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迫る影⑤

『霧也聞こえるか?』

『聞こえる』

 俺は昨日バスの中で使った通信用のカードに触れて霧也を会話する。今は野澤の商店街へ行くにあたってのどうでもいい注意事項の説明中だ。俺はポケットの中にカードを入れて手を突っ込んで触れている。

『今、俺の見えるところにいるか?』

『いるぞ』

『なら、もしかしたらイサークの仲間かもしれない奴を見つけた』

『何!』

 驚くのも無理はない。俺だって驚きだ。でも、いろいろと怪しい点もある。

『俺の3つくらい前にいる、赤いフレームの眼鏡をかけた黒髪で長髪の女の子分かるか?』

『ああ。あの子が?』

『まだ可能性の段階だ。いろいろと変な点がある』

『簡単でいい。教えろ』

『まず、あいつは人のことをからかうことが好きな奴だ。今朝俺は美嶋に夜屋上にアキと霧也といるところを目撃された』

 霧也からは何も言ってこない。仕方ないことだったかもしれない。戦闘は美嶋もすぐそばで行われていたことだったのだ。

『そのことについて問い詰められた。その現場にあの子はいた。からかうのが好きならここで普通なら美嶋の味方をしないか?』

『確かにそうだな。・・・・・・・教太の味方だったのか?』

『ああ。妙じゃないか?』

『確かにそうかもしれないが、それだけでは彼女を魔術師と決めつけるのは無理だ』

 俺もそう思っている。でも、おかしいんだ。蒼井が魔術という単語が出てきそうになったタイミングで止めに入ってくれたのか。

『だが、気をつけろ。この場において敵も味方も区別がつかない。気を引き締めろ』

『分かってる』

 もう、敵は昨日攻撃を仕掛けてきている。俺やアキは自由に動くことが出来ない。昨日と同様に敵の攻撃を待つという形になってしまう。美嶋たちに勘付かれないように敵とうまく交戦する。これほど難しいと思ったことはない。でも、やるしかない。

 野澤の長い話が終わり俺たちは駅の商店街の方に向けて歩き出す。

 すると列を逆走する奴がいた。そいつは俺の手を唐突につかんだ。相手はアキだった。

「ど、どうした?アキ」

 突然すぎて驚いた。

「ちょっと来てください」

 手を引かれて列とは逆方向に進む。

「ちょっと!アキ!教太とどこ行くのよ!」

「そうだ!教太!まさか三月ちゃんとあんなことする気じゃないだろうな!」

 美嶋とオカマに止められる。ついでにオカマは美嶋に殴られる。

「その・・・・・・トイレです!」

 そう叫んでアキは宿泊施設の宿舎に飛び込む。

「・・・・・・・女の子とつれしょん?」

 オカマの言ったことは後で武力行使で訂正しておこう。

 ロビーには人の姿がなく閑散としていた。野澤がさっき集団行動中は自分勝手な行動をするなよとか言っていた気がするのだが、まぁいいだろう。

「どうした?急に?」

「見たんです」

 息を整えながらアキは言う。

「何を?」

「イズミさんを」

 イズミってあのイサークの右腕の?昨日土人形を使って攻撃を仕掛けてきたあの女の子か?

「どこで?」

「列の集団に混ざってました。座っている時に見つけました。みんな一斉に立ち上がったところを見計らって巻きました。おそらく町の方に向かったと思っているでしょう」

「・・・・・・そうか」

 アキの咄嗟の判断だ。奴らは町の方で仕掛けるつもりだったようだ。魔術師云々関係なしに攻撃でもするつもりだったのだろうか?それだったら恐ろしい。

「どうした?急に戻って?」

 霧也とも合流した。アキが現状を話す。

「確かにイズミだったか?」

「はい」

「イサークの奴らは生徒の中に部下を忍ばせているということか」

 そういえば、昨日オカマが学校規定じゃないジャージを着た女の子を見たと言っていた。もしかしたら、その女の子もイサークの部下だった可能性もある。こうなってくると蒼井がイサークの部下である可能性が大きくなっていた。

「とりあえず俺は町に向かってる集団の方に行ってみる。イサークの部下の中にイズミみたいな知り合いが混ざっているかもしれない」

「見つけたらどうするんだ?」

「・・・・・・・」

 霧也は何も言わずに出て行った。

「察してあげてください。今回の敵も味方なんですから」

 そうか。氷華もそうだ。と言っても霧也の個人的な友人で会って組織には全く加担していなかった。今回は俺の組織に人間だ。お互いに情報を持っているという難しい状況だ。

「イサークってどんな奴なんだ?昨日霧也から聞きそびれたし」

 するとアキは周りを見渡して人がいないことを簡単に確認する。

「これは組織内のみで流れている噂です。確証はありません」

「噂?」

「イサークさんの部隊はことごとくイサークさんだけを残して全滅しています」

「それは聞いた。変だと思って調べたというところまでしか聞いてない」

「そうですか。一番伝えにくいところだけですね」

 一体イサークは何をしたんだ?

