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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
ユースウェル王国内編
15/254

このふわふわした人たちをどうしたらいいのか教えてください


 熊が浮いた。

 それはいい。理解の範疇だ。風魔法の一種で行使したのはスラギである。何も問題はない。


 熊が飛んだ。

 それもわかる。やっぱりスラギの使った風魔法で魔力さえあればできないことはない芸当である。やはり問題はない。


 無詠唱でいささかの無駄もなく行使したことが普通かと問われれば全力で否定するけれどもとりあえず問題はない。

 問題は次だ。


 熊が一瞬で解体された。

 問題しかないんだがどうしよう。


 とりあえず、「ちょっといいか」の声とともに騎士団長はすっと右手を天に掲げた。それに夕飯の調理を黙々と進めていたミコト、そのミコトの指示で残りの熊肉を着々と保存可能に魔法で加工を続けていたスラギが顔をあげて此方を見る。


 うん、いやそんな「え、何?」みたいな心底疑問をうつした顔で見られても困るんだけど。

 疑問を呈したいのはこちらなんだけど。

 わからないこっちが悪いみたいな空気を作り出さないでほしいんだけど。


 ともかく。


 咳払いを一つして、騎士団長は尋ねるのである。


「今のは……なんだ?」


 そしてそれにぱちりとミコトとスラギは顔を見合わせ。


「魔法だな」

「知ってる」


 ミコトの言葉に思わず間髪入れずに返してしまった騎士団長。

 何その赤子の疑問に答えるみたいな端的な回答。

 だって知ってる。あれが魔法でなくて何だと? 早業? 単なる早業って言ったら怒るよ?

 が。


「まあ、早業と言われればそうでもあるな」


 どういうことだろうか?

 魔法だけど早業?

 魔法だけど力業でもあるってこと?

 とりあえず、懇切丁寧に聞いてみた。


「うん、速かったから見えなかったんだよな? それはわかる。だからそこはいい。そこの説明はいらない。そうじゃなくてな? 魔法だってことはわかってる。けどな、あんな一瞬で解体とか、いったいどんな手を使ったんだ? 風魔法じゃないだろう?」


 すると。


「……ああ、」


 言ってなかったか、とこぼしたそれはミコトのもので。


 

「ミコトのあれは『重力魔法』だよ~」



 あはっと、あっさり横から暴露したのはスラギだった。

 簡潔な回答であった。

 が。


 ……。


「……へっ?」


 沈黙、呆然。


 待とうか。


 騎士団長はあんぐりと口を開けている。 

 王女は目を見開いてミコトを凝視している。

 イリュートは瞬きを繰り返して小さく首を振っている。

 サロメは両手を口に当てて絶句している。


 だのにスラギはやっぱり笑って、ミコトは黙々と夕飯を作り続けてわれ関せず。

 ねえせめてこっち見て。


「……じゅ、重力、魔法……ですって?」


 王女が零す。それにあはっとスラギは答えた。


「そうだよ~」


 軽い。

 しかし王女はまだ紡ぐ。


「ば、莫迦は休み休み言いなさい。だってそれは、だってそれは、」


 わなわなとその握られた拳は震えていた。

 王女は叫ぶ。



「だってそれは、あの『失われし神聖魔法』の一つですのよ!」



 響く木霊、渾身の怒り、大いなる動揺。

 だがしかし、返った答えは。


「そうだよ~」


 軽い。





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