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想い届け⑧

『この世界にはお前らの知らない、あのMMも知らない神の法則が存在する。しかもそれは何気ない日常に存在するんだよ。だけど、その神の法則を理解するには視点を180度変える必要がある。この魔術の世界の住民ではそれが無理だ』

『じゃあ、シンさんはなんでその誰も知らない神の法則を知っているんですか?魔術の世界の住民なのに』

『常識を壊す必要がある。俺の力みたいな』

『意味が分からない。常識ならイサーク様の能力でも十分崩れている。イサーク様はその吸収した魔力ですべての属性魔術を使える』

『違うって。それはまだ魔術の常識の範囲内だ』

『常識を外れた発想をしろってこと?』

『こんな感じですか?例えば、複数の属性魔術を同時に使うとか?』

『ありえない』

『いや、考え方としては合ってる。つまり、絶対的常識から外れたことだが、それは間違っているわけじゃない。それが神の法則だ』

『イサーク様。分かりますか?』

 さっぱりだ。

 シンが話していた常識から外れているがそれ自体が間違っているわけじゃないものが神の法則だと。あいつはそれが分かっていてあのチート並みの力を使うことが出来る。常識から外れた教術師。それがシン・エルズーランだ。あいつは属性魔術を同時に使っていた。だが、あいつはそれを属性魔術じゃないと決めつけている。神の法則で守られたあの力だからこそ理解をしない使えない属性魔術だと。だが、あれはシンの使う力によって発生するものであって常識ないにある属性魔術とは分類が違う。よって常識の範囲内のことを行っていると判断された。

それはあいつが言う常識からは外れているが間違っているわけではない。今は常識となっているが前まではその範囲外だった。だが、それは検証してみれば常識の範囲のことだった。間違っているわけではなかった。


「さぁ、シンよ。こいつはどう説明するよ」

 目の前の女。右に炎。左に雷。同時に発動し、同時に攻撃してきた。

 オレの教術は相手の魔力を吸収してそれを自分の物として使うことが出来る。だが、それはひとつに限られる。同時に別の魔術で攻撃されれば吸収できるのはひとつだけ。吸収できなかった方は食らうしかない。オレの力の弱点だ。

 マラーは同時に攻撃されるかもしれないが、アキナは撃ち出せるだけの魔力を持っておらず、国分教太もシンの力を完全に使えていない。よって、使ってくる属性魔術は風上風也の風のみだという情報だった。まぁ、信用ならないならない奴の言うことだ。違っていても今更不思議だとは思わない。

「さて」

 目の前の奴をどう常識に当てはめて説明するんだ?オレにはさっぱりだ。そもそも、シンの教術を使うのに必要な神の法則とやらをまだ理解していない。オレはまだ魔術の常識の範囲内でしか物を話すことが出来ない。あいつにも常識範囲内だが間違っていない要素がどこにある?どう考えても常識の範囲外だろうが。

 女は炎をオレに向けて放ってくる。炎だけならと左手で吸収するがその炎の中から雷が飛び込んできた。

「マジか!」

 とっさに手を引く。雷の命中精度は低いがこういうものに伝わらせればその精度は上がる。だけど、それは普通ふたりの魔術師でやるものだ。

「ひとりでやるとかおかしいだろ」

 再び炎と雷の混合攻撃が襲う。今吸収したばかりの炎を使って対抗してみるがパワーが圧倒的に向こうが上だった。オレの炎は押し込まれ飲み込まれて炎と雷が襲う。

「終わったか」

 まぁ、悔いはない。シンにも負けない魔術師に殺されるんだ。誇りだろ。あの世で子の魔術師が一体どこの常識の中に入るのかシンにでも聞こうじゃないか。ああ、そういえばあいつは今国分教太の中で生きているのか。なら、先に行って考えようじゃないか。

 だが、お迎えはすぐには来ない。迫りくる炎と雷とオレの間に割って入ってくる影があった。土人形だ。

 属性的に炎にも雷にも勝っている土人形は一時的に耐えたがすぐに粉々に破壊された。それでもオレが逃げる分の時間を稼いでくれた。

 この場において土人形でオレを守ってくれるやつはひとりしかいない。

「イズミか?」

「は・・・・・・はい」

 今にも倒れそうなイズミが近くの木に寄りかかるように立っていた。

「イズミ!いつの間に!」

 風上が驚いている。パッと見魔力が切れかかっている。普通なら動けない状況だがイズミならオレのために動く。昔からそういう奴だ。

「助かった。礼を言う」

「イサーク様のためならば・・・・・・どんなことでも・・・・・」

 イズミはその場に崩れるように倒れる。

「イズミ!」

 その時、女からの炎と雷の混合攻撃が来る。

「タイミングが悪いんだよ!」

 イズミを抱える。炎を出して地面を攻撃することで煙幕を張ることで姿をくらませる。少し移動するとすぐ背後を炎と雷が通過する。とんでもない爆発で当たりの木々の枝は折れ地面はえぐり取られ熱で小さな石は原形をとどめず溶けている。

