ込みたいけど。
「まあ、やっぱり驚くよな」
騎士団長も驚いたのだからと、頷いた。
が。
「ああ。今更なぜそんな最初から判り切っていたことを言い出したのかと」
「そっちかよ」
まさかの判り切った事実だった。
ヤシロの時もだが、七歳児に保護される爺のどこら辺に神格を見出したんだろう。
「俺たち四人がそろってるときに言い出してね~」
「また絵のモデルがどうとかなら殴り飛ばしてなかったことにする気だったんだけどな、」
「珍しくまともな口調で話し始めたから一応は聞いてやろうと思ってな」
あははは、と爽やかなのは金・赤茶・白の自由人である。
いつの間に騎士団長から離れてミコトの周囲に密集したんだろう全然気づかなかった。騎士団長はミコトを見て話を聞いていたのにどういう現象だろうか。
まあ自由人だから仕方がない。そして発言の内容が半分ぐらいグレン翁の扱いとはと問いただしたい気もするけれどああそういう感じなんだなるほどと納得してしまった騎士団長にその権利はない気がしたのでそれもやめておいた。
「グレン翁は、どんな話を?」
「自分の名前は『リゼライア・グレミリオ・ディ・オロスト』の略だとかだな」
世間話か。
ていうか。
「え? 『グレン』ってそこからだったのか? 何処を略したんだ」
「「「「『グレミリオ』」」」」
四重唱はやめて。
そしてなぜミドルネームから。なぜ素直に『リゼライア』からとらない。気分か。気分だったのか。
「気分で決めたといっていた」
やっぱり気分なんじゃねえか。変なところで予想を裏切らない爺さんである。
「あとはミコトが神様だとか~」
「俺たちがミコトの『眷属』だとか、」
「どういう経緯で私たちを生み出すに至っただとかだな」
つまりは、今騎士団長に説明が行われた諸々について話したという事らしい。
なお。
「まあ、大体わかっていた話だったが」
とのことなので騎士団長とは違って驚きは少なかったそうです。
ちなみにそんな可愛らしさのかけらもないミコトたちのリアクションに対してグレン翁がどう感じたのかというと。
「『やっぱり気づいとったのう。そうだと思ってた! 流石わしの保護者!』って涙が出るほど笑ってたよ~」
気づかれてたことに気づいてた上にまさかの自分でミコトが自分の保護者と認めている件について。
グレン翁よヤシロどころではないその身に秘めし歴史は何処で藻屑となって消えたんだろう。
そしてそんなもんに生みだされた騎士団長を含めこの世界の生き物というかこの世界そのものの事を考えると騎士団長はたいへん複雑です。
でもかつて『両性体』でやらかした『神』がグレン翁ですといわれればすごく腑に落ちるからこの世界の生みの親はグレン翁なのだろう、あんまり喜べない。
騎士団長はこの上なく微妙な表情をしていた。
が、そこで。
「あはっ。まあ、そのあと見事ミコトを救いようがないほどブチ切れさせたんだけどね~」
……え?