防星ロボ・ゲキタイザー
「ひだまり童話館」の第4回企画「アツアツな話」の参加作品です。
「地球人よ! 二つの道のどちらかを選べ! 我々ドアクーダ星人の配下となって生きる道か、戦って自由を勝ち取る道だ!」
地球に住む人達は、いきなりの宇宙人の言葉に驚きました。ドアクーダ星人という宇宙人は、テレビやラジオなど様々な手段を使って、自分達に従うか、それとも戦うか、どちらかを選べと地球人に言ったのです。
宇宙の文明は地球とは比べ物になりません。そのためドアクーダ星人が、地球のテレビやラジオ、それにインターネットなどを乗っ取るのは簡単だったようです。
「もちろん、お前達の力だけで我々と戦うことはできないだろう。戦う意思があるなら、これを使え!」
ドアクーダ星人の言葉に、地球の人々は再び驚きました。ドアクーダ星人が示したのは、地球人にとっては非常に意外なものだったのです。
◆ ◆
厳重に警備された場所、まるで空港か何かの基地のようなところを、黒い車が走っています。広い敷地の中には、とても大きい倉庫や研究所のようなビルが立ち並んでいました。
「これを、俺に!?」
護衛のような男達に囲まれて黒塗りの立派な車から降りたのは、とても体格の良い若者でした。少々伸ばした黒い髪に太い眉、そして力強い眼差しの、良く言えばスポーツマン、悪く言えば少々暑苦しい男です。
その若者は、巨大な倉庫の入り口に立ったまま、中に置かれた大きな何かを見上げています。
「ええ、マモルさん! この防星ロボ・ゲキタイザーを貴方に託すわ!」
マモルと呼ばれた男を出迎えたのは、青い髪の美女でした。マモルより少し若く二十歳くらいの、まるでテレビに出てくる女性アナウンサーのような、頭の良さそうな人です。スッキリしたワンピースにタイトスカートの上から白衣を羽織っているのは、なんだか博士か、その助手のようですが、青い髪というのが少々変わっています。
そして、青い髪の不思議な女性は、自分の背後を指し示します。
「こ、これが……これが、悪い宇宙人と戦うロボットなのか! そして、これに俺が乗るのか!」
そう、マモルが見上げる先、そして青い髪の女性が示す先には、巨大なロボットが立っていたのです。それも、街にそびえる大きなビルと同じくらい背の高いロボットです。そう、これこそが、ドアクーダ星人が示した意外なものだったのです。
「そうよ! 私はプロテ。貴方と一緒に、このゲキタイザーで地球を守るために来たの!」
なんと、この青い髪の女性プロテも宇宙人でした。プロテはレフェリーナ星から来た宇宙人だったのです。プロテは、驚くマモルに向かって、これから何をするべきかを説明し始めました。
◆ ◆
実は、防星ロボ・ゲキタイザーは、宇宙人達が決めたルールにより地球人に与えられたものです。
宇宙には色んな種類の宇宙人が住んでいて、沢山の国を作っていました。そして彼らは、自分達の国を豊かにしようと、新たな星を探しています。
しかし宇宙には、地球人のような、他の星に行く力は無くても立派な文明を築いた人達もいます。そして、そんな人達の住む星を一方的に攻めることは、宇宙のルールでは許されていません。彼らは、元から住んでいる人達が自分の星を守るための道具を与え、それを使って守りきったら宇宙の仲間に加えていたのです。
「要は、やる気があれば同じ宇宙で生きていく仲間として認め、色々教えてあげようってことね!」
プロテはハキハキとした口調でマモルに宇宙のことを説明をしています。元気の良い彼女は、なんだかマモルと気が合いそうです。
「でも、誰かが見張っていないと攻められた方が不利でしょ? それで私が来たの!」
プロテは、ドアクーダ星人とは別の宇宙人、レフェリーナ星人です。広い宇宙には、本当に色んな宇宙人がいるのですが、プロテ達レフェリーナ星人は地球人と極めて近いため、地球人のサポートおよび審判として選ばれたのです。
「負けたらどうなるんだ!?」
