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マインドコントロールパネル  作者: 小沢 健三
第1章 “入手”
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第1章 “入手” -4 過剰な思い

池上かおりと激しく求めあった翌日、かおりとは長津田駅で分かれ、昨日と同じく渋谷の百貨店前スペースにあるイベント会場へと向かう。


4日間の予定で行われるサンプリングイベントの、今日は3日目だ。


今日は土曜日。

昨日までの平日二日間とは違い、一日中人通りは絶えないだろう。

朝、スタッフと簡単なミーティングを行い、10時からサンプリングが始まる。

18時まで8時間、新製品の飲料を配り続けるのだ。


1時間ほどして、中村がやってきた。


「深見様!おはようございます!ささ、ここは私めに任せ、深見様はお休み下さい!」


「いや、大丈夫だ。今は少し人通りも多い。落ち着いたら話をしよう。」


「ははっ!仰せの通りに!」


1日経っているので能力がマインドコントロールパネルの効果が続いているのかどうか不安だったのだが、大丈夫の様だ。


その後、人通りは落ち着くことなく、アラタも中村も声を出して道行く人に飲料を渡し続けた。

もっとも、最終的に渡すのはコンパニオンなので、主に立ち止まらせる事がアラタの仕事だ。


14時を過ぎるころになり、スタッフに一通り昼休憩を与え、休憩を取っていないのはアラタだけとなった。

中村は、同じキャンペーンが原宿でも行われているために2時間ほどそちらに対応していた時間があり、おそらくその時に食事は済ませているはずだ。

アラタが食事休憩を取るにあたり、中村と話すことがある。


クルミンの事だ。


中村が所属しているのは、なかなかの規模のイベント会社であり、大手広告代理店からの発注で今回の様なサンプリングイベントにとどまらず、スポーツや音楽、映画、その他様々なイベントを請け負っている。


その中でクルミンが出演するイベントもあるかも知れない、と言うのがアラタの予想だったのだ。


実際に中村から、有名女優やアスリートとの仕事の自慢をされたことは一度や二度ではない。

その時はくだらない自慢が早く終われと願っただけだったが、今は状況が違う。

クルミンと会うにあたり、中村は貴重な戦力で、頼みの綱と言っても過言ではないのだ。



「おい中村。」


「はッ!何かご用でしょうか!」


「藍澤くるみと仕事をしたい。」


「藍澤くるみでございますか。私もあいにくご一緒させて頂いた事はございませんが、ちょっと社に戻って確認をしてみます。ひょっとしたら彼女が出演する何らかのキャンペーンなど、情報があるかも知れません。すぐに戻って調べてまいりますので、しばしお待ち下さい。」


