第10話 登城
――― 1週間後。
姉のゼリスはまだ帰国していない。代わりにエスーニャ国から、ミミズののたくったような文字の手紙が届いた。姉の文字である。昔から悪筆だったが、それを差し引いても汚い文字である。昔から読み慣れているエリシュでさえも、所々判読できない部分があるくらいだ。
手紙によれば、酒の調達が思いの外難しく、滞在が長引くということだった。
しかし……
(絶対にウソだな。酒の美味い国へ行って、あの呑兵衛が買い付けだけで済ませる訳がない。大方、夜な夜な飲み歩いているんだろ)
エリシュの読みは見事に的中していた。ゼリスは”青ノ海”以外にも、美味い酒を見つけてしまい、実は毎日のように、朝から晩まで酒場をはしごしていたのである。
そんな姉の手紙を机の上に放り投げ、いつものようにベッドの上で本を読んでいると、父が入ってきた。野良仕事あがりなのか、服から土の匂いがする。父もいちおう元騎士である。城の様子も気になってはいるだろう。今の宰相の様子を伝えるべきかどうか、エリシュは迷っていた。
しかし、引退してのんびり家庭菜園のメンテナンスに励む人間に、今さら心配事を伝えたところで、気に病むだけかもしれない。父がこの国の政治を変えられる訳でもない。だったら心穏やかに隠居生活を過ごせるよう、城での話は伝えない方がいいだろう。エリシュはそう考え、黙っていることにした。
「どうしたのですか、父上」
「ほれ、お前に手紙が来ておるぞ」
「手紙? これって……」
「ああ、試験結果の手紙じゃな」
試験の案内状と同じデザインの封筒だった。だが今度は封蝋に使われている蝋印が王家のものだ。つまり、ロキシア王家直々の手紙ということになる。
エリシュは封筒を手に取り、恐る恐る開けてみた。手紙にゆっくりと目を通す。ちらりと父の方を見ると、緊張した面持ちはなく、我関せずとばかりにのんびり煙草を燻らせていた。
「ほれ、何と書いてあった」
父の催促に従って、エリシュは手紙を読み上げた。文章は非常に短いものだった。
『 ――― エリシュ=フォンマイヤー
貴殿をロキシア国軍師に登用する』
文末にはロキシア国王、バベル=ロキシアの署名があった。
「ほほう、ついにフォンマイヤー家からも軍師が誕生とはの。めでたい日じゃ。よかったの、エリシュ」
父はにっこりと笑って喜ぶと、エリシュに優しく声をかけた。
「で、でもどうして……。口頭試問の内容は惨憺たるものだったんですよ? しかも宰相様を激怒させてしまいましたし……」
「それは本人に聞いてみんとわからんな。今から登城すれば、城に住み込みになるじゃろう。国のために粉骨砕身、精一杯やってこい」
「……は、はい、頑張ります」
「ホッホ、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしておるの。まぁ実感がないのも無理はない。城で働くようになれば、休む暇なしじゃ。嫌でも実感が湧いてこよう」
「あ、ありがとうございます、父上。フォンマイヤー家の名を穢さぬよう、努めます」
しかし、どうして合格したのかわからない。あの口頭試問の短いやり取りで、なぜ自分が認められたのだろうか? 疑問は深まるばかりであったが、これからは城に住み込み勤務である。
軍師ともなれば常に宰相をサポートし、軍を把握し、騎士団や兵士達に気を配り、指揮を執る重要なポジションである。気を抜いている暇は一時たりともない。現役の先輩軍師達から、たくさん学び取ってやろうと心を新たにしながら、エリシュは荷物をまとめ始めたのだった。
必要最小限の着替えや日用品を持つと、エリシュは父に挨拶をして家を出た。既にフォンマイヤー家は、騎士となり後を継いだ姉のものである。跡継ぎではない弟のエリシュは、どちらにしても家を出て行かなければならない運命だ。もし軍師になっていなければ、街の商人か山野の農家の下働きに出されていただろう。だが、今は栄誉ある軍師に登用された。これからは城がエリシュの家になるのだ。
