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騒がしくも平和⑤

「なんだかすごく疲れてない?」

「いろいろあってな」

 俺は霧也から逃げるようにロビーの談話スペースにやって来た。2階と吹き抜けになっていて五角形を作るかのように白くまるい柱がある。その柱とに沿うようと吹き抜けの談話スペースを囲むようにベンチがありそこでは各々トランプをやったり本を読んだりと自由に過ごしている。その談話スペースで少し火照った 蒼井を発見した。風呂上りのようだ。残念。明日に期待だ。

「国分くんは女風呂を覗きに行かないの?」

 ・・・・・・・・・蒼井さんはエスパーですか?

「少なくともあのオカマくんは来てたよ」

「とりあえず、そいつは焼却炉にぶち込もう」

「少しくらい労わってくれてもいいだろ!」

「なんだいたのか」

 全身傷だらけで手足をロープで縛られていて椅子に拘束されている。近くには「ご自由に殴ってください」と書かれた看板が置かれている。もしかしたら俺もこうなっていたのかもしれない。女って本当に怒らせると怖い。

「とりあえず殴るか」

「ちょ!」

 うん。なかなかいいサンドバックだ。

「お願いだからやめて」

 やめないと本当に死んでしまいそうなので自重しよう。

「それに俺は女風呂を覗いてなんかない」

「嘘つけ」

 そうなかったら女子たちが束になってお前をそんなぼろぼろにはしないだろ。

「本当だ!確かに覗こうとはしていたが」

 未遂だろ。現行犯で捕まってもおかしくないだろ。

「でも、俺があそこにいたのにはわけがあるんだ!教太!親友として聞いてくれ!」

「やだ!」

「えーーーー!」

 だって、親友じゃないし。

「聞いてくれって。浴場とこの宿舎とつなぐ通路で学校既定のジャージを着ていない妙な女の子を見たんだ」

 この研修中では学校既定のジャージか体操服か制服でしか過ごすことが出来ない。確かに別の服装をしていれば目立つ。

「そんなの守らない奴のひとりやふたりいるだろ」

「最後まで聞けよ!」

 本当に面倒な不良。こいつを不良と呼んでいいものなのか?

「そいつは風呂場に行くかと思ったら入り口近くの出口から外に出てんだ。そこで妙な男と会ってた」

 妙な男?

「どんな会話してたか分かるか?」

「そこで捕まった。というか会話なんてどうでもいい。いい感じに女風呂に近づけたから覗こうかなって考えてた」

「使えねーな」

「なんで?」

 もしかして、その男がイサークならその女の子は連れてきた部下の一人かもしれない。俺たちの姿を確認するためにこの建物に忍び込んだ可能性もある。ゴミクズが言っていた敵は常に見えると。もしかして、すでにスタッフの中に紛れ隠れているのかもしれない。

 見えるところ・・・・・・か。

 俺の周りにいる奴で魔術と関わっている可能性のある奴。美嶋は絶対違う。

 オカマか?でも、こいつは隠し事とか絶対にできない。だってバカだし。

蒼井は何とも言えない。魔術という自分たちの知らない力が他にあるのではないかと勘づいている気がする。

「ねぇ」

「ん?な、なんだ?」

 蒼井が不思議そうにこちらを見ている。もしかして、俺の考えを呼んだりしてないよな。平常心だ。こいつの前ではなるべき何も考えるべきじゃない。

 だが、蒼井は俺の考えることよりもオカマと俺を交互に見る。

「ふたりって仲いいよね。どこで仲良くなったの?」

 仲良くない。オカマはただのおまけだ。お菓子とかについてくるほぼゴミに等しいおまけだ。

「ひどくね?」

「ひどくない」

「なんだ息があってるね。オカマくんは」

「オカマじゃなえーし」

「黙れ」

 俺は水を差すとオカマが大人しくなった。

「オカマくんは学校来てないのにどうやって国分くんと会ったの?」

 そういえば、確かにそうだ。こいつは同じクラスだったが授業にまともに来たことがない。一度でも学校であっているなら少なくともきっかけ程度はつかめたはずだ。でも、こいつ学校来てないしな。ほぼ制服を着たコスプレする奴にしか思えない。

