理解する気はあるのでおいて行かないでください
スラギの「えいっ」で終了させられたキメラ。
一応そのキメラは割と巨大で、通常であれば討伐に騎士団一戸隊が出されるであろう魔物だったのだが、それを一撃。しかも拳。
ミコトが参戦しないのも納得である。
スラギ一人で十分過剰戦力だった。
むしろ騎士団長もイリュートも要らないくらいだった。
だってスラギさん余裕。ミコトに言われた通りにキメラのその爪をとどめの前に綺麗に根元から叩き折るくらいに余裕。
そんでもって爪は問題なくミコトの持つ小さいほうの袋におさまっている。
あのひゅんひゅん飛んでくる中でそんな区別までどうやってしていたのだろうとかいう疑問にはただただ「スラギとミコトだから」としかお答えできない。
ともかく。
魔物は全滅。こちらは無傷。快勝である。ほとんどやったのスラギだけど。
あとは魔石を回収するだけである。
魔石。魔物には魔力の根源でもある核、『魔石』が存在する。魔物の強さによって大なり小なりあるが、どんな弱小の魔物でも所有しているものである。
そしてそれを回収しなければ、魔物はいくら倒したといってもそこに『魔力だまり』ができてしまい、後々その魔力を吸収したさらに強力な魔物が爆誕してしまう。
それを防ぐこと、そして魔石自体も魔道具に活用できるため、回収するのが常識だ。
ちなみに。
魔石を取り出すと、それを核として構成されている魔物の身体は自然消滅して消える。でも切り取られた……例えば先ほど叩き折られた角などは消滅しない。
生命の神秘である。
原理はよくわかっていないが、そういうものであると理解するしかなかった。
でだ。
そんな世間一般の常識であるが、さすがにこれに関しては、さすがのかの自由人どもの独自の常識とも合致していたらしい。
まあそのやり方は安定の常識逸脱だったけど。
だってだ。
騎士団長とイリュートが魔石の回収に動こうとしたら、スラギが下がってミコトが出てきてたった一言。
「邪魔だ、のいてろ」
で。
ミコトが両手を翳してクリンと一回手首を返せばあら不思議。
全ての魔石がすっぽんと抜き出されて浮き上がりましたとさ。
雲散霧消していく魔物、ひゅんひゅんと飛んでスラギの構えた袋におさまる魔石。
「はい、ミコト。いやあ、大量だね!」
明るく楽しく言ったのはスラギであった。
いや確かに大量なんだけど。どうするの? その大量の角とか魔石とかどうするの? 売るの?
魔石が飛び出てきた経緯については聞かなくても、おそらくまたしても神聖魔法を便利に活用したのだろうと想像がつくのでスルーして、収穫物の使用目的について尋ねてみた。
するとミコトは眉をわずかに寄せて何を言っているんだとばかりに。
「魔法薬の作成に利用するにきまってるだろう。一角ウサギの角からはいい痛み止めができる」
キメラの爪も魔石もしかりだという。
そうですかなるほど。
でも。
「え、それ、持ってくの……?」
イリュートが思わず、といった調子で差す。
もっともである。なぜって角も魔石も大量大量。とても馬に括り付けられる量ではない。
のに。
「問題ない」
そうミコトは言ったかと思うと、チョイと手を動かし、何かと思っているうちに角やら魔石やらが入っている袋をわし掴み、投げた。
袋が消えた。
「よし」
ミコトは言う。
「じゃあ行こっか~」
スラギが笑う。
そのまま馬のもとへと歩みを進める二人。
……。
待とうか。
今の何。