マモルは巨大なゲキタイザーに視線を向けました。
ゲキタイザーは、がっしりした体格のマモルを何十倍にも大きくしたような、無骨なロボットです。その胴体は鉄のような黒で、胸には赤いマーク、そして腕や足の一部は銀色っぽい白の、力強さが感じられる巨体です。
「あら、貴方らしくないわね! ドアクーダ星人が言うように、負けたら相手の手下になるのよ。それがイヤなら勝つしかないわ!」
プロテは、それが当然という表情をしています。
宇宙というのは、よほど厳しいところなのでしょうか。この試練を勝ち残れないようでは、生きていけないのかもしれません。
「確認しただけさ! 俺は、どんな勝負にも勝ってきた男だぜ!」
マモルには、怯えた様子はありません。実は、マモルはこれまであらゆる勝負に勝ってきたのです。スポーツにケンカ、勉強に賭け事、早食い勝負など、物心付いてから負けを知らない男だから、ゲキタイザーのパイロットに選ばれたのです。
「期待しているわ! それでは、早速特訓ね!」
プロテは、マモルの肩を叩いてゲキタイザーへと押しやります。そしてマモルは、目の前の巨大ロボットに向かって力強く歩み始めました。
◆ ◆
「ゲキタイ・ファイヤー!!」
防星ロボ・ゲキタイザーの指先から青白い炎が飛び出し、ドアクーダ星人の巨大ロボット、ドアク獣に命中しました。今回のドアク獣は、ゴリラのような外見のロボットです。
二体のロボットは、どことも知れぬ海の上空で戦っています。宇宙人が作ったロボットだけあって、どちらも空を飛ぶことなど簡単なのです。
「ゲキタイ・ソード!!」
ゲキタイザーは、その体に相応しい大きな剣を抜き放ち、炎で焼かれたドアク獣を切り裂きました。縦一文字に切り裂かれたドアク獣は、大爆発と共に消え去ります。
「やったわね! これで半分を超えたわ!」
プロテは、ゲキタイザーから降りたマモルを笑顔で出迎えました。
宇宙のルールでは、敵のロボットを十三体倒したら、地球人の勝ちです。そして、マモルは今まで七体のロボットを倒しました。
「十三回も戦うなんて、地球人が不利じゃないか? まあ、俺は全部勝つから関係ないけどな!」
マモルは少し不満そうですが、それでも勝って上機嫌なのか、最後は笑顔になりました。
「相手は無人ロボットだから、そのくらいは良いハンデなんじゃない? それに、昔は五十二回戦だったらしいわよ? でも長すぎるから半分になって、それがまた半分になったみたいね!」
プロテも、マモルの快勝が嬉しいらしく笑みを絶やしません。
実は、プロテが言う通り、ドアク獣にはパイロットは乗っていません。いきなり宇宙人と戦うことになった者達への配慮として、攻める側は動きが単純な無人ロボットを使っているのです。
「ふ~ん……そうなのか。しかし、ゲキタイザーの操縦は楽で良いな! さすが宇宙人が作ったロボットだぜ!」
なんと、ゲキタイザーは、思ったとおりに動くロボットでした。操縦席に座って、ああしろ、こうしろ、と思うだけで動くのです。ただし、絶対に勝つぞ、と強く思わないと動かすことができません。
「それはマモルだからよ! 貴方の心は、とても強いから!」
「それは自信があるぞ! よく暑苦しいと言われるけどな!」
マモルは、巨体に相応しい大声で笑います。彼が選ばれたもう一つの理由が、これでした。プロテは、どんな勝負でも諦めないマモルが、ゲキタイザーのパイロットに相応しいと判断したのです。
笑顔の二人は、仲良く倉庫から歩みだしていきました。
◆ ◆
「ゲキタイ・ミサーイル!! ……当たらない!? なら、ゲキタイ・ビーム!!」
防星ロボ・ゲキタイザーの胴から飛び出したミサイルを、ドアク獣は見事に避けました。そして、続いて放ったビームも、ドアク獣のバリヤーに跳ね返されます。
十三体目、つまり最後のドアク獣は、今までより一回り大きなロボットでした。しかも、翼の生えたドラゴンような姿のドアク獣は、今までとは何かが違うようで、ゲキタイザーの攻撃が通じません。