「急に容赦がなくなったな」

 爆発の煙の中に身を潜める。

「イサーク様」

 オレは急に顔が熱くなり胸に何かが突き刺さる。

「なんだ?イズミ?」

 平然を装う。

「私はもう戦えません。でも、イサーク様の中でならまだ戦えます」

 ついに来てしまった。イズミにも。

「向こうは火と雷属性を組み合わせた攻撃しかしてきていません。私の土属性を使えば」

 確かにそうかもな。オレの技術を使えば向こうが別の属性魔術を組み合わせる前に倒すことが出来るかもしれない。でも・・・・・・でもよ・・・・・・。

感情を出さないように歯を食いしばる。

「お願いします」

 イズミはオレの左手を優しく握り自分の首に添える。

「私の魔力を使ってください」

 震える手を抑える。

 イズミ・カガミ。それが彼女のフルネームだ。ほとんどの奴が知らない。戦争で失った家族の姓だ。その後、引きとられた家で彼女は奴隷に等しい羞恥を受けた。食事は残飯、風呂も膝を浸かることのできないくらいの量、寝床も外に置いてある小屋で犬小屋に等しい。それ以外にも性的暴行もあった。家から自立した後もできた親友をすべて戦争で失い死んだ魚みたいな目をしていた。助けたいと思った。部隊に配属させたときは誰とも交流せずいつもひとりだった。そんなこいつにオレは約束をした。

「オレはお前の前で絶対に死なない。それにお前をひとりの女として見る。だから、もっと希望を持つんだ。オレが背負ってやる」

 そして、イズミの希望となったオレはイズミを部隊の部下ではなくひとりの親友として接してきた。イズミもオレに忠誠を誓っていたがそんなものはいらない。アキナに対してシンが言っていたようにオレもイズミはただの女としてすごしてくれればそれでよかった。イズミの希望となったオレはその威厳を保ってきた。だが、その威厳今ここに崩れかけている。

 イズミが背負ってきた絶望は巨大なものだ。オレにだけそれを語った。こいつはオレのことを心から信用している。絶対に死なない。自分を女として人として見てくれる。絶望の中の大きな希望。イズミにとってオレのはこうだ。今のイズミは死ぬかもしれないという絶望の中にいる。オレに魔力を吸われることで魔術師として貢献することが出来るという希望がある。そんな希望の眼差しでオレをみる。

「イズミ」

 オレはイズミに生きてほしい。こいつはまだ知らないことがたくさんある。オレにはそれを教えることに限界を感じている。それにオレはこれ以上・・・・・部下を・・・・・・お前たちを・・・・・。


 殺したくない。


「イサーク様」

 だが、俺は希望にならなければならない。左手に力が入る。首元からオレの手に伝わる脈拍と肌の暖かさ。それをオレは吸い上げる。

 その時オレたちを覆っていた煙が風によって晴れる。風が起きた方には風上風也がいた。だが、オレの一番近くいたのはシンの力を持つ国分教太だった。

「テメーは・・・・・・」

 こいつが何を言いたいのかオレには分かる。

「何してやがる!」

 両手に黒い靄が発生する。シンと同じように。オレとイズミの間に入るように殴りかかってくる。オレはイズミを捨てるように国分教太に向かって投げつける。国分教太は力の発動を止めてイズミをぐったりするイズミを受け止める。だが、死んではいない。

「よかった」

「イサーク!」

 アキナがイズミを保護した。あいつは治療系の魔術を使えたはずだ。なら、イズミも死ぬことはない。それに途中で邪魔されたからイズミの魔力を完全に奪えなかった。これならあいつに対するオレ威厳も守れたものだ。あとはひとつの約束を破るだけとなった。

「顔色悪いぞ。魔力の残量がやばいんじゃないのか?」

「うるさい!仲間に手を掛けるようなお前を野放しにできるわけないだろが!」

 まったくその通りだよ。

 右腕から土属性の魔術を発動して剣を作る。これがオレの最後に使う属性だろう。よりにもよってイズミのとはな。

「シン。そこにいるなら聞いてくれ」

 国分教太は冷静ではない。オレの話など聞いてくれない。でも、シンなら。

「イズミが死なないように見張ってくれ」

 その意味国分教太に分かるはずがない。

「さて、まずは」

 オレは右手の岩を勢いよく出す。その岩で体を持ち上げて宙を飛ぶ。そして、さっきの同時に属性魔術を使う女のところに岩の塊を複数打ち込む。見た感じ防御という概念はなくそれをすべてアキにやらせている感じだった。

