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マインドコントロールパネル  作者: 小沢 健三
第2章 “人脈”
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第2章“人脈” -4 営業成績

「どう言う事ですか…?」


沼津耕一郎の事務所。

社長室の応接スペースで、アラタは沼津耕一郎と対面している。


逃げる、と沼津は言った。

何から、誰から逃げると言うのだろう。


「言葉の通りだよ。深見君、僕はもう、逃げるか殺されるか、2つに1つしか選択肢がないんだ。みすみす殺されるつもりはないからね。だから逃げる。」


「待って下さい。話が全く見えないんですが、目標を達成したのになぜ逃げるんですか?」


「目標を達成したからこそ逃げるんだよ。もっと言えば、今回の宇宙科学関連ファンドは最初から、その為のものだった。」


「…つまり、今回の宇宙科学関連ファンドは、詐欺だと…?」


「詐欺か…。残念ながらそういう事だ。サンジャイ・クマールなんて言う学者は存在しないし、革新的なバルブが開発されているなんて言う事実はない。」


「そんな……。では、集めた金を持って逃げるんですか?」


「いや、それも違う。今回集めた15億円のうち、私の手元にはもう1億も残っていない。」


「それじゃ…。」


「金は、ある組織に巻き上げられたよ。そして、私が逃げるのも、その組織からだ。」


「その組織…とは?」


「いわゆる、暴力団だ。僕は彼らから金を借りていてね。ギャンブル依存症ってヤツさ。それも重度のね。僕自身も何度も辞めようと思ったけど、駄目だった。」


「ギャンブル⁉︎15億円ですよ⁉︎そんな大金をギャンブルで負けたって言うんですか⁉︎」


「深見君には本当に、申し訳ないと思っている…。」


「申し訳ないとかって話じゃないですよ!じゃあ僕も詐欺の片棒をかついでいたって事じゃないですか!」


「あぁ…。すまない。」


理解が追いつかない。

アラタにとってギャンブルと言うのはせいぜい数十万円の話だとしか思えないのだ。

主婦がパチンコにハマって借金取りに追われる様なドラマを見た事があるが、そんなものとはレベルが違い過ぎる。


いや。そんな事よりも問題はアラタが沼津とともに既に1億円もの金額を手に入れてしまっている事だ。

詐欺事件の犯人なのだ。


知らなかった事とはいえ、犯罪である事は間違いない。

自分がしてしまった事が急に恐ろしくなり、島田裕三達、アラタが会った人達の顔が次々と浮かんでは消える。


冗談を言っているのではないかと、そうであってくれと願ったが、沼津の絶望的な表情がそんな淡い期待を打ち消す。


「最初から…、詳しく話して頂けませんか?」


「あぁ…。」


沼津の話はこうだ。


元々アメリカ時代にギャンブルにハマった沼津は、日本に戻って来てから所謂いわゆる違法賭博に入り浸っていたらしい。

本業は順調で収入はどんどん増えたが、その殆どをギャンブルに費やし、すぐに借金をする様になった。


次で勝てば取り返せる、と…。


気づけば沼津の借金は億を超えていたが、胴元である組織は沼津が金を稼ぐ事については秀でていると判断し、どんどん金を貸してはその金をギャンブルで巻き上げていった。

返済しなければならない金額が5億に近づいた時、今回の詐欺の話を持ち掛けられたのだと言う。


テレビではカリスマ投資コンサルタントとしてあがめられている沼津の名声を使って巧みに資金を集め、また同時に沼津の取り分は返済と新たなギャンブルで巻き上げる。


そして1週間ほど前、どうやら警察が調べ始めている、という事で沼津はトカゲの尻尾を切られるかの様に最後通告を突きつけられた。

残りの借金は2億円。今月中には耳を揃えて返す事。さもなければ殺す、と。


「元々、僕の名声なんて既に業界内にいる上の方の投資家達には通用しなくなっているんだよ。ギャンブル依存症だって事も彼らはすぐに調べるし、宇宙科学関連ファンドだって雲をつかむような話さ。まともな判断力がある人ならこんなのには引っかからない。テレビに出ているカリスマ投資コンサルタントだからまさか詐欺ではないだろう、と言う心の弱みに付け込んだわけだ。」


確かに、アラタの心理もそのまま“テレビに出ているカリスマ投資コンサルタントだから大丈夫”と言う短絡的なものだった。

疑いもせずに島田達にマインドコントロールパネルを使い、金を出させてしまったのだ。


「だが、さっきも言った様に、投資の専門家達は私のカリスマなど信用しない。そして、そういった人達の影響力が伝播でんぱし、以前の様に金は集まらなくなっていった。いや、先日のセミナーの様な形で小口を集める様にしているので人数で言えば増えているんだが、金額は、深見君と会った様な人達の10分の1以下になった。」


