非日常③
はっと目が覚めるとあの路地にいた。そして、俺は中心にいた。
俺を中心とした半径1メートルほどの円の中で青く光る五芒星。それはさっきゴミクズの足元で描かれていたものと同じものだ。違うところはそれぞれの先端からは五芒星と同様の青い光でできた立体図形の十字架。バチバチと青い稲妻が走る。まるで俺が竜巻の中心にいるかのように風が渦を巻く。
何が何だかさっぱりだ。さっきの白い空間は何だったんだ?この青い光は何だ?この円の中に書かれているのは魔法陣か?ゲームとか出てくるあれか?
状況が呑み込めず、周囲を見ながらあたふたする俺。すると俺の手が柔らかくて暖かなものに当たる。それは力尽きて倒れているあの子だ。
俺の覚悟。俺の心。俺の運命。それはすべて俺の意思!
「信じてやろうじゃねーか!ゴミクズ!俺にくれた力のこと!」
俺が叫んで立ち上がる。まだ、青く光り竜巻のような風が引き荒れる中、俺は立ち上がる。
魔法でも使えそうなこの状況。中二病なんかにはかかったことはないが何かすごくやれそうな気がする。
「死ね!」
ウルフが持つ銃から銃弾が放たれる。なぜかその銃弾が鮮明に見えた。俺は両手を突き出す。体がそうすればきっと何とかなると言っているかのようだった。体が自然と動いた。
「行ける!俺なら行ける!」
すると俺の両手首と肘のちょうど間くらいに小さなあの青い光で書かれた円が出現した。円の中には五芒星が描かれている。すると突如、俺のそれぞれの両腕から何か黒い靄のようなものが覆った。靄とその境目には黒い灰のようなものが舞っている。
その中にウルフの放った銃弾が勢いよく突っ込んできた。だが、靄の中に入った銃弾は表面からぼろぼろと崩れて靄から抜ける手前で消えた。
「何?」
ウルフも驚いている。いや、俺もすごく驚いているのだが。
すると足元にあった青く光る魔法陣が消えた。
「この野郎!」
ウルフが銃弾を撃ってくる。俺はさっきと同じようにして再び銃弾を消し去る。手元のものがなくなっても使えるようだ。なんで銃弾が消えるのかはさておいて、これであいつの攻撃を完全に防いでいる。これならいける。
「銃がダメならこれならどうだ?」
ウルフがどこから取り出したのかさ見ていなかったが刀を取り出した。銃と同じ銀色に輝く刃を持つ刀だ。
「日本刀っているらしいぜ。切れ味最強で俺は大好きだ!」
そう叫ぶとウルフは日本刀を構えて突っ込んでくる。
「ちょ、ちょ、ちょっと!」
どう対応していいか分からず、後退りする。後ろで倒れているあの子を踏みそうになってバランスを崩すが、壁に手をついて何とか回避する。すると突然ビルの壁の一部が崩壊した。何の抵抗もなくひびが入り大きな音を立てて崩れた。大きなビルの破片の一部が俺に向かって走り込むウルフを襲う。ウルフは急ブレーキをかけて後退する。ビルの破片が地面に落下すると粉々に砕けて砂埃が俺たちを襲う。
「いったい何が!」
そこで俺は気付く。壊れた壁は俺が振れたところから壊れている。
俺が壊した?俺がこけそうになって壁に触っただけで壊れた?
考えるのは後だ。
今の状況、逃げるチャンスだ。
俺は地面に倒れているその子を背負う。砂埃で視界が悪い。それはウルフも同じだ。俺は一度ここを通っている。どこに障害物があったか多少覚えている。俺は走る。たったひとりの女の子のために。