エリシュは荷物を持ってロキシア城の城門まで来た。つい1週間前は、憧れの場所でもあった。しかし、今日からは憧れも畏敬もなくなる。この場所の一員となるのだ。そう考えると、事の大きさに身が引き締まり、武者震いしそうになった。
そんな心地良い緊張感をぶち壊す者が現れた。
「あっ、お前はこの前の!」
酒泥棒の門番である。相変わらず体格だけは良い。槍を持って長時間立っているのが、彼らの仕事の大部分だが、それにしても臭い。ズボンも相変わらずだった。あの青い染みが黒ずんだものに変わっていた。カビでも生えてしまったのだろう。城の顔とでもいうべき門番が、こんな汚い身なりでは示しがつかない。そうエリシュは思った。
「どうも、門番さん」
「き、今日は何の用だ!」
エリシュは、軍師の任命状を門番の上に高く掲げた。
「んなっ、あ、新しい軍師だと? お前が?」
「お前ではありません、エリシュ=フォンマイヤーです」
「……ま、まさか、本当に」
「私が軍師となったからには、軍律を厳しくします。酒泥棒など持ってのほかですよ。それに、その汚いナリを何とかしなさい。城門は城の権威と品格を示すもの。ズボンくらい新しいものに替えておきなさい」
「へ、へへへ……ぐ、軍師様、あのー、”青ノ海”の件だけはご勘弁を……」
「それは不問にするから、ズボンをはきかえなさい」
「あ、ありがとうございます。でも、俺らの少ない給金ではズボンなんて滅多に買えません。持ってるのは、今はいてるものだけなんです」
エリシュは驚いた。いかに倹約政治とはいえ、仮にも正規兵が自分の給与でズボンを買うことができないと言うのだ。いや、本来なら正規兵の服は軍としての統一感を出すために、配給制のはずだ。それが経費削減のために、各自でやりくりするようになっていたのだ。しかも実際にはやりくりできていない。ここまで来ると、もはや倹約ではない。ただのケチである。軍としての最低ラインを下回っている。
「お前たちの賃金は、それほどまでに低いのですか……」
「はい。もう楽しみは酒を飲むことくらいしか。その酒代も月に1度の酒場通いで消えちまうんです。だったら、もういっそ小作人の方がましだったなと……」
今まで威勢のよかった門番は、下を向いて意気消沈していた。貧乏の波は、ここまで激しく兵士のやる気や意欲を削いでいたのである。
(まずいな。もし正規兵全体がこの調子だったら、国は財政難で明日にでも潰れてしまうかもしれない。兵士達だって忠誠心を失ったら、どうなるかわからないぞ……)
「わかった。宰相様に掛け合ってズボンくらいなら何とかしてやろう」
「あ、ありがとうございます、軍師様」
初めて軍師様などと呼ばれ、エリシュは気をよくしていた。それと同時に使命感に燃えていた。自分が国を立て直す。そしてギルとの約束を果たす。堅く決心しながら、城内へ入って行った。
城内に入ると、意外にもきちんと待ってくれている人がいた。前回のぶっきらぼうな対応とこのケチケチ政策である。「新人対応に人手は割けぬ、勝手に城内を見学しておけ」、と言われる事を覚悟していた。
「君がエリシュかい?」
「ええ、そうです、新しく軍師に任命されましたエリシュ=フォンマイヤーと申します」
「フォンマイヤー……どこかで聞いた名前だねぇ」
「姉はゼリス=フォンマイヤーと言います。騎士をしています」
「ああ! あの有名な……」
と言いかけたところで、相手は口を閉じて苦笑いしていた。あとに次ぐ言葉は”暴虐女騎士”であろう。思わずエリシュも苦笑いしていた。
「では君もやり手の軍師なんだろうね。期待しているよ。僕はレームリアというんだけどね、一応君の先輩軍師だよ。よろしく」
先輩軍師ことレームリアは、ひょろりとした長身の優男だ。たれ目で面長の穏やかな顔といつも笑顔な温かい雰囲気の人だった。ただ、優しい雰囲気が強すぎて、些か頼りなくも見えてしまう。
