表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/163

迫る影③

 この不安は普通じゃない。

 そのせいで寝つきが異常に悪い気がする。何度も寝返りをうつ。目を閉じたりあけたりと布団の中で忙しく動く。部屋は明かりが消されて月明かりだけが窓から差し込む。

 結局、玄関で見たのがイサークかどうか分からなかった。一応、霧也とアキには伝えたが気に留めてくれなかった。それもそうだ。だって俺はイサークを一度も見たことがないのだ。それに異次元の穴が開いた魔力の形跡も魔術師の痕跡もまだ確認されていない。でも、俺はきっとイサークだ。確信しているのは俺ではない。俺の中にいるゴミクズだ。奴はイサークを知っている。真実を聞きたいのだが、奴の住みついている俺の心の中には俺の意思ではいくことが出来ない。

 イサークは近くにいる。俺のことも知っている感じだった。

 でも、襲ってこなかったのは周りに関係ない奴がいたからか?

 それを自重したからか?

 なら、今襲いかかってくる可能性だってある。その緊張と不安で俺の睡魔は遥か彼方に吹き飛ばされていて今でも寝れる気配はない。

 体を起す。隣でオカマが腹を出して大きないびきをかいて寝ている。近くに置いてある携帯電話で時間を確認すると時間は午前2時半を回ろうとしているところだった。

 霧也はもう寝ただろうか?今のところ魔術師が襲ってくるような気配がない。俺もそう思っている。そう思いたい。

「落ち着かない」

 立ち上がり部屋を出る。廊下は明かりがついていて明るさに少し目をしかめる。部屋から少し歩いたところにあるトイレに向かう。したいわけではないが落ち着かない。少し気持ちを静めるために動いた方がいい気がした。

 トイレは肌寒かった。窓が少し開いていて換気扇も動いたままで風が吹いていた。もうすぐ、夏だというのにこのあたりはまだ寒い。ここは夏になると避暑地として多くの人がやってくる観光地らしい。夏ほどではないが人の数はそれなりに多い。魔力が探知できない場所からこっちの世界にやってきて観光客に紛れてこの町に入ってくることは容易だ。

 蛇口から出る水は思ったより冷たく逆に目が覚める。

「寝れないかもしれない」

 そんな気がしてきた。

 廊下に出るとトイレに入った時に感じた肌寒い風が俺を襲う。さっきはこんな風はこの廊下に吹いていなかった。風は廊下の先にある非常扉が開いているのが見えた。寒いからその扉を閉めるために歩く。

 廊下は異常な静けさに包まれていた。こういう研修ではどこかに部屋で必ず徹夜をしている奴がひとりはいる。そう思っていたがみんなまじめに寝てしまったようだ。静けさの中微妙に開いた扉から流れる風の音が響く。俺は扉の前に来て何となく外の様子が気になって覗く。外側の非常扉の上に明かりが設置されていて周りが明るくなっているが森の奥は闇に包まれている。

 何の気配も感じない。こんな森の中なのに動物の気配のひとつふたつくらい感じてもいい気がする。動物の声すら聞こえない。何の気配も感じない。

 そう思っていた。

「教太!上だ!」

 霧也の叫ぶ声が聞こえて俺は咄嗟に上を見上げるとそこには人がいた。眉間にしわを寄せた目を半分だけ開けて睨みつけるような目。ぼさついた髪を後ろでまとめている男が非常口の明かりに足を引っ掛けてぶら下がって俺に迫る。

 そこに霧也が飛び込むとそのことに気付いていた男は右手から岩のようなものを発生させて霧也の斬撃を防ぐ。だが、霧也の斬撃はその岩を簡単に破壊した。男は跳び上がり距離を置く。

「教太!建物の中に逃げろ!」

「霧也!」

「早くしろ!」

 その声は明らかに動揺して焦っていた。男はゆっくりとこちらに歩いてくる。

霧也も以前のような強気な感じもない。ズリズリと後ろに下がっている。前に出て戦うべきだと分かっている。でも、霧也の様子を見てこいつが不味い奴だということが分かった。こいつは普通じゃない。