「イサークさんはある未遂で牢獄で拘束中でした」

 脱走したんだろ。それでこっちの世界まで逃げてきた。

「イサークさんの未遂は自分の部隊を全滅させたというものです」

「どういうことだ?」

「イサークさんが部隊の隊員を殺したことによる全滅だというかのせいです」

 それって・・・・・・。

「彼の使う教術を説明しましたよね?」

「相手の魔力を吸収して自分の物にする」

「彼にはとある野望がありました。お酒に酔った勢いで言っていたことなので真実である可能性は低いですが、上もその発言を証拠のひとつにして拘束しました」

「その野望って?」

「すべての教術の超越です」

 すべての教術の上を行くってことか?どういうことだ?

「イサークさん、彼はひとりでは大したことはありません。人から魔力を奪ってから彼の強みです。イサークさんは自分自身では何もできない弱さに悩んでいました。ほぼ無に等しい自分が嫌いだそうです」

 俺と同じ無に等しい存在の奴なのかもしれない。ただそこにいて必要とされない。今の俺にはこの力という大きな特徴が生まれて目的が出来て必要とされて有となった。イサークは人から魔力を、特徴を奪うことで有になろうとしたということか。

「イサークさんのランクはDと決して高くありません。だからこそ多くの可能性を秘めています」

「どういうことだ?」

「教術は魔術と違い術者の強い決意や意思、願いによって力を発揮します。イサークさんは魔力を吸収するだけの能力ですが、その吸収した魔力を保存できるようになったりと多くの可能性があります」

 教術はひとつしか魔術を使うことが出来ない代わりに強力であることが多いと訊いていた。他にも術者の意思で強くなるのか。それについては見覚えがある。アゲハの巨大な水の槍を受け止める時だ。無敵の槍を初めて使ったあの時だ。神の法則が分かったというものあるがそのことによる俺のモチベーションが上がったというもの理由のひとつだったのかもしれない。

「というかなんでイサークが吸収した魔力を保存できるんじゃないかって分かるんだ?」

「すべては可能性です。もし、そうなったら非常にまずいと考えたからです」

 確かにそうだな。イサークはまだ吸収した魔力で使えるのは一番新しい魔力だ。上書きしなければそのままらしい。だが、もしそれが場面によって保存した魔力が使えるようになったかなりの脅威だ。

「上の方でもこれ以上イサークさんのランクが上がらないように手を打ったそうです」

「どんな?」

「まず最前線に送って戦死させようとしました」

 ・・・・・・なんだろうな。イサークは自分の味方を殺したかもしれない男なんだが同情する。

「ですが、部隊は全滅するのにイサークさんだけが生き残りました」

 上層部も予想外だろうな。

「停戦後、次は仲間を殺したという罪で牢獄に入れる処置をしました」

「おい、待て。それだろ味方殺しの汚名を勝手に受けただけじゃねーか?」

「私も最初はそう思いました。ですが、そのことをイサークさんは否定しませんでした」

 つまり事実だということか。

「決して悪い人じゃないと思うんですよ。慕われやすくたくさんの人が集まるようなそんな人だったんです」

 たくさんの人が集まる。それは俺と同じように色がなく色を求めて自分がさまよい、そして白という受け入れやすい色に多くの人が集まった。

「教太さんはイサークさんにはなるべく近付かないでくださいよ。その力を奪われたらイサークさんは何をするか分かりません」

 アキも渋い顔をする。本当は疑いたくないのだろう。かつての仲間を。でも、多くの仲間を殺している。自分の色を求めて他人の色を奪うのは同じ立場であった俺が許さない。

「とりあえず、俺たちはどうする?」

「風也さんの帰りを待ちましょう。もしかしたら、魔術師がここに待機しているかもしれま・・・・・・せん・・・・・し」

「どうした?」

 アキがある方向を見て動きが鈍くなる。そして、目を見開いている。何だろうと俺もアキの見ている方を見る。その先は玄関だ。俺たちはロビーのソファーの上でイサークのことを話していた。玄関から丸見えだ。その玄関にはびっくりする人物がいた。ここにいては絶対に行けない。俺もアキも思っていた。魔術師が潜んで俺たちを狙っているかもしれない。

