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マインドコントロールパネル  作者: 小沢 健三
第5章 “開戦”
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5-4 焦がれるほど

東京国際フォーラム、ホールA。


5,000人を収容する巨大ホールだ。


ここで、クルミン主演の新作映画「焦がれるほど」のプレミアム試写会が行われる。

クルミンだけでなく、あまりテレビを見ないアラタでさえ全員の名前が分かるくらいの豪華キャストだ。


アラタは、純哉と共に会場に来ている。

内容は、新米ジャーナリストであるクルミンがある殺人事件を調べ始めたのをきっかけにその背後にある巨悪に気づき戦うという社会派サスペンスらしい。

クルミンにとってもこれまでになかった難しい役どころだと言っていた。

これまでは、学園ものやラブストーリーが殆どだったと思う。

いわゆるアイドルもののドラマや映画、という感じだった。



付き合ってしばらくした頃、2ヶ月位この映画にかかりっきりでなかなか会える時間を取ってもらえなかったことを思い出す。



純哉にはクルミンと付き合っている事は言っていないので、知り合いからチケットを貰った、とだけ伝えている。

純哉にぐらいは伝えても良いのかも知れないが、念のためだ。


5,000人という人数は、なかなか壮観だ。

ステージ側から見るとさらに迫力を感じるだろう。

ミュージシャンなら人前に出る仕事には慣れているが、クルミンは舞台などを除いて意外と人前に出る仕事は少ないらしい。

昨日の夜はかなり緊張した様子だった。



ライトが落とされ、出演者たちがステージに登場した。

割れるような拍手と歓声。

クルミン、かなり緊張して監督に突っ込まれている。

そんなクルミンが可愛い。

「クルミン、頑張れ~!」なんて声が飛ぶ。

改めて、スゴイ人気なんだなぁと実感する。


クルミンは俺の彼女なんだと叫びたい衝動に駆られるが、変人扱いされてつまみ出されるのがオチだろう。


クルミンと共に主演を張っているのは前田 淳太郎。

彼のドラマをアラタは見たことがなかったが、CMなどで見かける機会は多い。

ちょっと癖のありそうな、アンニュイな感じのイケメンだ。

クルミンと同じように声援が多いが、こちらはいわゆる黄色い歓声だ。

「ジュンタロウ様~!」とか、「ジュンく~ん!」とか。


“イケメンに対して様付けして呼ぶ人っているけど、理解できないな。”


監督の「それでは皆様、お楽しみください。」という声と共に会場が暗転し、映画が始まる。



前田がクルミンの彼氏で刑事、権力的な邪魔を受けつつも一緒に謎に挑む正義漢、という役どころ。

なかなか硬派な映画だ。

大人の映画だな。

クルミンもそうだし、前田もアイドル的な人気なので、話を聞いた時にはこのキャストでこの内容は冒険だという印象を受けたし、そういう論調のニュースも見たので心配していたのだが、二人ともやはり役者なんだなぁと思った。

見ていると引き込まれるし、いつものクルミンとは全然違う、りんとして悪に立ち向かう女性がスクリーンに映し出されていた。



「見損なわないで。私は貴方の女よ。」



ラストシーンの少し手前、事態の大きさに戸惑い手を引かせようとする前田演じる彼氏に対して言い放つセリフだ。

このセリフはCMにも使われていたが、決意に満ちたクルミンが“可愛い”ではなく“カッコいい”。

それもかなりカッコ良かった。



前田淳太郎も良い役者さんだとアラタは思ったが、この映画の中ではクルミンが食っている。

そういう演出なのだろうし、贔屓ひいき目もかなりあるのだろうが、これは誰が何と言おうと“クルミンの”映画だ。




エンドロールが流れ、万雷の拍手と共に再び出演者たちが登場する。



普段通りの、ふにゃっとした感じのクルミンがそこにいた。


「いやぁ、くるみちゃん、めっちゃカッコ良かったですよね!」と前田が振ると、「いえいえそんなっ!皆さんがカッコ良く撮って下さったおかげです。」と謙遜する。



「同じ人だと思えないよね」と監督が言うと会場が笑いに包まれる。



楽しそうなチームだ。

その後、しばらく話した後に出演者が客席に降りて来て、よく見る観客をバックにした写真を撮影して終了となった。



「いやぁ、いい映画でしたね~!藍澤くるみちゃんは印象がずいぶん変わったな~。あんな役も出来るんですね!」



純哉が興奮した様子でそう言う。クルミンを褒めてくれると自分の事の様に嬉しい。


「あれ?純哉って殆どテレビ見ないから女優さんとか殆ど知らないんじゃなかった?」


「イギリスにいた頃、ちょくちょく姉から日本のテレビを録画したDVDを送って貰ってたんですよ。その中に藍澤くるみが出演してたドラマがあって。僕が知ってる数少ない女優さんの1人です。」


「へぇ。そうなんだ。」


純哉でも知ってる女優さんなんだということが誇らしい。


「けど今は、大垣みどりちゃん一筋だけどね、純哉君!」


そう言って純哉の肩をポンポンと叩く。


「そ、そんなんじゃありませんってばっ!」


「あれ〜?良いのかな?今度みどりちゃんとの飲みでもセッティングしようと思ってたのに。じゃあめとこうかな〜。」


「え!そ、それは是非…。」


「そうなの?別に興味ないんでしょ?」


「わ!分かりましたよ!社長のお考えの通り、エレベーター前で会って雷が落ちたみたいにノックアウトされました!大垣さんの事ばっかり考えてます!そう言えば良いんでしょっ!」


「うむ。人間素直が一番!」


そう言って純哉の肩をまた叩いて笑う。


むくれた顔を向ける純哉だが、自分の為に誠心誠意働いてくれている右腕に対して、仕事以外の部分で何らかむくいられる事が嬉しい。


オフにしていた携帯に電源を入れると、留守電が入っている。



「岩井だ!ヤバい事になったぞ!至急連絡をくれ!」



楽しい気持ちはアッと言う間に消え去っていった。

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