想い届け①
上で何かごちゃごちゃやっているようだ。この力を奪って右で透視、左で思考を読むことが出来るようになった。非常に便利だ。彼女が戦場での重要性が高かったという話が嘘ではないことが分かる。時空間魔術で敵地に潜入し、見るだけで敵の作戦を読む。戦況をひっくり返す起爆剤となる力だ。だが、けがで動けなくなってしまった以上使い物にならず捨てられた。車いすで戦場に出るような話は出ていたが、ひとりでは何もできない魔術師は必要ないと簡単に切り捨てた。でも、俺は拾った。彼女を魔術師として殺したかったからだ。俺も同じだ。ただ牢獄で死を待つくらいなら最強と呼ばれるような魔術師、教術師に殺されたい。例えば、4大教術師で神の力に等しいチート級の教術師にしてオレの親友、シン・エルズーランとかな。
シンはオレが上に国分教太を知っている人物がいるというと上の方に気をとられる。
「イサーク。今すぐ部下を止めろ」
「なぜ?」
「この体の奴のお気に入りだ。俺もこの体を借りている身だ。少しは貢献したい」
なんだか丸くなった気がする。シンはもっと尖ったような感じだ。変わりだしたのは魔女に会ってからか。
「ああ、止めよう。だが、オレの願いを聞いてくれたらの話だがな」
「願い?」
「ああ」
オレがこの世界に来た最大に理由。マラーとかいう女はオレのしようとしていることを知っているようだった。この能力のように相手の思考を読む教術か魔術を使っていたのか?まぁ、いいか。オレには関係ない。
「オレを」
その瞬間、シンが頭を抱えてその場にうずくまる。苦しそうに唸る。呼吸も急に苦しそうになる。
「どうした?」
「はは。キョウの野郎か」
キョウ?誰だ?それ?マラーから聞いていた人物にそんな奴いたか?
「悪いなイサーク。俺はここまでだ」
その時、俺の思考を読む能力に国分教太の声が聞こえた。でも、雰囲気が少し違う。なんだか黒く突くようなイメージだ。
「まさか、無理やり体を戻しにくるとはな」
その瞬間、シンの声が消えた。国分教太が戻ってきた。
ゆっくりと顔をあげる。そして、こちらを睨みつける。
「・・・・・・美嶋」
来る。それはこの手に入れた能力を使わなくても戦場の勘で分かる。特にあいつは戦場においては素人だ。行動は単純かそれとも予想外のことをしてくるか。オレは身構える。
オレの本来の教術は相手の魔力を左手で吸収して主に右手で奪った魔力を使う。だが、奪った能力によっては今のように右手が全く使えないものもある。今この状況において俺は右側からの攻撃に弱い。つまりオレの構え方は国分教太に向かって左手を盾にするように構える。便利な目もある。これで大丈夫だ。
「・・・・・・美嶋が・・・・・・美嶋を助けないと」
なんだ?思考がうまいこと読めないぞ。何かノイズが混ざっている。何かが俺の思考を読むのを邪魔している。すると国分教太から俺の左目に向かって赤黒い炎のようなものが飛び込んでくる。オレは咄嗟に目を閉じてしまった。その瞬間を狙って国分教太が距離を詰める。不味いと思ったが国分教太は俺の横を素通りする。
「2階に行くつもりか」
だが、向かう先に階段はない。国分教太の向かった先は吹き抜けになっているロビーの柱に向かって走り込む。そして、ロビーを囲むベンチに足を掛けて跳び上がる。だが、それでは二階には届かない。
国分教太はその瞬間力を発動させて柱に向かって殴る。オレはあの力を知っている。物体持つ物を無条件で破壊する力だ。シンは攻撃と防御を主な使い方をしていた。だが、国分教太は柱を殴りに行ったのではなく掴みに行った。破壊する力を弱めているのだろう。そして、もう片方も同じようにして柱に掴みかかり両手の筋力で上に跳び上がろうとする。
