劣化部隊①
「とりあえず撒いたか?」
「たぶんですけど。でも、またすぐに見つかりますね」
「そうだな」
俺たちは従業員用の控室に駆け込み隠れている。
「結構いなかったか?」
「パッと見で10名以上はいますね」
「逆に他の従業員がいない」
「確かに変ですね」
もしかするとすでにこの建物を管理する人物たちは全員イサークの部下である可能性が高い。この建物自体にいるのが危険かもしれない。
「この建物から出るか?」
「私の考えでは外に出ることは敵に見つかる危険を伴います。それに秋奈さんに見られる可能性もあります」
そうかもしれない。
「それに数で圧倒的に負けています。風也さんを待ちましょう。教太さんは風也さんとの通信用の陣を持っていますよね?」
「ああ。これで霧也を呼び戻すのか?」
「お願いします。でも、風也さんならきっと異変にもう気づいたかもしれません」
「あいつならきっと気付く。とりあえず連絡をするか」
ポケットからカードを取り出す。なぜだか妙な感じがする。これは俺の勘なのか?それともゴミクズが経験してきた戦場の勘なのか?嫌な予感がする。
『霧也。聞こえるか?』
『聞こえる。霧也じゃないけど』
その声は霧也ではない女の声だ。しかも、これは聞いたことのある声だ。そうイズミだ。
「アキ!逃げるぞ!」
俺はアキの手を引いて控室の唯一の窓から飛び出る。階は2階。アキを抱えて地面に転がるように着地する。
「アキ!大丈夫か!」
「は、はい」
その瞬間、窓の一部が轟音と共に壊れる。砂埃が上がりそこにはハンマーを持った清掃員がいた。そのハンマーには陣が描かれていて雷を帯びている。どう考えても魔術師だ。
「なかなかの反応である。さすがシンの力を引き継いだものである」
白髪の坊主頭で筋肉質の男だ。年は霧也と同じくらいであろう。鋼の色をした金属製の重そうなハンマーを軽々と振り回している。
「キキキ。でも、魔女もいる」
二階建ての宿舎の屋上。ちょうどハンマーを持った魔術師の上にいるのはウェイターの服装をした金髪の子供。性別は分からない。男にも見えるし女にも見える。背は低く着ているウェイターの制服もぶかぶかだ。
「ドルダックさんにレイさん」
アキが知っているということはイサークの仲間か。分かってたことだけど。
「ふたりとも強いのか?」
「風也さんとほぼ互角ですね。パワーならドルダックさんの方がはるかに上です」
あの体格を見れば何となく想像がつく。
「それに状況は最悪ですね」
アキが俺の背後につく。木の影や建物の影から施設の従業員の格好をした人物が次々と出てきた。コックの格好をした者、作業服を着た者、制服姿の者、ジャージ姿の者。その全員がカードと十字架、または剣や銃、槍と言った武器を持っている。数は10程度。それでも圧倒的に向こう方が多い。
どうすればいいか?
「シンならまずこう考える。自分がおとりになりほぼ戦闘力のない魔女を逃がそうと。自分の力を理解しているからこそできる作戦」
出てきた。お山の大将が。
相変わらずのぼさぼさの髪の毛を後ろで束ねている男。俺と同じ無が嫌で有を求めていた男。イサークだ。
「お前もシンなら同じことを考えたんじゃないか?ついでにこの建物から遠いところに行って戦う。お前の走る距離なら風上なら追いつけると思い援軍を望むのと同時にある人物に魔術を関わらせないのが目的」
な、なんで美嶋のことまで知ってんだ?