今回も、海の上で飛行しながら戦っているのですが、ドラゴンの飛ぶ速度が速くて、中々捉えられないようです。
「マモル! そのロボットにはドアクーダ星人が乗り移っているみたいね!」
基地にいるプロテが、ゲキタイザーの中のマモルに教えてくれました。本来は無人のロボットなのですが、ドアクーダ星人が心だけ乗り移って操っているようです。そのため、今までとは違って強いのでしょう。
「倒したらどうなるんだ!?」
マモルは、思わぬ事態に驚きましたが、それでも自分が負けるとは考えませんでした。それどころか、相手の心配をしています。
「大丈夫よ! ドアク獣が破壊されたら、心が体に戻るから!」
「そうか! ゲキタイ・パーンチ!!」
プロテの言葉に安心したマモルは、新たな攻撃を繰り出しますが、それもドラゴンのドアク獣には当たりません。ドラゴンだけあって、飛行はとても上手いようです。
「マモル! もっと心を熱く燃やして! 熱く熱く、ゲキタイザーの勝利を願うのよ!」
苦戦するゲキタイザーを見たプロテは、マモルを力強く励まします。宇宙には、色んな困難が待っています。それを乗り越えるには、絶対に負けないという強い意志が必要なのです。そのため、宇宙人は試練を与えるのでしょう。
「わかったぜ! 俺のハートは、誰よりも熱く燃えている! その俺が負けるはずがない! ゲキタイ・ソード、ファイナル・スラーッシュ!!!」
マモルが強く念じると、ゲキタイザーは、今までとは桁違いのスピードでドアク獣に突進しました。そして、空の上を、まるで流星のように飛んだゲキタイザーが放った一撃は、見事にドアク獣を切り裂きました。
「やったぜ! これで俺達の勝ちだ!」
ついにゲキタイザーは、十三体のドアク獣を倒しました。これで、地球人はドアクーダ星人に支配されずに、宇宙の仲間入りができるのです。
マモルも、地球に明るい未来が訪れたためでしょう、晴れ晴れとした笑みを浮かべていました。
◆ ◆
「プロテ、ありがとう! この恩は一生忘れないぜ!」
基地に戻ったマモルは、プロテに明るく微笑みます。でも、力強い笑みを浮かべたマモルは、どこか寂しそうです。ドアクーダ星人との戦いが終わり、プロテとの別れが近づいていると思ったからでしょうか。
「忘れちゃ困るわよ! これからずっと一緒なんだから!」
しかし、プロテは少し怒ったように頬を膨らませています。普段は優しそうなプロテですが、そんな顔でマモルを見上げる姿には、中々迫力があります。
「えっ!?」
「これから私が貴方達を指導するのよ! 地球人が、一人前になるまでね!」
不思議そうなマモルに、笑顔に戻ったプロテは今後のことを説明します。強い意志を示した地球人が宇宙の仲間として認められたといっても、それはまだ入り口に過ぎません。これから宇宙に出て行くには、まだ色々なことを勉強する必要があるのです。
「……ということは!?」
「そうよ! 私はずっと貴方と一緒よ!」
どうやら、プロテはマモルのお嫁さんとなるようです。突然のことにマモルは驚いたようですが、しばらくして彼は優しい笑みを浮かべ、プロテの肩を抱き寄せました。
地球と宇宙、二人の生まれは違いますが、きっと大丈夫でしょう。互いを抱きしめ寄り添う二人からは、そんな予感がしてきます。
諦めない熱い心を持つマモルとプロテ、そして二人が見せる仲睦まじい姿からは、地球と異星の架け橋としての希望あふれる将来が浮かんできます。
そんな二人を見守るようなゲキタイザーは、夕日で輝いています。そんな戦いを終えた巨大なロボットの顔が真っ赤に染まる光景は、二人の熱々な様子に照れているようにも見えました。
お し ま い
お読みいただき、ありがとうございます。
私としては、子供向けヒーロー物は、現代の童話の一形式だと思うのです(笑)
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