自由人はぶれません
三週間がたったころの事である。
何が三週間かというと、なんやかんやありながらも旅を始めて三週間だ。
割と時間がたっている。
ともかく。
三週間目にして魔物に遭遇した一行というのが現在の状況である。
寧ろなぜ今まで遭遇しなかったかというような疑問もあるだろうが、それはひとえにスラギの所為である。
『狩り』と称していろいろ一網打尽にしてくるのが彼の通常行動なので。
その意味においてはたいへん安全快適であったわけである。
非常識もたまには役に立つこともあるのだ。
まあ、ならばなぜ今現在魔物とエンカウントしているのだという疑問にも、もちろんスラギの所為だとお答えするけど。
だって昨夜は眠いからという理由で『狩り』に行かない日であったので。
自由人は気まぐれなのである。
でだ。
そんなこんなで魔物に遭遇。
ちなみに、この世界での『魔物』の定義とは『魔力を持つ知能の低い生物』である。
獣型が多いがアンデットやゴースト、スライムや鬼なども魔物に含まれる。
そして今目の前に現れたのは一角ウサギがいっぱいと一つ目鬼がいっぱい、そんでもってキメラが一体である。
正しく言うなら、一角ウサギの集団と一つ目鬼の集団とキメラがエンカウントしてドンパチやっているところにたまたま通りかかっちゃって気付かれちゃったというのが正しい。
そしてその状況に気づいた時の第一声がこちら。
「あ、喧嘩してた魔物がこっち気づいたよ~」
スラギよお前実はもっと前に気づいてただろう。
なぜ言わない。なぜ回避しない。なぜそんな楽しそうに手遅れなこと宣言するんだ。
何をどうしても魔物と遭遇した原因はスラギの所為だった。
ともかくも。
遭遇してしまったものは遭遇してしまったのだから仕方がない。それが回避可能であったものだったとしても仕方ないものは仕方がない。
ので。
もちろん迎撃態勢に入った一行。
王女とサロメは馬車の中、立ち向かうは騎士団長と騎士・イリュート、そしてとても楽しそうなスラギ。
サロメは王女を守っている。
王女は悲鳴をこらえて大人しくしている。
騎士団長は炎をその刀身にまとわせて魔物を切り裂いている。
イリュートも馬車に魔物を近づけさせないために奮闘している。
スラギは楽しそうだ。
一人足りない。
ミコトだった。
ミコトは戦っていない。むしろ一歩も動いていない。ただふむと顎に手を当てウサギの数を数えている。
そして独り馬上で冷静に発言した。
「スラギ、ウサギの角とキメラの爪は生きたまま叩き折れ」
要求だった。
この状況に注文を付けてくる、だと……!?
そう騎士団長とイリュートは目をむいた。
が。
「はいは~い」
スラギは明るくお返事して、手近なウサギの角を二、三十匹ほど華麗に叩き折った。
倒れる一角ウサギ、宙を舞う叩き折られた角。
その角の全てはミコトの構えた袋の中に納まった。
曲芸か。
いや拍手したいくらい見事にひゅんひゅん角が飛んでくるけど。
「ちょ、な、あなた魔法が使えるのでしょう! こんなに囲まれているのに、なにのんびりしていますの!」
思わず窓の外を見た王女が叫んだ。
が。
「何言ってる。よく見ろ」
「えっ」
ミコトの言葉に外を見た王女とサロメ。
果たしてそこに広がっていた光景は。
「えいっ」
と何とも可愛らしい掛け声とともに拳で最後の魔物、キメラにとどめを刺したスラギだった。