「シンならひとつの作戦で3つも4つも同時にやろうとする。でも、お前はシンじゃない。力も不完全。考えてはいるが実行できるだけの力がない。つまり、お前はオレたちに狩られるんだ」
イサークが手をあげる。するとイサークの部下が武器を構える。やばい。
「狩りの始まりだ」
手を振り下ろすと氷の弾丸と銃弾が飛んできた。
「教太さん!魔術の方をお願いします!」
アキがカードを杖で打ち付ける。発動する魔術は決まっている。物理結界だ。物理的攻撃は一定ダメージまでは無効にできる。だが、魔術に対しては全く効果を発揮しない。だから、その魔術を俺が破壊する。
飛んできた氷の弾丸を俺は両手の力を使い粉砕する。銃弾はアキの発動したドーム状の物理結界によってはじかれる。
「隙だらけであるぞ!」
上からハンマーを構えたドルダック襲いかかる。物理結界に一瞬だけ阻まれるがその桁違いのパワーに結界が破壊される。結界で攻撃が遅れたおかげでそのままで電気の帯びたハンマーが地面を直撃する。そのパワーによって発生した突風に俺とアキは吹き飛ばされる。攻撃をかわすことが出来たがアキと離れてしまった。
「アキ!」
俺はすかさず立ち上がると目の前にハンマーを振り上げたドルダックの姿があった。
「わあああああ!」
俺は力を使いドルダックの肩を狙う。肩の一部を破壊して痛みを与えるその衝撃で攻撃をかわせるだろうと思っていた。だが、予想外のことが起きた。肩への攻撃は何の抵抗もなく突きぬけ貫通した。
「え?」
あまりにも違和感がなさ過ぎて驚いた。でも、血が出ない。それに痛がらない。よく見るとドルダックの姿が揺らいでいる。
「これは・・・・・・・・」
「教太さん!逃げてください!それは幻影魔術です!」
爆炎から抜け出してきたドルダック。今度は俺の左側から攻撃してきた。対応に遅れてその場に尻餅をつく。その瞬間俺は自分の足元の地面を破壊して砂埃を起こす。さらに陥没した地面のおかげでドルダックの攻撃をかわすことが出来た。俺はそのままドルダックの足元の地面も破壊してドルダックの動きを一時的に封じる。その間に俺は陥没させた穴から脱出してアキの方に向かう。
「アキ!」
砂埃から飛び出すと横から矢が飛んできた。咄嗟に横に飛び直撃を免れ矢は地面に刺さる。射抜いてきたのはレイという魔術師だ。小さな体に合った大きさの弓で再び俺を狙う。俺はジグザグに走って狙いを惑わせながら逃げる。
「キキキ。逃げられない」
レイから放たれた矢は手前で3つに増えた。
「何!」
飛び込んでかわそうとするが一本が俺の足に当たったが、かすった程度で済んだ。だが、地面に寝ころんだ状態の俺を見逃すはずがない。
「キキキ。終わり」
素早く俺に追撃をしてくる。
やばい。
その間に飛び込んできた人物。アキだ。物理結界を新しく発動したらしく矢は結界にはじかれた。
「大・・・・・・丈夫・・・・・ですか」
息が荒い。顔色もよくない。魔力が切れかかっている証拠だ。
「助かった」
アキを追いかけてきた魔術は皆目を細めて涙であふれている。どうやらあの閃光を連続で行って逃げ続けたようだ。
「キキキ。僕がただ矢を無駄に射抜いたと思ったら大間違いだよ」
アキが何かに気付いた。
俺はレイに言われて地面に刺さった矢を見ると、そこを中心に例の陣が発動していた。
「キキキ。錯乱せよ!水の散弾!」
矢を中心に水の塊が出現してそれがビー玉サイズになって周囲に錯乱する。いくつかはあさっての方向に飛んでいくがそのほとんどがすぐそばの俺たちを襲う。俺の両手はその咄嗟の出来事に対応できない。水の攻撃は見た目以上に痛いことを俺はアゲハ戦で経験している。小さいからこそ威力が増す。だが、どうしようもなかった。俺は。
アキが俺の盾になるように水の散弾を食らう。
「アキ!」
物理結界がガラスのように割れる。アキがやれたという証拠だ。すると穴から抜け出したドルダックが突っ込んでくる。
「行くである!震えろ!雷の鉄槌!」
振り下ろしたハンマーが落雷が起きたような音と共に衝撃波が俺を襲う。放電した雷の一部が周囲に飛び散り木に当たりその個所から火の手が上がる。規模が小さいだけに起きた爆風にすぐに火は収まり煙だけが上がる。