「レームリアさん、どうぞよろしくお願いします」
エリシュは深々と頭を下げ、先輩に敬意を払った。
「堅苦しい挨拶は苦手だなぁ、たははは。僕も君と同じ軍師で、職位は同じなんだ。敬語も不要だよ」
「いえ、それでも先輩ですから、敬語でお話させて頂きます」
「あ、ありがとう。アハハ、やっぱり君はゼリスさんの弟さんだな。やる気っていうか、勢いがあるよね。アハハ」
エリシュは少し奇異な感じを受けた。軍師といえば、軍事の要である。「軍律の鬼」のようなイメージがあった。それがこの柔らかでフレンドリーな感じ、そしてどこにも覇気が感じられない。頼りないを通り越して、大丈夫なのだろうかと新人である自分が心配してしまうほどだった。
「じゃあ、君の部屋に案内するから」
「ありがとうございます、よろしくお願いします!」
「ハハハ、エリシュ君は元気がいいなぁ」
レームリアが案内したのは、6畳ほどの小さな部屋だった。エリシュがフォンマイヤー家で使っていた部屋の半分程度の広さだった。
(これが軍師の部屋? 狭いし随分と質素な造りだな)
「まぁ、ここは元メイドの部屋だったんだけどね」
「メ、メイドの?」
「僕の部屋も同じメイドの部屋なんだけどね、元々軍師が使っていた部屋は、今は食料や薬の備蓄に使われているんだ」
「どうしてまたそんなことを?」
「国王陛下の命令だよ。軍師の部屋を食糧庫代わりに使って、溜められる時に溜めておけって。おかげで僕ら軍師はメイドの小さな部屋って訳。アハハ、おかしいよね」
食糧を蓄えておくのは、城の基本である。いつ攻められ、籠城することになるかわからないからだ。しかし、城には食糧庫があるはず。わざわざ居住スペースを潰す必要はない。
「どうしてそんな事が起きたのでしょう?」
「本来の食糧庫を、王女様の婿のための部屋にするんだって。食糧庫はとにかく広いからね。僕ら軍師も部屋の引っ越し作業を手伝わされて……そりゃあ上へ下への大工事だったよ、タハハ」
「あのー、その婿というのは?」
「うーん、僕も詳しくは知らないんだけどね、何でも隣国の貴族とかいう話だねぇ」
「隣国の貴族? 王族ではないのですか?」
「あー、もういいかな。君も今日から軍師だからちゃんと話しておこう」
「はい」
「隣国の貴族はえらい金持ちらしいよ……」
「あ、それを聞けばなんとなくわかります」
「さ、さすがだねぇ、エリシュ君は。アハハ」
レームリアは、力の抜けた笑い声を発して、脱力感たっぷりの笑顔を浮かべていた。
「金持ち婿の実家から、資金援助を受ける腹ですね?」
「ハッキリ言うなぁ。でもまさにそうなんだよね」
「婿ということは、王の位はロザリア王女が?」
「まぁ、お飾りだけどね……」
「お飾り?」
「だってほら、全面的に婿側の資金が注入されたら、実権は婿さんが握るでしょ。僕ら軍師も他の役職も、全部婿さんの息のかかった人達に取られちゃうんじゃないかなぁ、アハハ」
エリシュは、レームリアの虚無感たっぷりな笑いと、無気力で覇気のない態度に合点がいった。国王は、この国を売ろうとしているのだ。だが国王を一方的に避難することはできない。あの宰相の憔悴っぷりに加え、回復の見込めないこの財政難だ。国を豊かな領地へ併合してもらうのが、最後の策ともいえる。当然不利な条件で併合された側は、どんな扱いを受けるかわからない。あまりに惨い扱いを受ければ、国民が決起して内乱に発展するかもしれない。そうなればもう泥沼だ。
婿取りの話は、国王なりに大きな決断だったのだろうが、リスクがあまりに高い。実質的に、ロキシア国民は半奴隷状態になるといえる。
「そう、だったんですね……レームリアさん、そのお話を含めて城内の状況を詳しく聞かせてください」
「わかった。でも詳しく知ったら、軍師辞めたくなるかもしれないよ、ハハハ」
「その心配はありません、大丈夫です」
「頼もしいなぁ、エリシュ君は……」
