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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
ユースウェル王国内編
13/254

何事もいつかは慣れるものです


 でだ。

 スラギと熊を中心に、もう今夜は野営ということで仕方がない。それは潔くあきらめた。


 問題は熊である。

 熊である。


 沈黙が下りる一行、しかしそれを裂くように小さく声が一つ上がる。


「……ん? あ、わたくし、また気を失っていたのね……」


 王女である。熊の死体を見て意識を飛ばしていたが、侍女・サロメの介抱で何とか回復したようだ。

 が。


「……ッッッッ!」


 王女は見た。見てしまった。

 未だ凶悪に傍近くに仰臥する熊の死体を。


「~~~~~~~~~!」


 王女は声にならない悲鳴を上げてサロメにしがみつく。


「なんですの!? なんなんですの!? なんでそれがまだあるんですの~~~!?」


 絶叫、木霊。


「姫様、お気を確かに!」

「姫様、……大丈夫。アレ……死んでる」

「あはっ。お姫サマ元気だね~」

「元凶が何言ってんだお前」


 宥めるサロメと騎士・イリュート、この期に及んで笑っているスラギ、その喉元を締め上げる騎士団長。

 カオスだった。

 そしてそのカオスが何とか収まったのは、優に三十分の後の事であったのである。

 ともかく。


「結局だ。……(これ)、……どうするんだ?」


 熊を中心に円陣を組んだ状態で、騎士団長はこれ、と顎で熊の死体をさす。

 死体だから既に元の場所には返せない。だからって捨てていくわけにもいかない。

 つまり、どうにかこうにか処理をしなければならない。


 が。


 騎士団長・ジーノ→料理できない。

 騎士・イリュート→料理できない。

 王女・リリアーナ→接触拒否。

 元凶・スラギ→混ぜるな危険。


 ジーノ・イリュート・リリアーナの視線が自然、残ったサロメの方へ向く。

 だがしかし。


「熊は無理です」


 真顔で即答だった。

 ですよね。

 いくら暗器をも使いこなす女傑で万能の侍女とはいえ、もともとはサロメも貴族の子女である。

 熊なんてさばいたことがあるわけなかった。

 降りる沈黙、重いため息。

 が、ここでふとイリュートが首を傾げた。


「……あの、黒い人……どこ?」


 その言葉に、騎士団長とサロメ、リリアーナははた、と気付いて瞬きをする。

 イリュート曰くの『黒い人』すなわちミコトである。

 言われてみれば確かに、先ほどからその姿が見えない。あれだけ大騒ぎしていたのにもかかわらず何の反応もなしである。


「あら? そう言えば……」

「どこへ行かれたのでしょう?」


 首を傾げる女性陣。そこに、あはっと明るい笑い声。


「大丈夫大丈夫~。ミコトならあそこだからさ」


 そうして笑いながら、スラギは馬車の近くを指差した。

 そこでは。


「てめえらいつまでグダグダ言ってんだ。用意できたぞ」


 焚火に簡易のかまど、諸々の食材に調理器具が美しく並べられ、野営の準備が完璧だった。

 道理でこの暗い中互いの顔がよく見える筈である。

 ……というか。


 あ、この人慣れていらっしゃる。


 全員が一瞬で悟ったのであった。













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