「み・・・・・美嶋」

 息が荒い。走って来たのだろう。

「何してるの?」

 その口調は完全に怒っていた。

「いや・・・・・・えっとだな・・・・・・・」

 どう言い訳をすればいいのか全く思いつかない。

「トイレに行ったんじゃないの?」

「それはですね・・・・・・」

 アキもどう言い訳すればいいのか分からないようだ。そうだよな。

「楽しそうね」

「は?」

「教太はあたしよりアキの方がいいんだ?」

「何言ってんだ?」

「確かにアキの方が女の子らしいし、優しいし、清楚で落ち着いてるし、あたしとは大違いよね」

 いや、ほぼ同じだと思うが。というかお前ら同一人物だぞ。昔の美嶋もそんな感じだっただろ。

「あたしの見えないところで秘密の話をして、あたしの除け者にして、そんなにあたしのことが邪魔なの?」

 今の邪魔という表現は不適切だ。美嶋には関わらないでほしいだけなんだ。俺の願いだ。

「教太にとってあたしは何?」

 そんなの決まってる。

「友人だ」

「・・・・・・・・・それだけ?」

「それだけ」

 何を求めているのかさっぱりなんだけど。アキは隣であたふたしている。

「やっぱり教太にとってあたしはただの友人なんだ。あたしがこんなに・・・・・・こんなに・・・・・・」

「美嶋?」

「あんたはあたしといっしょにいても何も感じないの!あたしはこんなに感じてるのに!」

 美嶋の叫び声にラウンジの奥にいた従業員が出てきた。もしかしたら、あれがイサークの仲間かもしれない。なんで騒いでいるのか分からないが美嶋を落ち着かせないと。

「落ち着け美嶋。俺はただアキと話をしていただけだ」

「あたしはその話す機会も少なくなってきてるのよ!何?あたしと話すよりもアキと話す方が楽しいの?なら、あんたはアキといっしょに楽しくいちゃいちゃしてなさいよ」

「な、何言ってんだよ!」

「そのままのことを言ってるのよ!それとも何?あたしにもやっぱり興味があるの?二股なんて最低の男ね!」

「興味なんかない!大体二股ってどっちともそういう関係じゃないだろ!」

「興味ない?この数か月の間あたしといて何の興味もないわけ?」

「ああ、ないね!お前みたいなびっちみたいなギャルよりもまじめでおとなしい子の方が俺は好きだね!」

「誰がびっちですって!小心者の低能不良が何言ってるのよ!」

「なんだと!そういうお前もバカだろ!」

「バカはあんたでしょ!周りの見えない特徴なしバカ!」

「誰が特徴なしだ!俺がその悩みにどれだけ苦しんだか!」

「なもの知らないわよ!それにそんなものは一生解決しないわよ!バカで鈍くて逃げ腰の不良とは付き合ってられないわよ!」

「ああ、そうだな!俺もお前みたいな金がすべてだった使い捨てお嬢様とはこれで終わりだ!」

「使い捨てってどういう意味よ!」

「そのまんまの意味だ!」

「ふたりとも!」

 アキが間に入る。ケンカの火が少し弱まる。俺も少し落ち着くと目の前には泣いている美嶋がいる。少し悪いことをしたという自分が出てきた。そして、気付けば、周りには施設の従業員がたくさんいた。案内人や掃除中のおばさんとかもいた。

「バカ!」

 そういって俺を頬をはたいてそれぞれの部屋のある方に走って行った。

「どっちかバカなんだよ。俺の苦労も知らないで」

 確かに付き合いは最近悪くなっていることは確かだ。魔術を関わらせないために俺が無意識にやっていたのだろう。そのことは確かに悪いと思ったが、でもいろいろ被害妄想をしてくれやがって。ケンカの途中たぶんお互いに何を言っているのか分かっていないだろう。意味不明なことを言っていたかもしれない。それでも怒りはまだここに残っている。女みたいに泣いて消すようなことはできない。

「教太さんが悪いですよ」

「アキまで!」

「とにかく今の状況を自分で確認してください。私も少し教太さんのことが嫌いになりました。秋奈さんも悪いと思いますが、女の子に気のひとつもまわせないことを言い訳する教太さんは嫌いです」

 うう、痛いところを突かれた。

 アキはバックの中から三つの棒を取り出した。ひとつには先に十字架がある。それをつなげていくといつも使っている杖が完成した。そして、カードを取り出す。そこでようやく今置かれた状況を理解する。

 宿舎の従業員が俺たちを囲んで動かない。その手にはカードと十字架。

「悪い。俺のせいだ」

「そうです。教太さんのせいです」

 なんか容赦ない。

「あとで秋奈さんの謝ったら許してあげます」

 それは難題だ。

「で、どうする?」

「逃げます!」

 アキがカードを床に落としてそこに杖を打ちこむといつもの煙幕がロビーに広がる。

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