レームリアが訥々(とつとつ)と話した内容は、エリシュが想像する以上に酷いものだった。
国の資産を増やす方法がないままに、倹約政治をひたすら推し進める宰相。ついに国王と王女の身の周りの品にまで、倹約を持ち込もうとした。王族も贅沢な調度品や衣料品などを廃し、庶民と同じものを使えと。
宰相は、部下たちが切り詰めた生活をしているのに、王族だけが贅沢な生活をしていては示しがつかないと正論を振るった。
だが、国王は断固反対した。国の貧乏はわかっている。自分とて無駄に贅沢な生活を維持したい訳ではない。しかし、王族には王族の威信というものがある。それが王族のアイデンティティーでもある。王族の威信は、身の回りの格調高い品によって支えられている部分もある。一般庶民のそれと同じにすれば、社交界で格下扱いされる。ともすれば、外交関係で下に見られてしまうのである。
国王と宰相の意見は、真っ向から対立した。その直後である。宰相に黙って、国王は勝手に娘の縁談を決め、婿を迎えることにしたのだ。国王は今年で齢70歳。引退して、唯一の身内である娘を女王に据える予定である。そこに婿が入るのだ。婿は隣国の大富豪であり有力な貴族である。
もちろん気持ちとしては、宰相は国王に反対したかった。しかし、財政の厳しい先行きを思えば、頭から否定することもできなかった。それゆえに宰相は焦っていた。
「でも、宰相様はどうして、レームリアさんのような優秀な軍師に助言を仰がなかったんでしょう?」
「僕が優秀だって? ハハハ。いや、万が一僕が優秀な軍師だったとしても、宰相様は話をお聞きにならなかっただろうね」
「なぜですか?」
「彼は自分が一番優秀だと思っているからね、軍師はただの駒使いなのさ」
「しかし、良策を進言できれば……」
「良策何てものが仮にあったとしても、却下されるだろうねぇ。もう長い間、何でもかんでも倹約で乗り切ってきた宰相様だよ、それ以外に考えられなくなってるのさ」
「なるほど、宰相様も国王陛下もお互いの主張ばかりで連携できていないのですね」
「簡単に言うとそうだね、タハハ」
エリシュは思った。元凶は、宰相の強すぎる拘りにあるのではないか。倹約政治も最初のうちは歓迎されたに違いない。国の支出を減らせば、財政は確実に上向く。目に見える成果というのは、評価されやすいし、本人もそれで安心してしまう。やがて、その安心の上に胡坐をかくようになり、それ以外を受付けなくなる。そして最後はいわゆる、”茹でガエル”になってしまうのだ。
宰相も焦れば焦るほど、確実な手段に頼ろうとしたのだろう。つまり、さらなる倹約の推進である。しかし、何年経っても収入が増えないのだ。倹約にも限界がある。限界が近づいたところでの、金持ち貴族の婿取りだった訳だ。宰相にはプライドとこれまでの実績がある。それが倹約政治を止めることを許さないのである。かといって、金持ち貴族の婿取りに対抗できる良策もない。仮に良策があったとしても、雑務だけで忙殺されているのだ。実施する力も金もない。まさにデッドロック、身動きできない状態である。
「ふぅ、想像以上に複雑で厳しい状況ですね」
「エリシュ君、せっかく来てくれたのに、暗い話ばかり申し訳ないねぇ」
「いえ、お気になさらないでください。何とかしてみせます」
「……まぁ、やる気を削ぐようで悪いけど、あまり頑張り過ぎないようにね」
「ご忠告、ありがとうございます」
「君の前任の軍師だけど、実は過労で倒れて引退したんだよ」
「……そ、そうだったんですか」
「うん、じゃあ僕はこれから会議があるから」
「会議? 戦略会議ですか?! だったら私もぜひ参加させてください!」
「いやー止めた方がいいと思うよ。王女様のお見合いの段取り会議だから、タハハ」
エリシュは愕然とした。軍師たる役職の者が、お見合いの段取りまでやらされるのかと。軍師とは名ばかりで、これではただの雑用係ではないか!
