何事もいつかは慣れるものです
でだ。
スラギと熊を中心に、もう今夜は野営ということで仕方がない。それは潔くあきらめた。
問題は熊である。
熊である。
沈黙が下りる一行、しかしそれを裂くように小さく声が一つ上がる。
「……ん? あ、わたくし、また気を失っていたのね……」
王女である。熊の死体を見て意識を飛ばしていたが、侍女・サロメの介抱で何とか回復したようだ。
が。
「……ッッッッ!」
王女は見た。見てしまった。
未だ凶悪に傍近くに仰臥する熊の死体を。
「~~~~~~~~~!」
王女は声にならない悲鳴を上げてサロメにしがみつく。
「なんですの!? なんなんですの!? なんでそれがまだあるんですの~~~!?」
絶叫、木霊。
「姫様、お気を確かに!」
「姫様、……大丈夫。アレ……死んでる」
「あはっ。お姫サマ元気だね~」
「元凶が何言ってんだお前」
宥めるサロメと騎士・イリュート、この期に及んで笑っているスラギ、その喉元を締め上げる騎士団長。
カオスだった。
そしてそのカオスが何とか収まったのは、優に三十分の後の事であったのである。
ともかく。
「結局だ。……熊、……どうするんだ?」
熊を中心に円陣を組んだ状態で、騎士団長はこれ、と顎で熊の死体をさす。
死体だから既に元の場所には返せない。だからって捨てていくわけにもいかない。
つまり、どうにかこうにか処理をしなければならない。
が。
騎士団長・ジーノ→料理できない。
騎士・イリュート→料理できない。
王女・リリアーナ→接触拒否。
元凶・スラギ→混ぜるな危険。
ジーノ・イリュート・リリアーナの視線が自然、残ったサロメの方へ向く。
だがしかし。
「熊は無理です」
真顔で即答だった。
ですよね。
いくら暗器をも使いこなす女傑で万能の侍女とはいえ、もともとはサロメも貴族の子女である。
熊なんてさばいたことがあるわけなかった。
降りる沈黙、重いため息。
が、ここでふとイリュートが首を傾げた。
「……あの、黒い人……どこ?」
その言葉に、騎士団長とサロメ、リリアーナははた、と気付いて瞬きをする。
イリュート曰くの『黒い人』すなわちミコトである。
言われてみれば確かに、先ほどからその姿が見えない。あれだけ大騒ぎしていたのにもかかわらず何の反応もなしである。
「あら? そう言えば……」
「どこへ行かれたのでしょう?」
首を傾げる女性陣。そこに、あはっと明るい笑い声。
「大丈夫大丈夫~。ミコトならあそこだからさ」
そうして笑いながら、スラギは馬車の近くを指差した。
そこでは。
「てめえらいつまでグダグダ言ってんだ。用意できたぞ」
焚火に簡易のかまど、諸々の食材に調理器具が美しく並べられ、野営の準備が完璧だった。
道理でこの暗い中互いの顔がよく見える筈である。
……というか。
あ、この人慣れていらっしゃる。
全員が一瞬で悟ったのであった。