 オレの攻撃をどうすればいいのかとっさの判断が出来ないようだ。その場でおどおどしている。そこに風上が飛び込んで来る。女を抱きかかえて攻撃を交わす。

「テメーの相手は俺だ!」

 その声は背後から聞こえた。宙に浮く俺の背後からだ。

「何!」

 こいつはシンと同じように空中を風属性魔術のように自由に動けるようになったというのか。

 すべてを無条件で破壊する黒い靄で覆われた拳で攻撃してくる。右手の岩で防御しようとするがあっさり破壊されその勢いに押されて地面に向かって落下する。岩を砂状にしてクッションにして落下のダメージを軽減した。だが、国分教太の攻撃は続く。

無敵の拳(デストロイ・ナックル)!」

 右手の黒い靄が拳にのみ集中して黒くなっている。その落下の力を加えて威力を増大させたものだ。

「不味い!」

 とっさに横に飛ぶとオレにいたところに国分教太が落ちて来る。落下と技を衝撃で俺は飛ばされる。あれはシンの使っていた力じゃない。

 魔力切れが近いのにもかかわらず少量の魔力であれほどの技を使うとは国分教太という教術師が成長してきたという証だ。

「おもしろいぞ!」

 最後の最後に思う。シン・エルズーラン、いや国分教太。

「最高な奴だ!」

「はぁぁぁ!」

 国分教太は最後の魔力を振り絞り無敵の槍を発動してきた。だが、その無敵の槍が急に小さくなり細く短い短刀になった。色もさっきの拳の攻撃と同様に靄とは呼べないほど黒くなっている。

無敵の短刀(デストロイ・ダガー)!」

 これもシンの使っていなかった。おもしろい。

 剣を構えて突っ込んでくる。オレも右手の岩で剣を作って同じように突っ込んでいく。


『死ぬならどんな風にかって?何をシンはいきなり?』

『いや、こんな戦争のご時世、命の取り合いをしていたらそう考えるようになってさ』

『お前はどうなんだ?』

『かわいい女の子の膝の上ならどんな状況でも』

『面白い奴だ』

『そういうイサークはどうなんだ?』

『オレか?そうだな。オレは教術師だ。生きるもの死ぬのも。だから、もし死ぬのならお前のような・・・・・・・』


 強い奴に殺されたい。


 オレの岩の剣はあっさりと国分教太の剣に破壊されて、国分教太の剣は俺の右肩に当たりすり抜けて斬りこむ。その瞬間は右肩に表現できないような激痛が走る。

「あああああ!」

 痛みで呼吸が困難になる。痛みをこらえるために歯が欠けるのではないというくらい力強く食いしばる。骨、筋が破壊され外れている。皮だけが破壊されて出血もしている。これが人を殺さないことを志した人を生かす破壊の力か。オレの欲しているのはこんなものじゃない。

「なんでとどめを刺さない?」

 痛みをこらえながら聞く。

「殺さない。俺の中で決めた約束だ。この力で人は殺さない!」

 なるほど。その思いに答えた形がさっきの技というわけか。オレが話しているのはシンじゃない。オレが話しているのは国分教太だ。

「出て来い、シン。今のでオレの目的が分かっただろ?」

 その瞬間、国分教太の表情が見えなくなり次に顔をあげるとそれがシンだとすぐに分かった。

「昨日が最後じゃなかったのか?」

「予定が狂った。お前の相方がとんでもない甘い男だった」

 シンは何も反論しない。

「お前には話したよな」

「ああ、知ってる。つらかったな」

「同情するな。最後まで教術師イサーク・ブランドとしていさせてくれ。いろいろあったよ。死という救いを求める部下たちを救い、魔術師として生きて生きたという願いを叶えるために部下の魔力を吸い、オレはもう疲れた」

「ああ」

「イズミを頼んだぞ。あいつオレを絶対に追いかける」

「そうだろうな」

「あいつに言ってくれ。希望を捨てるな。今度はお前自身がオレのように誰かの希望になれるように」

「分かった。伝えておく」

 何だろうな。オレはここ数年の中で今が一番落ち着いている。

「最後にお前に会えてよかった。あるがとうよ。最強で最高の(だち)

 シンは涙腺が緩んでいるがそれをこらえて俺の首元に両手を近づけて両手の力を発動する。その瞬間、オレの首元の動脈が破壊され血が噴き出る。意識が遠くなり全身の感覚がなくなり体が冷たくなる。

「あばよ。最強で最高の(だち)

 シンがそう呟く。

 その時のオレの死に顔は笑顔だった。オレにとっては最高の死に方だ。

最後の最後までオレのことを理解してくれた最高の(だち)、シン・エルズーラン。オレのことを思い最後まで付き添ってくれた最高の(だち)イズミ・カガミ。

 イサーク・ブランド。最高の人生だった。

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