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今回はちょっと読みづらいかもしれません。
勢いとは怖いですね。
「季? また来れたの?」
さっきと変わらない母さんがいた。
つまり、またここに来れたってことだ。
「うん。もう一回、母さんと父さんに会いたい! って願ったんだ」
ちょっと違うけれど。
ぼくの願ったことは、「『現実』なんか、無くなっちゃえ」だけど。
「そうなの?」
母さんは、心底驚いたという顔をした。
何でだろう。
母さんは、ぼくがもう来ないと思ったんだろうか?
それとも。
来てほしくない、と思ったんだろうか……?
ふと浮かんだ考えを、ぼくはぶるっと頭を振って追い出した。
でも、ぼくはその考えをすぐさま否定することはできなかった。
母さんが、こっちを向いた。その顔は、真剣だった。
「ねえ、季。ここは、季の世界じゃないわ。季は、ここに居てはいけない存在なの」
「でも。ぼくは、あっちの世界じゃなくて、こっちの世界に居たいんだ」
「季が居たくても、ここには居れないの。駄目。帰らなきゃ」
そんなこと、ルディは言わなかった。
そう言おうとして、気が付いた。
ルディは、ぼくが二回もここに来るとは思わなかったんじゃないか。
本当は、一回しか来てはいけなかったんじゃないのか。
「うん。来ちゃ、駄目だったのかも知れない。……でも、帰り方を知らないんだ」
母さんの口が、え、というふうに止まった。
「さっき来たときは、帰れてたじゃない」
「さっきは、何も考えなくても帰れたんだよ」
そこまで言って、ふと思った。
一回目は帰れる。でも、二回目は帰れない。
なぜなら、二回もここに来ないと思っているから……。
そんなわけない。そう思おうとしても、怖くなってくる。
もしそうなら、あっちの「季」はどうなる?
消える。存在が無かったことになる。
……まさか。そんなこと無いよ、と自分に言い聞かせた。
「季、ルディくんに何か言われなかったの? 会いたいときは、とか」
「……言ってた。『もし、どうしても、会いたくなったら、強く、願って、ください』って」
そうだ。忘れていた。
確かに、ルディはそう言っていた。
そして、「また明日、ここに、来ます」とも言っていた。
ルディに会ったのは、昨日の夜。
今は、……10時頃?
そうすると、ルディがぼくの部屋に来るのは、あと9時間くらい後ということになる。
それまで、待たなきゃなんだろうか。
もしかしたら、あっちは時間が止まったりしているかもしれないのに。
「母さん、ぼく、ルディに会ってみる。」
「え? でも、ルディくんが言っていた方法ではできないかもしれないわ」
「うん。できるか分からないけど、やってみる価値はあると思うから」
ぼくは、腕を見た。
その腕には、夢のはずなのに、きちんと糸が結ばれていた。
その糸を、ぼくは反対の手で握り、目を閉じた。
そう、まさに、ルディに会った時のように。契約をした時のように。
ぼくは、糸が熱を持つのを感じた。
瞼に、ルディの顔を浮かべる。
ルディ。本当は、二回も来てはいけなかったのかもしれない。
でも、ぼくは来てしまった。
だから。
ぼくは、母さんにもう会えなくてもいいから。
ぼくを、あっちに戻してください。
これまでで一番、強く願ったかもしれない。
ここは、母さんの言う通り、ぼくの居ていい場所じゃ無いから。
ぼくは、あっちに居なきゃだから。
『季さん?』
「ルディ、さん!」
ルディの声が、頭に直接響いた。
ぱっと目を開けると、そこは、真っ暗だった。
周りに何があるのかも分からない、完全な闇。
『季さん。今、どこに、居るか、分かります、か?』
「……周りが真っ暗なところ、です。……あ! 床が、無い。浮いて、ます……!」
そう、足元には、硬いものが何もない。
つまり、浮いている。
『……季さん、ごめんなさい。季さんは今、『夢に囚われた』状態、です。自力で、出れない、牢、のようなところ、です』
「え?」
ゆめに、とらわれた?
一瞬、変換ができなくて、固まった。
だって、そんな言葉、普通は使わないから。
『ぼくが、ちゃんと、説明しなかった、から。ごめん、なさい。今、出れるように、します』
「あ、……りが、とう……ござい、……ます?」
これでいいのか分からなかったけれど、とにかくお礼を言ってみることにした。
そして、言ってすぐして、ぴかっと目の前が真っ白になった。
続きは、また一週間後です。多分。