「手応えありである」
「まったくその通りだよ」
爆風が晴れてドルダック俺の姿を見る。
「何!」
アキは無傷だ。俺が力を使ってハンマーの軌道をずらした。重量とドルダックのパワーが上乗せされたハンマーの攻撃をまともに受けると俺の腕が折れる。以前、霧也がやっていたことを見おう見まねでやってみた。受け流しだ。敵の攻撃の側面部分に沿うように攻撃する。霧也は追撃をかわすために使っていたが俺はそれを攻撃に使った。おかげで右腕の手の甲から肘にかけての皮が雷の熱で剥がれ落ちて血が噴き出る。
「少し驚いたである。だが、シンならこのハンマーを破壊したであろう」
ドルダックはハンマーを振り構える。
「何言ってんだ?お前のハンマーはもう使い物にならないぞ」
「何!」
ドルダックのハンマーの土に近い柄の部分が重さに耐えきれずに崩れる。そして、地面に落ちた衝撃でバラバラに崩れた。
受け流しによってそのハンマーに触れた時間はそれなりにあったから破壊できた。
「そして!」
俺は痛みで感覚がマヒしている右手で左手首を掴む。
「その構えは・・・・・・」
「ドルダック!離れろ!」
「無敵の槍!」
ドルダックはイサークの声で柄だけになったハンマーを捨てて後ろに飛び退く。俺は左手で体の倍くらいの黒い靄のランスを作り振り回す。地面の一部が槍をこすり破壊する。そのせいで発生した砂埃で俺は姿をくらます。
「見えるか?」
イサークがすぐそばにいるメガネをかけた長身の女の味方に確認させる。隣にいた味方は右目だけを開くと右目を中心に陣が発動する。
「いませんね」
「透視魔術を使うお前が言うのだから逃げたようだな」
砂埃の発生した近くにいた魔術師がカードを打ち付けて風を起こす。そこには俺とアキの姿はなかった。
「すみません、イサーク様」
「イズミ。戻ったか」
「風上風也を逃しました」
「そうか。まぁ、相性が悪い割にはよくやった」
「ありがとうございます」
「全員、配置に戻れ。まだ、チャンスはある」
全員は武器をしまい落ちた帽子などの土埃をはらったりして宿泊施設に戻っていく。その様子を俺たちは屋上から密かに見つめる。
「アキナ。大丈夫か?しっかりしろ」
俺は安全が確認して空調機にもたれて息をなでおろす。俺は霧也がここに到着したのに気付いた。あの俺は状況ではどうしようもなかった。だから、逃げるために敵との距離を置くために無敵の槍を使ってさらに目くらましをした。そこに霧也が飛び込んできてくれた。
「教太も大丈夫か?」
「ああ」
血の量が半端ないが表面を擦っただけの擦り傷に過ぎない。
「アキは大丈夫か?」
「は・・・・・・はい」
霧也に聞いたつもりだったがアキ本人が答えた。顔色が悪く汗の量がすごい。息が荒く体調は最悪のようだ。
「無理するな」
霧也が治療を行っていく。俺は後回しのようだ。それでいい。俺たちの目的を考えれば俺もそうするように言っていただろう。
「これを傷口にかけておけ」
霧也が小瓶を俺に投げ渡す。とるのを失敗してへたくそと言われる。仕方ないだろ。利き腕使えない状態なんだから。
「これは?」
「止血剤だ。傷口にかけろ。痛みが増すが血は止まる」
「これは俺を治療しているのかそれともいたぶっているの分からないな」
「いいから使え。血を止めないと不味いと思うぞ」
「そうだな」
瓶を太ももに挟んで左手で瓶のふたを開けようとする。
「妙ですね」
「アキナ。しゃべるな」
「向こうは探知系と透視系の魔術師がいたのにこんな近くに逃げた私たちを探さずに見逃したのはおかしくないですか?」
瓶のふたを開けて思った。確かに俺たちが隠れているところに間髪入れずに攻撃してきた。ピンポイントだった。さっきは砂埃の中を透視魔術とかいうもので見ている魔術師もいた。それだけの魔術師がいたのにもかかわらずなぜ追撃してこない?目的が分からない。
「何してるのよ?」
その声に俺は今までのどの戦闘よりも緊張が走った。ゆっくり振り向く。腕の痛みなんて吹き飛んだようだ。それどころじゃない。それは治療中のアキも霧也も同じだった。俺の目的が分かっていたからこそだ。
「み・・・・・・美嶋」
そこには絶対にこの場においていてほしくない人物だ。




