この病状は感染致しません
――スラギがミコトを訪問というか突撃したのには、今回は一応理由があった。
今回は。
いつもは理由もなくやってきては足蹴にされているなどということは別の話である。
ともかく。
その訪問理由とは、日差し眩しい初夏の日、ようは訪問のたった一日前に起こった出来事に在ったのである。
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昨日、城の廊下にはどだだだだだだ、と盛大な足音が複数響いていた。
威厳ある王城に有るまじきことではあるが、実は割と頻繁に起こる事だったりする。厳密にいえば、一か月に一回ぐらいの割合でこの音は響く。
が、
走る彼らはざっと五十人ほどいるだろうか。一様に縹色のこの国の騎士服を纏って、あるものは必死の形相、あるものは顔面蒼白、あるものは悲壮感を醸し出し、あるものはこの世の終わりかという顔色の悪さだった。
つまりは御機嫌麗しいものなど一人もいない、騎士服纏った男の集団。
あまり凝視したい光景ではない。
何か悪いものが伝染してきそうである。
このような事態はそう多くはない。
皆無とは言わないが。
そして、異様なその集団はその負のオーラをまき散らしながらも周囲に何度も目を走らせ、何事かを喚きあっている。
「探せ! 草の根わけても探せえええ!」
「ああああ、どこ行ったんだよあの人おおおお!」
「昨日は見たよな? 城にいたよな? 旅から帰って来たんだよな?」
「ふらふらっとどこか行ってふらふらっと帰ってくるあの人の行動なんか予測できないですよ!」
「帰ってきたその日のうちに失踪するなんてよくあるじゃないですか!」
「くそ、行動の一貫性すらない!」
「ていうか今回は何時までいられるんですかと嫌味で聞いたら笑顔で『秘密』って返された敗北感が今も俺を苛んでます!」
「あんの自由人が!」
そう。
彼らは人を探していたのである。
たった一人の、人間を。
「それでも探せ! 城にはいない、門番が見てやがった、城下だ城下!」
「絶対とッ捕まえろ、ふんじばってでも引き摺り戻せ!」
「顔面蒼白の三白眼で陛下があいつを呼んでいるんだよおおおおおおお!」
その人物、探していたのは国王だった。
しかも顔面蒼白なのは国王もだった。
騎士たちの顔色の悪さも道理、見つけられなかったら首が飛ぶ。
物理で飛ぶ。
だってそうでなくても国王様ストレスたまってるんだもの。
原因はいろいろ色々あるのだけれども。
そしてストレスたまってるのは国王様だけじゃないけれども。
顔面蒼白集団筆頭の騎士団長はいかつい顔の裏に慢性胃炎を抱えた苦労性です。
ともかく。
「ちょっとはじっとしてろや、スラギいいいいいいいいい!」
初夏の清々しい青空に、騎士団長の絶叫が響いた。