無の空間⑤
気付けばそこにいた。前は気付けばいつもここにいたがここ最近はなかった。
よって、ここに来るには久々だ。
俺以外を除きすべて色のない白の部屋。ここは無の空間だ。俺の心の中らしい。
そこに住み着くゴミみたいなやつ。
「おい、聞こえてるぞ」
「聞かせなくても名前からしてゴミだろ」
「まぁ、確かに・・・・・・・」
納得するなよ。
ゴミクズは部屋の中央に置いてあるテーブルを囲む椅子に座っている。そのテーブルの上にはステーキらしきものが置いてある。鉄板の上の肉が焼けるジュージューという音と食欲をそそる匂い。よだれが止まらない。でも、それにはもちろん色がなくは白だ。匂いと音は最高なのだが残念だ。それをゴミクズは頬張る。
「それどこから出したんだ?」
ここは俺の心の中らしい。ステーキは一体どこから出したんだ?
「別に気にしなくていいだろ」
単純に言うのが面倒なだけだな。こいつは。
とりあえず、俺はゴミクズと向かい合うように座る。
「久々だな」
「そうだな」
「どうして今まで出てこなかった。いろいろ大変だったんだぞ」
ゴミクズは頬張る肉を呑み込んでから言う。
「ウルフ戦の時に俺はお前の体を使って戦った。覚えてるか?」
「あんまり」
確かに一瞬意識が飛んだのは確かだ。気付いたらウルフが目の前にいて戦意が完全に削がれた状態だった。そうか、俺はゴミクズに体を乗っ取られていたのか。
「思ったより俺自身の魔力を使ったせいでお前をここに連れてくる魔力がなかったからな」
ステーキの肉をナイフとフォークを使って再び頬張る。
ゴミクズ自身も魔力を持っているのか。まぁ、魔力そのものが俺に中に伝承したんだから意外でもないのか?それにしてもおいしそうに食べやがる。俺の食べたくなっただろ。
さて、なんで俺がここに来る機会がここ最近なかったのかは分かった。
「俺をここに呼んだということは何か用があるんだろ」
前の時は運命がどうとか言っていた。
ステーキを食べ終えて近くにおいてあった水を一気に飲み干す。
「お前のすでに分かっていると思うがイサークについてだ」
イサーク。やっぱり来るのか。こいつは俺の運命とかいうのを知っていると言っていた。だから、これから起こることも知っている。ただ、もったいぶってしっかりとは教えてくれない。だから、ゴミクズなんだよ。
「何か言ったか?」
「ゴミクズって言った」
「そうか」
すでにこいつは自分がゴミクズと呼ばれていることに抵抗がないようだ。本当はシン・エルズーランという名前があるのになぜそう呼べと言ってこないのか謎だ。というか最初に出会った時にそう名乗ればよかったのに、俺は神だとかいうんだ。全くバカだよな。
「何か言ったか?」
「バカだなって」
「消し飛ばすぞ」
できるわけないだろ。
「で、イサークがどうしたって?」
ゴミクズは一度咳払いをして切り替える。
「お前はアキナから俺の実力を聞いただろ?」
「ああ。魔術の世界で4大教術師のひとりだろ」
「そうだ。その俺が言うことだ。奴とは戦うな」
「なんで?」
「イサークはその4大教術師とまっとうに戦うことが出来る教術師だ。その能力が厄介だ。俺は正面からやりやったことはないが、まず今のお前では絶対負ける」
「もう確定なのかよ」
「格が違う。風上の言うように今回ばかりはうまくいかない可能性の方が高い。俺の力を完全に使えていないお前では無理だ」
そんな強い相手なのか。
「どんな教術を使うんだ?」
「俺が教えなくても大丈夫だろ」
またこれだ。
「あのさ、俺をここ呼ぶのってただ俺をビビらせてからかってるだけなのか?」
「それの何が悪い?」
やばい。殴りたい。
前回と違うのは戦う相手が分かっているということだ。前回はウルフとアゲハがあんなあからさまに襲ってくると思ってなかった。でも、今回は襲ってくると最初から分かっている。何が起こるのか分かっているゴミクズから情報を聞き出せば、格の違う相手を倒すのが少しでも有利になる可能性だってある。
「まぁ、アキナの頼みだしな。仕方ない」
そうだな。アキの頼みだし。
「イサークは強敵だ。今回も俺はお前から恐怖心を消すことくらいしか援助できない」
「十分だ」
「そうか」
ゴミクズは小さく笑みを浮かべる。どこか安心しているように見えた。
「ヒントだ。これは重要だ。その飾りに等しい耳でよく訊け」
どういうことだ?それは?
「お前が誓った約束。それがお前が生き残る、イサークを倒すカギになる」
「どういうことだ?」
「ヒントおしまい」
この部屋に何か鈍器はないかな。
「おい、殺人鬼の目だぞ!」
それがどうした。チクショ。ここには鈍器がない。あ、ステーキの鉄板。
「やめろう!」
うるさい奴だ。
「さっさと出てけ!」
お前が出てけよ。ここは俺の心なんだから。まぁ、これ以上いても無駄な気がするから。出るとするかな。
ここから出るにはこの部屋の扉から出ればいい。
「そうだ。教太」
「なんだ?ヒントは終わったんじゃないのか?」
「いや、イサークについてのことじゃない」
「ん?」
「気をつけろよ。敵は常に見えるところにいるぞ」
こいつは何が言いたいのかさっぱりだ。俺の見えるところに敵がいるってことか?でも、俺の周りの魔術師はアキと霧也しかいない。他に魔術師でも混ざっているのか。
だが、ゴミクズはそれ以上何も言わなかった。俺は部屋から出る。
「悪いな、教太。俺もここだと自由に話せないんだ」
そんなことをつぶやいていたが俺には聞こえなかった。




