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意地悪天使と一輪の花

作者: 志雄 小翔

 むかしむかしの大むかし、人も草も動物も、この星もすべてが無かった「無」の世界。

 そんな真っ暗で「無」の世界でも、たった一つだけ光を浴び、花は咲き誇る世界がありました。


 この世界の名前は「楽園」

 そこには皆のお父さんの神様と、神様の家族が住んでいます。

 しかし優しい神様が住む楽園にも、ただ一人だけ誰よりも小さく、誰よりも意地悪な天使の子供がいました。


 意地悪天使は来る日も来る日も家族にイジワルをしながら過ごしています。


「そのお菓子おいしそうだな! 僕によこせ!」


「僕がそのオモチャで遊ぶんだい!」


 こんな風にワガママに過ごしていました。

 そんな小さな天使に、とうとう優しい神様も怒りました!


「こら! なんでキミは、みんなにヒドイことをするんだ!」


 天使は笑いながら答えます。


「それはボクがおもしろいからさ」


「キミがおもしろかったら、他の子たちが泣いててもいいのか?」


「ボクは楽しいのさ。それだけで十分だよ」


 この小さな天使は『イジワル』という言葉しか知らなかったのです。

 とうとう神様は、こんなにもひどい天使の首を掴んで言いました。


「誰かの悲しみを喜ぶものはこの楽園にいてはいけない! キミをこの楽園から追放する!」


 そして神様はこのイタズラ好きの天使を投げ飛ばして、とおいとおい、ただ土しかない星に追放したのです。




 はじめは、小さな意地悪天使は怒っていました。


「ボクが一体何をしたんだ!? 早く楽園に戻せ!」


 でも誰も返事をしてくれません。


「おい! 誰か聞いているんだろ!? さっさとここから出せ!」


 やっぱり返事はありません。


「………わかった、わかったよ! だれもいなくても、ひとりでどうにかしてみせるさ」




 しばらくして天使は独り言を言いました。

「あーあ、一人っていうのはなんて素晴らしいんだろう! ここは僕の星だ! 誰にも文句なんて言わせないぞ!」



 ですが段々と天使は怖くなってきます。

「なんだよ、ここは? お菓子もない、オモチャもない」


「いたずらもできないし、誰も僕を構ってくれない」


「なにも………ない」



 とうとう天使は泣きながら、天に向かって叫びました。


「神様、もうわるいコトはしません! だからボクを楽園に帰してください」


 しかし、神様は言葉を返してくれません。

 

「ウワァーーーン! こんなところで独りはイヤだよーーー!!」


 いつもイジワルばっかりしていた天使は、はじめて泣きました。



 来る日も来る日も天使は泣き続け、天使の涙でこのなにもない星に大きな大きな海ができてしましました。

 天使の『悲しみ』がこの星に海を作り出します。



 大きな海ができても、天使は泣き続けていました。

 するとどうでしょう? 何もないはずの大地から泣いている天使に声が聞こえました。


「大丈夫だよ、君は独りじゃないんだよ」


 そんな声が聞こえたのです。

 天使は泣き止み、グルッとまわりをみわたしました。


「ワタシはここにいるよ」


 天使の足元の方から声が聞こえます。そして天使が下を見てみると、そこには小さな蕾がいたのです。


「キミはだれだい?」

 泣き止んで天使は蕾にそう聞きました。


「ワタシは、この星で生まれた初めての命。あなたの涙で私はここまで育つことができたの」


 そう、この蕾は天使の涙で育った蕾だったのです。


「ワタシがいるから、アナタは決して独りではありませんよ」

 小さな蕾は優しく天使に伝えました。


「ウワァーーーン!」

 するとどうでしょう。天使はまた泣き出したのです。

 でもそれは悲しい涙ではありません。

 友達ができた、「嬉しい涙」なのです。


 天使は悲しみの中から『喜び』を知ったのです。



 小さな天使は小さな蕾とたくさんおはなしをして、たくさんお水をあげて、いつか咲く花を楽しみにしていました。


「あなた、なんでここに来たの?」

「それは、神様に楽園を追い出されたからさ」


「なんで追い出されたの?」

「………それは、僕がイタズラばかりしていたからさ」


「なんでイタズラばかりしていたの?」

「………」

「よければ教えてくれない?」

「………だって、僕は誰よりも小さいから、イタズラしないと誰も僕を見てくれないから」

「へー。なら、もう大丈夫ね。だって、あなたは私よりずっとずっと大きいから、見えないなんてない。むしろ私の方が上を向かないとお話しできないもん」


 天使は蕾と話していると、なんだか胸が温かくなって、少しずつ優しい気持ちを覚えていきました。


 二人は毎日、こんなたくさんのお話をしたのです。 




 そしてある日、とうとう蕾はキレイなキレイな花を咲かしました。


 とてもキレイな赤、まるですべてを包み、すべてを愛するキレイな花を……


「とてもキレイだよ。……ほんとにとってもキレイだよ」


 今まで、人を悲しませることしかしなかった天使が、少し顔を赤くしながらも言います。


 キレイなキレイな花は言います。


「ありがとう……天使さん」


 天使は美しい花を見て、これが何かを『好き』になるということなのだと感じました。




 キレイな花を咲かしてからしばらくして、いつものように天使が花に話しかけると、花はぐったりとしてしまいました。


「どうしたの、お花さん?」


 花のことが心配でアタフタしている天使を見て、花はゆっくりと………でも天使に聞こえるように言いました。


「ワタシ、もうすぐ枯れてしまうの」


 天使は花の言っていることがわかりません。

 でも胸にぽっかりと穴が開いたような気がしました。

 わからないけど、とても寂しくて、辛い思いを感じました。


「枯れちゃうってなに?」


「ワタシは、いなくなってしまうの」


 その言葉を聞くと、天使は大きな声を出しました。


「イヤだよ! いなくならないで」

 天使は泣き出してしまいます。


「泣かないで、ワタシはいなくなってしまうけど、ワタシは天使さんのなか、そしてワタシの子どもたちの中にずっといます」


 言うのも辛そうな花は、天使に笑ってもらえるように笑いながら話しました。


 そして


「ワタシにいのちをくれてありがとう。……ワタシと出会ってくれてありがとう。………ワタシを愛してくれてありがとう」


 そういって花は動かなくなってしまいました。


「ウワァーーーン」


 また天使は泣き出します。

 天使はかけがえのない大切な人と『別れ』を………みんな経験したくない、でも絶対にみんなが経験することを知りました。

 

 天使が一人で泣いていると、枯れ落ちた一枚の花びらが天使の手の上に落ちてきました。


 するとどうでしょう。どこからか声が聞こえてきました。


「ありがとう……ワタシの大切な大きな天使さん」


 声が聞こえると、天使は自分の手の上にある花びらを握り締め、涙を拭きました。 


「ありがとう……ボクの大切なお花さん」

 

 天使はそれに向かってそうつぶやきました。

 そして枯れた花の下を見て、言いました。


「初めまして、蕾さん」


 そこには、初めて天使が会った蕾によく似た小さな蕾が生まれていたのでした。

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