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マインドコントロールパネル  作者: 小沢 健三
第1章 “入手”
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第1章“入手” -11 天使とプラダ

代々木公園。明治神宮に隣接し、JR原宿駅から千代田線代々木公園駅まで広がる広大な公園。

540,529.00㎡の広さは都内で4番目の広さらしい。


その代々木公園の西側に富ヶ谷と言う地域があり、天使はそこに住んでいた。

現首相の自宅もその近くにあるらしく、あちこちに警官が立っている。


その一角にアラタは車を停めて待っていた。


天使がアラタにお土産を買ってきていたのに、朝急いでいた為に渡せなかった、と言って少し待っていてくれと言われたのだ。


少しすると、アラタの天使ことクルミンがマンションの入り口から出てきた。


「ごめんね、待たせちゃって。」

助手席側のドアを開けて再び乗り込むと、クルミンはそう言った。


「はい。これ。」

手渡された紙袋には「PRADA」の文字。


「あ、あの、えっと…、別に深い意味とかそう言う事じゃないよ。前回もご馳走して貰ったし、今回もその、散財させちゃったかなと思って。」


「ううん。俺がしたくてしたことだから、全然気にしないで。けど、プラダだなんて高かったんじゃないの?」


「あの、前回食事に行った日の翌日から撮影で海外だって言ってたでしょ?その時はフィレンツェでテレビのロケでね。えと、あの、自由時間もあまりなかったし、アラタ君にどれが似合うかなとか、あの、そう言うのも良く分からなかったから、無難なものと言うか、あの、おかしくないものと言うか、あの、もし気に入らなかったらごめんなさい…。」


袋を少し開けて見ると、ベルトの様だ。3万くらいはするだろう。

すぐに金額に換算するアラタもいやらしいが、“はい、お土産”と言って渡せるレベルのものではない。少なくともアラタにとっては。


「ありがとう。大事に使わせてもらうよ。」


「今日は本当にどうもありがとう。」


クルミンに笑顔を返す。

何か考えている様な、戸惑っている様な表情だ。


「…。」


「ん?どうしたの?」


何かモジモジしている。言いたいことがあるのだろうか。


と、助手席から身体を伸ばしてチュっとアラタの頬にキスをすると、「じゃ、じゃあまたね!」と言ってドアを開けて走って行ってしまった。


呆然とその姿を見送るアラタ。

天使の唇が確かに触れた、自分の頬をさする。


さすっていると、り残しのひげが気になった。

いや、朝剃って今はもう夜だ。多少伸びるのは仕方がない。


仕方がないが、天使の唇を受け入れたその少し伸びたひげうらめしい。


にしても…。


「うわぁ!ほっぺかよ~!!」


モジモジした様子に気づいてアラタの方から動いていれば、口に出来たかも知れないのに!!

でも!さっきのモジモジはアラタにキスをして欲しいというのを言い出せないモジモジだったのか!


“可愛すぎる…!”


改めて喜びが湧きあがってくる。


“とはいえ、彼女になってくれたんだ。これから少しずつより深い関係になっていければ…。”


顔がニヤケて来るのを抑えられない。

前から警官が歩いてくるのを見て、慌ててサイドブレーキを下ろし、バックミラーを見ているふりをした。

さすがに首相を狙うテロリストだとは思われないだろうが、今のニヤケ顔は軽く不審者だと思われても仕方ない。

職務質問でもされたら面倒だ。


“けど、改めて、クルミンとデートしてたんだな、俺…。”


ファンに見つかったら、下手すりゃ殺されるんじゃないだろうか。なんて事が頭をよぎる。



----



そこから、およそ2時間弱かけて長津田に戻り、レンタカーを返すと自宅に戻った。

鍵を開ける。


手にはプラダの紙袋。

夢の様な時間と比べて、アラタの部屋はなんて狭く、雑多で、男臭い生活感に溢れている事か。

場違いだと訴える様な“PRADA”のロゴが、フォントが、なんと洗練されていることか。


プラダに代表されるような、クルミンのセレブリティとしての仕事や生活と、この雑多で生活感に溢れたアラタの部屋は対局にある様に思える。


考えてみればマインドコントロールパネルを手にしておよそ1ヶ月、夢にまで見たクルミンとデート出来て、彼女にする事が出来たが、クルミンと自分では違い過ぎる。


ディナーを食べたレストランの店員の表情を思い出す。


“藍澤くるみの彼氏になったのがコイツか、大したことねぇな。”


もちろん、本当にそう思ったのかどうかは分からない。

そもそもあの店員がクルミンに気づいた様な気がしたことすらアラタの被害妄想かも知れない。


“けど…”


鏡の前に立つ。


今日の為にそれなりにお洒落はしたが、それでも藍澤くるみの彼氏としてふさわしいかと言うととてもそうは思えない。


誰がどう見ても不釣り合いだ。


芸能であるとか広告であるとか、ヒエラルキーで言うと末端の末端にいるイベント会社の、それも平社員のアラタと、頂点に限りなく近いところにいる、藍澤くるみ。


誰がどう見ても不釣り合いだ。



“俺が、ふさわしい男になる必要がある。”



その為の手段はもう手にしている。真っ黒のタブレット。


アラタが目を向けると、自然に電源が入る。どういう仕組みなのかは分からないが、アラタの意志を感じているのだろう。


「成り上がるなら力を貸すよ。」


と、そう言われている様な気がした。



いつもの“被操作者を入力して下さい”の文字。


だが、ふと目についた右上の「97」と言う文字。


“こんな数字あったんだ。全然気づかなかった。”


何だろうと思ってその数字をタップしてみると、ポップアップでヘルプ画面があらわれた。


「適用可能な残り人数です。」



“人数制限があったのか!”