「早く逃げろ!教太!」

 男が左手のひらをこちらに向けて走りこんでくる。霧也は右風刀で発生させた風を男に向けて放つ。斬撃より遅れてくる風の攻撃を利用して早めに刀を振り風の攻撃を仕掛けるが、男は健在だった。

「ありがとうな。風上」

「いいから逃げろ!」

 次の瞬間、男は右手から風を発生させて霧也が使っていたような風を利用した移動で突っ込んでくる。霧也は俺を蹴り飛ばして建物の中に入れる。急なことで俺は受け身も取れず床に叩きつけられる。

「霧也!」

 痛む体を起こして非常口の方を見るとそこに霧也の姿はなかった。

 これは不味いと思った。相手はあの霧也をビビらせるような相手だ。普通じゃない。魔力を吸収する能力だった。霧也の攻撃を吸収した。そして、さっきは岩を発生させていたが風に変わっていた。属性が変わったことを見ると奴がイサークだ。俺が加勢したところにお荷物かもしれない。でも、霧也を殺されるわけにはいかない。

 俺は再び外に出るために扉に向かって走る。

「イサーク様の命令であなたを拘束する」

 女の子の声がした。

 その瞬間、俺の足元にあの青く光る陣が発生した。

「なんだ!」

 いやな予感がした。陣から生えるように岩が出てきて俺の足を固めようとする。

「くそ!」

 俺は力を発動して足元の岩を破壊しようとした。

「隙だらけ」

 その声が聞こえた途端、目の前に現れたのは岩の人形。俺と同じくらいの身長で胴体に手足の関節がしっかりした岩のデッサン人形。指と顔のパーツがないだけの岩の人形が目の前にいた。そいつに俺は殴り飛ばされる。俺の足を固める岩を破壊したせいで外まで飛ばされる。そして、外の木に激突する。肺の中の空気が抜けきり一時酸欠状態になるがそれだけで済んだ。

「咄嗟に土人形の攻撃を防御したか」

 岩の人形の後方から女の子が歩いてくる。年は俺と同じくらいだろう。黒髪のショートヘアー。前髪をヘアピンでとめている。どこか幼さのある雰囲気のある女の子だ。全身を黒いマントで覆った女の子。魔術はまたアキのような子をこんな戦いに巻き込んでいる。

 女の子の言う土人形の攻撃を俺は力を使い人形の腕を破壊して威力の削った。

「お前はなんだ?イサークの仲間か?」

「お前の質問には答えない。私に命令していいのはイサーク様だけ」

 なんだこいつ?歪んでる。アキ以上に歪んでる。

「土人形」

 女の子がカードを取り出して地面に向かってカードごと十字架で打ち付ける。陣が彼女の周りのあちこちで発生するとそこにあの土人形が作られていく。

「お前を拘束する。行け」

 土人形が走ってこちらに向かってくる。応戦するために両手に力を入れて力を発動させる。

「チクショ」

 応戦しようとした時だった。

「そこから動くな!教太!」

 霧也の声だ。霧也は上空で刀を大きく振る。すると風が起こり土人形を襲いぼろぼろと崩れて行った。そして、霧也は俺の目の前に着地する。肩は上下に揺れて息が荒く苦しそうだ。

「霧也!大丈夫か!」

「風上はがんばったよ」

 暗闇から現れた男。その表情は穏やかで敵意を感じない。でも、いつもこれはいつもと違う。恐怖を感じる。ゴミクズが恐怖を緩和できているのは奴の慣れた戦場の緊張だからだ。男から放たれている緊張は普通ではない。

「イサーク様。申し訳ありません。まだ、拘束できないでいます」

「気にするな。そんな簡単に捕まるような相手であることは分かってるさ。なぁ、シン」

 やっぱりあいつがイサークか。今まで奴と雰囲気が違う。あれが教術師なのか。

 それより風上だ。様子が明らかにおかしい。俺が見ていない数分の間にいったい何があったんだ?