「コスプレじゃねーよ」

 こいつと会ったのは高校が初めてだ。美嶋のように昔のなじみでもない。

「お前誰?」

「岡真広」

「うん、オカマだってことは分かってる」

「あのあまり大きな声で言わないでくれるか?本当に俺がオカマだってことになるから」

 もう遅いと思うが。

「え?」

 周りを見ると誰もがひそひそと「あの不良の奴ってオカマだったの?」とか、「あいつオカマらしいぞ」とか、「あの蒼井が言っていることだ。きっと本当にオカマなのよ」とか。俺が言うよりもまじめで顔の広い蒼井が言う方が信憑性が増しているようだ。

「教太!助けて!」

「オカマのお前を相手にしたくない」

「オカマにしたのはお前だろ!」

 すると周りの奴らが妙な反応をする。「あの不良がオカマにしたの?」とか、「あいつが不良をオカマにさせたのか?」とか、「きっと、あいつとあの不良で来てるわよ」とかいい加減なことを言っている。

「国分くんがオカマくんをオカマにしたの?」

「蒼井!変なことを言うな!」

「そうだ!俺はオカマと呼ばれているが実際はオカマじゃない!」

 だが、不良と不登校だった俺の言うことよりも蒼井の言った方がみんなの印象に残るらしく。周りにいる奴らが全員俺たちに目を合わせないようにひそひそと話し出した。

「待て!止めろ!広めるな!」

「そうだ!俺はオカマじゃない!」

「おもしろいね」

 楽しんでないで何とかしろよ。

「俺はオカマじゃないが教太はオカマに興味があるらしいぞ」

「お前デマ言うとコンクリート詰めにしてマリアナ海溝に沈めるぞ」

「ごめんさない」

 それを聞いた蒼井がなんか悪者表情をしている。やめろよ。

「国分くんってオカマが」

「やめろー!」

 蒼井の口を手で押さえて発言を止める。

 危ない。あと少しで不良以上に学校に行きにくくなるところだった。

「教太さんが空子さんを襲ってますよ!」

 なんでこうもタイミングが悪いんだ!

「教太。そこにいるオカマと同じ目にあいたいの?」

「待て!客観的に見るな!これにはいろいろと深い事情があるんだ!」

「アキ。あいつをどうすればいいかしら?」

 ダメだ。聞く耳を持ってない。

「火あぶりとか?」

 やめろ!アキはマジでできるから!

「電気椅子で感電させるのもおもしろそうですよ」

 アキ絶対怒ってるよね?

「こらお前ら!何騒いでる!」


『野澤うるせー!』(ロビーにいる生徒)


 涙目になって野澤はどこかに行ってしまった。

 さて、もう出番がないであろう野澤のおかげで一旦場が収まった。今の俺の置かれた状況は蒼井に俺がここにいるオカマをオカマにしたという疑惑がかかっているということと、美嶋とアキがなぜか怒っていて抹殺されそうな状況にあるのだ。ここにとどまれば蒼井に変な噂を流されることを阻止できる。だが、アキと美嶋には捕まりオカマと同じように人間サンドバックになる。だからと言って逃げるとアキと美嶋に人間サンドバックにされずに済むが、蒼井に噂を流される。

なんだ!この究極の二択は!

『いい方法があるぞ』

『マジか!ゴミクズ!』

『お前の力でこの建物を破壊する』

 マジでどうしよう・・・・・。

『あれ?無視?』

 迷っていると状況はどんどん悪化していく。どうしようと平和なことで悩んでいる時だった。

「見つけた」

 その声は聞き覚えのない声だった。でも、俺は咄嗟に反応した。振り返るとそいつは入り口の陰に隠れていたが俺の目線に気付いて隠れた。聞き覚えがないはずなのにもしかしたら脱走しようともくろむ生徒を見張るために暇そうにしている先生の可能性だってある。でも、俺は確信した。これの主は男だった。一瞬だけ見えた奇妙な気配。あれは例のイサークだ。

「待て!」

 俺は走り飛び出す。

「ちょっと!教太!待ちなさい!」

「教太さん!どうしたんですか!」

 美嶋は逃げ出した俺を怒鳴る。

 アキはさっきまでとは雰囲気の違う俺を見て心配そうに声を掛ける。

 玄関に向かって走り込むがそこには誰もいなかった。俺のいる明るい玄関の先はまるで世界が違うように真っ暗な闇が広がっていた。その闇の中に隠れているのは容易に想像できた。

「近くにいる」

 確信した。

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