アラタがマインドコントロールパネルを手に入れてから、使ったのは中村とかおり、そしてクルミン。


“という事は、初期は100人だったという事か。”


多いのか少ないのか。


そういえば、かおりの思いは既にキャンセルしている。

という事は、コントロールした人数という事で、キャンセルしたから対象人数が戻るわけではないという事だ。


“となると、対象をしっかり見極めてからターゲットにする必要があるな。”


まだ97人いるとはいえ、何が必要になるかわからない。


ヘルプを見ていると、グループに対して使う事も出来る様だ。

1人に対して使う力を10人以下のグループに分ける事が出来る。ただし、10人のマインドパワーの合計は1人に行える75%未満だとのこと。


つまり、Aと言う対象の事がどうしようもなく好きな1人を作る事も、そこそこ好きな10人を作る事も出来ると言うことだ。

これを使えば、97人が970人になる。だとしたらこれは大きい。


中村もかおりもクルミンも、全て100%に設定した。


中村は主従なので少し違うが、確かにかおりとクルミンは2人ともアラタの事が好きで好きで堪らないと言う感じだ。


だが、そもそも好きだという思いを数値化なんて出来るのだろうか。

思いを10人で割ってその75%という事は7.5%好きだということだ。

さすがにそれだとあまり意味はない様に思える。

というか、7.5%と言うのがどの程度なのか分からない。


さらに調べてみると、同じ対象に対してのグループの重複は出来ないとの事なので、例えばアラタを好きな10人のグループを作ったとして、もう1つアラタを好きなグループを作って同じ人を入れ、足して15%にする事は出来ないらしい。


ただ、例えばアラタを好きなグループとクルミンを好きなグループを作って、それに同じ人を入れる事は出来る。


“けど、人数制限があるのに対象を自分以外にすることなんてあるんだろうか。”


自分の右腕的な役割の人間を作り、そいつにお金を出させるとか、かな。

もしくは、アラタがクルミンのマネージャーだとしたら、クルミンをどうしようもなく好きな人を作ったりそこそこ好きなグループを作る事には意味があるかも知れない。

いやいや、自分以外の人に、わざわざクルミンを大好きにさせる意味がわからない。

マインドコントロールパネルでクルミンのアラタへの思いを100%にしている以上、そいつに(なび)く可能性はないのだろうが、それにしてもわざわざライバルを作る必要はない。

色々考えてはみたが、それなら自分に金を出させた方が良い様に思う。

結果的に自分の利益に繋がらなければ意味がない。


まぁ当分はそんな使い方はしないだろう。

とりあえず知っておいて、必要があれば使えばいい。



いずれにしても、人の心を自由に動かせると言うのはものすごい力だ。

神の技と言っても良い。

これをどう使うかはしっかり考えないと。



“97人か…。”



今思えば、少なくともかおりの分は必要なかったように思う。

かおりにしてみれば、別れた彼氏に急激に気持ちが戻ったけど、ふと気づいてみればやっぱりそんなに好きでもない、一時の気の迷いだったわ、みたいな事だろうか。



“確かに、気持ち良かったけど…。”



…。



中村も微妙なところだ。

結果的には中村からクルミンに繋がった訳だが、制限があると分かっていたら中村に対して使っただろうか。


2人分無駄にしてしまった様な気がしてならない。


まぁ過ぎてしまったことは仕方がない。


いずれにしても、クルミンの彼氏としてふさわしい男にならなければならない。


顔だとか身長を変えられるわけではないから、やはり経済的な事だろう。

少なくとも、この狭くて雑多な部屋から抜け出したい。

クルミンのそばに住みたい。でもあのあたりは高い。

同じ広さでも長津田と3~4万は軽く違うだろう。



“次はお金持ちを狙おう。”


独立して、出資を集める。

何百億も持っている有名カリスマ社長みたいな人がターゲットだ。

もちろん、現時点でそんな人に知り合いはいない。だが、マインドコントロールパネルの力をもってすれば、クルミンの様に知り合いさえすればいいのだ。


方法は幾らでもある筈だ。

これで第1章は完結です。

ここまではタイトル通り、マインドコントロールパネルを“入手”するくだりでした。


次章から、あらたが成り上がっていく為の展開に変わっていきます。


セクシーなシーンは殆どなくなると思います。あしからず…。

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