「さて、すぐに終わらせる」

 イサークが右手から風を発生させる。

「・・・・・・・・くそ」

 霧也は完全に追い込まれて状況になっている。

 そんな霧也が何かに気付いた。

「伏せろ!教太!」

「え?」

 その瞬間、目がくらむような閃光が俺たちの目を襲う。霧也が覆いかぶさるように俺に乗っかったので俺は目をやられずに済んだ。この閃光を俺は以前にも見たことがある。

「逃げるぞ!」

 霧也が俺を掴むと右風刀の風を使って跳び上がり逃げる。逃げた先は宿泊施設の寄宿舎の屋上だ。屋上には空調機などが所狭しと置かれていてそのわずかな隙間に俺たちは降りる。だが、降り方はかなり雑でほぼ墜落に等しかった。俺は空調機にぶつかってフェンスにぶつかり止まる。霧也は屋上の床に転がるように落ちて空調機にぶつかり止まる。普通じゃない。

「霧也!」

「風也さん!」

 アキがやって来た。やっぱりさっきの閃光はアキの魔術か。外が騒がしくなっている。さっきの閃光で寝ていた奴らが起き出したみたいだ。それよりも今は霧也だ。

「おい!大丈夫か!」

「・・・・・・大丈夫だ」

 顔色が悪い。見てすぐに体調が悪いというのが分かる。嫌な汗も絶えず噴き出てる。この症状は最初にアキと会った時と同じだ。

「魔力が切れかかってます。早く治療しないと」

「でも、敵が!」

「この状況なら変な行動はできないだろ。目をやられてどこに行った変わらない俺たちを探すのは難しい。この騒がしくなった宿舎を探すのは困難だ。あきらめてくれるだろう」

 霧也が一息置く。

「霧也がたった数分でそんな状態になるなんてイサークはそんなに強いのか?」

「今回は戦術的に俺のミスだ」

「ミス?」

「奴が最初に攻撃してきたときどんな攻撃だった?」

「確か岩の棒みたいなもので攻撃してきた」

「あれは土属性だ。俺の使う風属性とは相性が悪い。だが、俺は奴と距離を置くために右風刀で攻撃した。で、案の定吸収された」

 だから、あいつは風属性の魔術を使えるようになった。

「機動力得たイサークは近付いて俺の魔力を奪おうとした」

 それで奪われたということか。

「気をつけろよ。イサークは思った以上に腕をあげてる。たった数秒しか触れられていないがこの吸収力だ。アキナの場合はすぐに魔力が尽きる。注意しろ」

「はい」

「あとはやっぱりイズミがいた」

「やっぱりですか・・・・・・・」

「イズミって?」

「土人形を使ってきた女の子だ。イサークの右腕と言っても過言じゃない。俺たちの組織で土属性魔術を使う魔術師の中で彼女の右に出る者はいない」

 それってすごく厄介じゃないか?

「数は2つだったのでただ様子を見に来ただけかもしれませんね」

「そうだな」

「なんで数まで分かってるの?」

「簡単にこの建物の敷地内に結界を張らせていただきました。魔術師レベルの魔力が入ると反応する結界です」

 それで俺が襲われた時にすぐに霧也が助けに来たのか。それにしても結界だけでも結構な種類があるんだな。

「だが、こうなってくるとまずい」

「何が?」

「敵はここにいる魔術師は俺たちだけだってことが知ってしまった可能性もある」

「それはつまり?」

「今回はここにきた魔術師の人数を確認しに来たと考えるのが妥当です」

 つまり、俺たちはたった3人。向こうは情報通りならかなりの魔術師を連れている。数で押し負けることになる。3人と言ってもアキは戦えるような魔力を持っていない。霧也も明日まで完全に回復するかどうか分からない。

「状況はいきなり最悪だ」

「・・・・・・そうだな」

 戦いの火ぶたは唐突に切って落とされた。俺たちはそれに出遅れたと言ってもいいだろう。状況は明らかに向こうが優勢だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