すると、同じ金額を集めるのに労力は10倍以上になる。

1,000万円も100万円も、出す側からしたら自身の貴重な資産である事は変わらない。

いや、投資慣れしていない分、より難しいだろう。


「恐らく、組織の連中もそれを分かって切り捨てようとしたんだろう。稼げなくなった僕には何の価値もないからね。そろそろ潮時しおどきだと。」


「……。」


「だが、そんな時に僕に神が救いの手を差し伸べたんだ。」


「救いの手…?」


「君だよ、深見君。」


「僕…ですか?」


「このところ僕の営業は空振り続きだったと言うのに、君を連れていけば確実に出資を引き出せる。まさに神がつかわした救いの手だ。」


アラタが、と言うかマインドコントロールパネルが、と言い換えるなら、神の救いの手と言うのも納得出来る話ではある。


だが、アラタから見ると沼津は、こうなった以上もはや厄災の種でしかない。

沼津にとっての救いの手であるなど、迷惑もいいところだ。


「君と出会ってからのこの2週間の成績は異常だ。恐らく、そう遠くない将来に組織が君の存在を知るだろう。いや、ひょっとしたらもう勘付いているかも知れない。」


その瞬間、アラタがにらむ様に沼津を見る。


「いやいや、待ってくれ。僕は君の事を話してはいないよ。そこは信じて欲しい。だが、僕は常に監視されているからね。このところの好成績と、君を結びつけてもおかしくはない。そうすると、必ず君に魔の手が伸びる。金で釣るか女で釣るか、それとも詐欺の片棒を担いだと言う証拠を見せて脅すか…。いずれにしても、君のその能力を使い潰そうとするだろう。」


アラタの顔から血の気が引いていく。


「待って下さい。とはいえ、沼津さんはご存知の通り、僕は打ち合わせに立ち会っただけで何もしていません。僕にお金を集める力なんてないことはすぐに分かる筈です。」


「そうだろうか?…君は、何かを隠しているね?」


既に血の気が引いた顔から、更に血の気が引くのが分かった。

まさか、マインドコントロールパネルの事がバレているのだろうか。


「い、いえ…、僕は何も…。」


「まぁ、私にも君が何を隠しているのかは分からない。ただ、これまでの結果が何かを隠している事は証明している。何かとんでもない力を君が持っている、とね。」


「……。」


「だって、理屈では説明がつかないよ、君のこれまでの成果は。少し口をはさんだだけで成約率が100%になるんだ。既に1億を超える金を引き出している。それがたまたまだなんて誰が信じる?そして、組織がその力を隠させたままにするとは思えないんだ。あらゆる方法で君の力を引き出し、組織の為に使わせようとするだろう。」


言われてみればその通りだ。確かに異常な事をアラタはして来ている。


ここで初めてアラタは自分が失敗していた事に気付いた。

沼津が言った様な事に対し、つまり成功する事に対して何の警戒もなく、100%の営業成績を上げてしまったのだ。


投資や宇宙科学に、全く何の知識も持っていないにもかかわらず。

普通の人間なら、それがおかしいと思わない筈がない。


「だから、僕だけでなく君も、一緒に逃げよう。僕らで組めば、どこにいても不自由はしない筈だ。」


「……。」


「出発は4日後の予定だ。すぐに結論を出すのは難しいだろうから、それまでよく考えてみてくれ。」


「はい。分かりました…。あと、ちなみにその、組織、と言うのは…?」


朝熊あさま組。日本で3本の指に入る暴力団だ。」



沼津の事務所を後にする。


最初から沼津と一緒に逃げるつもりはないが、最後の名前を聞いてますますその思いを強めた。


朝熊あさま組。


日本で暮らしていれば誰だって一度は聞いた事のある暴力団。

テレビの中でしか知らない世界だ。絶対に関わってはいけない。



周囲はすっかり暗くなり、六本木の街はにぎわいを見せはじめている。


キャバクラやガールズバー、居酒屋の客引き、カップルや仕事関係の仲間なのだろうという団体…。


だが、それらの喧騒けんそうは全くアラタの耳には入らなかった。

3日間、1日2話投稿させて頂きましたが、いかがでしたでしょう?


ストック分はまだあるので、しばらく続けても良いかなとも思うんですが、それで足りなくなっても困るなぁと言う思いもあり、明日からまた18:00のみの更新とさせていただきます。


もし、反響が多かったりする様なら、改めて2話投稿の期間を作ったりするかも知れません。


ブックマーク、評価、感想等、何かしら足跡を残して頂けると励みになります。


マインドコントロールパネル、引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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