「何をしているであるか?」
何か嫌な予感を感じたのだろう。ドルダックが邪魔するように背後から攻撃をする。国分教太は舌打ちをする。片手だけ柱から手を離して柱に張り付くクモのように攻撃を交わす。そして、飛び込んでドルダックを蹴り飛ばしてその勢いを使って上に向かう。
「キキキ。無防備」
レイが矢を構える。空中にいる状態では回避はできない。レイの使う魔術は水属性魔術で攻撃をする。だが、それだけでは威力が低く、矢では攻撃が読まれやすい。だから、レイは闇属性の幻影魔術を使い相手を混乱させてそれを補っている。無属性魔術は同時に複数使える。属性魔術を使っている最中でも使うことが出来る。
レイの放った矢は3つに増える。かわすのは簡単ではない。
すると国分教太は手のひら同士を向け合わせる。そして、両手の力を手のひらに集中させる。バチバチと閃光が両手の間に走る。そして、両手をパンと合わせる。その瞬間、ロビー全体の空気が激しく揺れる。見えない爆風が国分教太を中心に吹き荒れる。その風の影響で矢は全く違う方向に飛んでいく。国分教太が起こした風の勢いによって手は2階の手すりに届いた。足を掛けて乗り上げる。その勢いのまま国分教太は美嶋という女の方に飛び込んでいく。
「美嶋!」
右目を開いて透視して国分教太の様子を観察する。
錫杖を持ったオレの部下が飛び込んで来る国分教太に気付いて錫杖で攻撃しに行くが力の発動していない状態ではじく。勢いに負けて錫杖をはじかれる。剣を持った奴が十字架を剣に向かって撃ちこみ炎を宿す。美嶋に最も近い奴は氷柱をもう一つ作り国分にも向けて撃ちこんでくる。
国分はもう一度両手の平を合わせてパンと合わせると爆風のような強い風が起こる。その強い風に剣に灯した炎が消える。氷柱の構える先がずれて外れる。国分は床に足をついて大きく前に飛び込む。そして、美嶋に構えている部下の氷柱を破壊して吹き飛ばし、美嶋を守るように抱きかかえるように転がりながら安全な距離まで移動させた。
ウェイターの格好をした部下が咄嗟に氷柱を飛ばして攻撃する。国分はすぐに体を起して攻撃を力を使って防ぐ。氷柱は何の抵抗もなく粉々に砕け散り消え去る。思っている以上に力が強くなっている。しかも、シンとは少し違った使い方をするようだ。破壊の力を利用して柱を上る。シンはやっていなかった。あの乱気流を起こすのも俺は始めて見た。
「だから、オレはお前のことが嫌いなれない」
いつも何か違うことをする。時と場合によっていろんな色に変わる。同じ色で 他人の色しか使えない俺とは大違いだ。
羨ましくて憎たらしい。それでも面白くてオレは好きだ。
「イサーク様」
「イズミか?どうした?今いいところなんだ」
「間もなく施設外で研修を行っていた生徒たちが戻ってきます。これ以上人の侵入等を防ぐのは限界かと」
「・・・・・・そうか」
仕方ないか。でも、これで決まりだ。シンでなくとも国分教太でもいいと思えるようになった。やっぱり使う奴が違うとここまで変わるとはな。
「イズミ。他の魔術師どもと破損した施設を直せ。他の連中にばれると厄介だ。もし、間に合わないならレイの幻影魔術でごまかせ」
「は。至急取り掛かります」
さて。
「聞こえるか!国分教太!」
俺は左目だけを開ける。反応があった。聞こえたようだ。
「シンに伝えとけ!」
今、シンの声は全く聞こえない。どういうことか知らないが無理やり体を戻してくるかどうとか言っていた。何か負荷のかかることでもやられたのだろう。だが、そんなことで死ぬような魂じゃないことをオレはよく知っている。
「あばよ!」
何となくだがあれが最後な気がした。オレの最高の理解者で頼れる親友と話せたのは。