というと、駆けて行ってしまった。


まだイベント中なのに、フットワークの軽いヤツだな。

如何にいなくてもいい存在か、という事だけど…。


2時間ほど経っただろうか。

走ってきた中村に気づいたアラタは、現場から少し離れた場所を目で示し、中村をそちらに来させた。


「深見様!お待たせしてしまい申し訳ございません!」


「いや、それはいい。で、どうだった?」


「はっ!2週間後、彼女が新たに出演する化粧品のCMがあるようでして、そのメディア向け記者会見が予定されているとのことでした!」


「おぉ!そうか!」


「他部署の業務ですので多少手間取りましたが、深見様を含む、御社スタッフが藍澤くるみ他出演者のアテンドをお願いするポジションをねじ込んで参りました。」


「でかしたぞ!中村!」


「ははっ!お褒めに預かり光栄にございます!」


なぜか、中村と話していると歴史小説に出てくる主従の様な言葉遣いになってしまう。

「でかした」なんて言葉は使った記憶がないのに、中村の態度があまりにもへり下っているため、そうなってしまうのだ。


それにしても、中村は実は仕事ができる男なのだろうか。

社内の調整とはいえ、わずか2時間程度で求めたことをここまで完璧にまとめてくるとは。

意外と侮れない存在なのかも知れない。


いずれにしても、クルミンと面識を持つためのチャンスは得られた。

2週間も先だと思うと待ち切れない気持ちだが、それは仕方ないだろう。



----


18時になり、仕事が終わると、昨日と同様に報告書の作成を中村に任せ、家まで送る、と言うのを振り切り、駅へ向かった。


携帯を見ると、着信15件、メールが28件も来ている。

何事かと思ってみると、着信の1件が中村からのものであった以外はすべてかおりからのものだった。

中村からの電話は、時間的にクルミンの事を調べてその報告だろう。

なのでこれはスルーしてよし。


留守電も4件入っている。


「アラタ君、昨日はありがとう。また電話します。」


「アラタ君、今日は何時ころお仕事終わるかな?私は16時に終わる予定なんだけど…。連絡待ってます。」


「何度もごめんなさい。もし迷惑だったらいいので…。」


「……。」


メールの内容も大体同じだ。


「これから稽古、頑張ります!」


「今休憩。演出家の先生に怒られた、怖いよぅ。」


「アラタ君、今はどんなお仕事なんだっけ?そう言えば昨日聞かなかったよね。」


「あと30分で稽古も終わり!アラタ君に会いたいよぅ!」


と、そんな内容だ。


ちょっと怖くなる。


折り返し電話をかけようかと迷ったが、かけずに電車に乗り込んだ。


すると、乗車中に携帯が振動する。

画面には“かおり”の文字。


「ごめん、電車だからかけ直すよ。」


そう言って反応を待たずに電話を切った。


「今日は仕事で遅くなります。ごめんね。」

と書いたメールを送ると、1分もせずに返信が来た。


「頑張ってるんだね、お疲れ様。忙しい中何度も電話しちゃってごめんなさい。また連絡するね。」


ハートマークが10個ほど並んでいる。


面倒なので携帯の電源を落とした。


その日はそのまま携帯の電源を入れることなく、テレビを見たりクルミンの過去のドラマをウェブで観たりして23時には布団に入った。



翌朝、いつも通り7時前に目を覚ます。

携帯の電源を入れると、新着メール41件、着信17件と表示されている。


全てかおりからのものだった。

留守番電話も6件。当然、全てかおりだ。


最後のメールは4時前。それまで、ほぼ15分おきにメールが届いている。


かおりを避けているつもりはないが、ここまでされてしまうと逆に連絡し辛くなる。


3件程のメールを読み、残りは読まずに消去した。


準備を整えて家を出る。

百貨店でのイベントは今日で最後、明日は休みだ。


駅へ向かう途中、携帯が振動する。画面にはやはり“かおり”の文字。


「あ、もしもし!アラタ君⁉良かった!昨日電話に出なかったから心配したよ!」


「あぁ、ごめん。充電が切れちゃっててね。昨日は遅かったしそのまま寝ちゃったよ。今朝電源を入れたら何度も電話くれてたみたいで、悪かったね。」


「ううん、それはいいの。」


「あ、ごめん。これからまた電車に乗っちゃうんだ。だからあまり話してられなくて。」


「そうなんだ。日曜なのに大変だね。」


「うん。じゃぁまた連絡するよ。ごめんね。」


そういうと電話を切る。


正直、かおりのことが怖くなってきているが、迷惑だとかメールや電話をしてくるなとか、そういうことを言えないのはアラタの悪いところだろう。


それに、そもそもかおりのこの行動はマインドコントロールパネルの影響なわけだし…。

自分が仕掛けておいて、これで迷惑だのと言うのは流石に自分本位過ぎる気がする。


そんな事を考えながらアラタは、平日に比べてすいている田園都市線に乗り込んだ。


----


その日も、仕事はいつも通りだった。


アラタを含むスタッフはもう同じ場所で4日、サンプリングを続けている。

みんな勝手がわかっているし、連携も取れる。

特別なことはなく予定していた本数を配布し終え、予定よりも30分ほど早く終わった。


最終日と言うことで、終了後に打ち上げが予定されていた。

コンパニオンは若干名、あとはアラタとその上司、中村とその部下。

総勢8名ほどになる様だ。


片づけを終えて予約してある居酒屋へと移動する。


その間に携帯を見ると、着信7件、メール21件。

すべてかおりからのものだった。折り返しはせず、内容も確認せずに、電源を切って店に入る。


4日間同じ場所で働いたメンバーとの打ち上げは楽しかった。

今は中村がいることも嫌ではないし、中村自身も以前の様にくだらない自慢話をすることはない。

ただ、常にアラタのグラスをチェックしていて、少なくなるとすかさず注文する。

気づけば普段よりもだいぶ多く飲んだ。


アラタの鞄を中村が持つと言うのに対して、アラタの上司と中村の部下は苦笑いしていたが、この数日でそんな中村の様子にも慣れたのか、口を挟んでくる事はなく、気持ち良く酔っぱらうことが出来た。


2次会も終わり、電車に乗ったのは24時前。


自宅まで送るといって聞かない中村を無理やり彼の最寄り駅である鷺沼で降ろし、長津田駅についたのは24時半を回っていた。


携帯を見ると、新着メールは47件になっている。


見るのも面倒でそのまま家に着くと、ドアの前にかおりが座り込んでいた。

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