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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
青色の炎
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再会②

 あくびをかみ殺して俺は学校に向かう。

「眠そうだな」

「そうだよ。眠いよ」

 昨日の疲れが若干抜けきっていない。慣れないことをすると想像以上に疲れる。今日の授業はほとんど寝ることになるだろうな。

 昨日はあの後、アキの家に行ってかなり遅い時間までゲームとかしたりして遊んでいた。そのまま寝落ちしたという感じだ。美嶋と俺は先にアキの家から出てそれぞれ制服に着替えにために家に戻る。3日連続の帰宅。誰も気にもかけない。だが、そんな冷たい家を俺も無視して学校に向かう。その途中で偶然にもオカマに会って今に至る。

 商店街を通り学校に向かう。アキに出会う以前ならこの商店街のゲーセンにいつもよってそのままサボっていた。

「ん?なんだ?」

 オカマが目の前にある人だかりに気付いた。よく見ればパトカーと消防車止まっている。

「なんだ!なんだ!事件か!」

 朝だというのにテンションをあげて人だかりの方に走っていく。

 見た目は不良なのに言動は子供みたいな奴だな。俺も気になるのでオカマの後を追う。

 オカマは野次馬の外側で飛び上がって様子を窺う。

「どうだ?」

「警察官と銀色の防火服を消防の人がいた。火事がったみたいだな」

 その割には特に近くの建物が燃えたような様子もないし、焦げた臭いもしない。最近多発している連続不審火事件だろう。物騒だな。

「ほら、行くぞ。オカマ」

 しかし、そこにオカマはいなかった。小火の様子を見にこの人ごみの奥に行ってしまったのだろう。ああいうのがたくさんいるから野次馬というものが消えないんだな。あんな奴は無視して学校に向かおうとする。

「キョウ君」

 その声にドキッとする。

 名前を呼ばれたら振り返らないわけにはいかない。大きなため息をついて振り返る。

「なんだ?」

 城野香波。最近、よく会う気がする。俺は会いたくないのだが。

「学校終わった後暇?」

「忙しい」

 こいつは関わらない方がいい。いや、関わってはいけない。これはまだ魔術も神の法則も何も知らない頃に決めた約束だ。この城野香波とはもう縁を切りもう会わないと約束を交わした。それは彼女自身も覚えているはずだ。逆に忘れたとは言わせない。俺を無にしたあの事件を。

 さっさと足を学校に向けて急がせる。

「待ってよ」

 そう言われたが俺は足を止めずに進む。

「待ってって!」

 香波は俺の裾を掴んで止めようとする。それを俺は振り払う。

 お願いだからもう関わらないでくれよ。

 振りほどいた勢いで香波はその場に尻餅をついてしまう。

 少し力を入れ過ぎたかもしれない。でも、俺は香波に手を差し伸べようとせずに足を進める。

「待ってよ。聞こえないの?ねぇ、キョウ君?」

 声は小さく周りの生活音で掻き消されそうだが、俺にはその声がなぜか鮮明に聞こえた。その声は明らかに涙声だった。2年ぶりに再会した旧友。それは親しげに会話してもいいだろう。でも、俺と香波との間にあるものは巨大で分厚い壁だ。上ることも壊すこともできない壁。それを作ったのは俺なのかそれとも香波なのか分からない。彼女と隠しあった記憶かもしれない。誰も荒らされたくない忘れたくても忘れることのできない。そんな記憶。

「じゃあな」

 俺はそう告げると進める足をさらに速める。

 もう、俺と彼女の関係はとっくの昔に終わっている。

「ちょっと待ちなさい、教太」

「え?」

 目の前に美嶋。見慣れたいつもの制服姿。こっちのほうが落ち着く。

「大丈夫ですか?教太さんは本当にひどい人ですね」

 香波を支えるように立ち上がるのを手伝うアキ。気付けば囲まれた。

「女の子を泣かせるなんて最低なやつね」

「いつもの教太さんなら手助けましたよね?」

「あんたみたいな男は滅べばいいのよ」

「しかも、自分で押し倒しておいて。ひどいです」

「クズ中のクズね」

「いつも教太さんはどこに行ったんですか?」

「ゴミね。ゴミは消えなさい」

「謝らないのもおかしくないですか?」

「何もしないのならその子といっしょと同じように泣かせてやろうかしら?」

「気の利かない教太さん・・・・・・。まさか教太さんの皮をかぶった」

「お前ら!うるせーよ!」

「「だったら謝りなさいよ!」」

 美嶋とアキの息ピッタリでそう言われた。

 確かにいくら話したくない相手でも押し倒しておいて何も謝らないというもの腑に落ちる。だが、こいつと少しでも会話をするこいつらに話さないといけない状況になってくる。それが俺の最も恐れる状況だ。

「え、えっと・・・・・・」

「教太!早く言いなさい!」

「どうしたんですか?いつも教太さんらしく」

「あなたたちは一体なんなの?」

 口を開いたのは意外にも香波だ。下を向いていて表情は見えない。

「どうしてキョウ君は・・・・・・・キョウ君は・・・・・・・」

 一滴の涙が地面に向かって落ちる。そして、香波はゆっくりと顔をあげる。その顔を見て俺が感じたのは罪悪感だけだった。

「私を見てくれないの?」

 見ないんじゃないよ。見れないんだ。過去に築いた大きな壁のせいで。

「キョウ君のバカ!」

 そういうと香波はどこかに行ってしまった。追いかけるべきなのは分かっている。でも、足が動かない。

「教太?」

「教太さん?」

 俺は許さない。

「行くぞ」

「ちょっと教太さん?あの人は一体?」

「いいから行くぞ!」

 俺は許さない。過去に起きたことも。自分のやったことも。そして、傷を分け合った古い友人を泣かせるような自分自身を俺は許さない。

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