「正式には、明日からが職務開始だ。話は通してあるから、城の中でも探索して、いろいろ見て回ったらいいよ」
「は、はぁ、であればそうさせて頂きます」
「おっと、いけない、忘れそうになっていたよ」
「どうしたんですか?」
「その王女様なんだけどねぇ、これまた自分勝手なおてんば娘でねぇ……」
「はぁ、あまり想像できませんが」
「今日は、馬に乗って城外へ散歩に出て行ってしまったんだ。何でも秋桜を見に行ったとかで……」
「お供はついてるんですよね?」
「兵士が4人と乳母1人だけどね、タハハ。僕らがこんなに苦労してるのに、まったくのん気なお姫様だよ」
「兵士4人程度で、警護は大丈夫なんですか?」
「行き先は城の管理下にある花畑だし、治安的には問題ないだろうと行かせたんだけど……」
「……だけど?」
「予定の時刻を過ぎても戻ってないんだよねぇ、これが」
「心配ですね……騎士団は対応できないのですか?」
「タハハ、だめだよ。今日はその婿の屋敷に国王陛下が出向いているからね、全部出払っているんだ」
「ど、どうするんですか?」
「どうせおてんば姫のことだ、寄り道でもしてるんだろうね。もう少し待って戻らないようなら、宰相様へご相談することにしよう」
「な、何だか綱渡りですね」
「うん、まぁ、いつもの通りだよ、タハハ。じゃ、また後で」
「ありがとうございました!」
エリシュは、ロザリア王女の名前を知ってはいたものの、その人となりや見た目などはまったく知らなかった。王女自身、国民の前にはあまり姿を見せなかったし、エリシュも特段王女に対して興味がなかったのである。
(政策の中心は王族よりも宰相だし、雲の上の存在の王族に、あまり関心を払っても仕方がないよな)
城の探索を始めようと、エリシュは自室のドアを開けて歩き出した。直ぐに城の中庭に出る。外は陽が西に落ち、僅かな残光が濃いオレンジ色に空を染めていた。だが、あと数十分もすれば、夜の帳が落ちてくるだろう。レームリアと案外長く話し込んでしまったようだ。
エリシュが城内の探索を始めて30分も過ぎた頃だろうか。騒がしい声が聞こえてきた。その声の中心に居るのは宰相だった。対応しているのはレームリアである。
「ロザリア王女はまだ戻らんのか?!」
「は、はい」
「ったく、あのワガママお姫様は自分の立場を何だと思っているのだ!」
「ま、まぁ、ロザリア王女の事ですから、きっと寄り道でもなされているのだと」
「馬鹿者っ! お輿入れになる前の大事な体なのだ。捜索隊を編成して探しに出よ!」
「と言われましても、もう本日は城を護る兵士がギリギリの数でございます。どうか国王陛下と騎士団が戻られてからの捜索とさせて頂ければ」
「ぐっ、おのれ……おてんば娘め、戻ったらキツく叱ってくれるわ! だからあれほど止めたというのに。よいか、王女が戻ったら儂に直ぐ知らせるのだ!」
「かしこまりました」
レームリアは弱った顔で対応していた。こんな遅い時間まで、たった4人の兵士の供だけで、城外をほっつき歩いている王女に城内はほとほと困っていた。周囲の評判を聞くにつけ、ワガママで世間知らず、自由奔放おてんばなイメージが定着してしまった。
エリシュは、これまた厄介な王女様だと感じていた。保守的で頑固な宰相とのコンビは、さぞや大変だろう。ご立腹の宰相を遠巻きに見ていたが、板挟みになっているレームリアには同情するしかなかった。
(これでは、軍師なのか雑用係なのかわからないな。軍師なのにまるでメイドだ……さて、これからどう変えていこうか)
エリシュはこれほどの逆境でも、まったく希望を失っていなかった。最貧の小作人や下男で終わってしまう人生に比べれば、城内での苦境などまだまだ天国。そう考えていた。これから相当な苦労はあるだろう。時間もかかるかもしれない。だけど可能性はゼロではない。チャレンジしてみる価値はまだある。




