騒がしくも平和②
「ついに来たぜ!修学旅行!」
「黙れオカマ。というか久々に見るような気がする。後、修学旅行じゃないからな」
「え?マジ?」
前回丸々出番がなかったからな。出れてよかったな。
アキが転校して来て俺と美嶋は学校に行くようになってからオカマと話さなくなった。というか会わなくなった。俺たちが真面目になってもこいつは変わらないようだ。でも、宿泊研修は参加するんだな。こういうイベントではいつもはやたらとテンション低い奴がハイテンションになったりするよな。オカマは典型的だな。普段は学校来ないのに。
今、俺は学校にほど近い市営の駐車場に来ている。そこに俺たちが乗る貸切のバスがある。集合場所になっていて俺を含めた1年生全員が集まっている。
「あら、オカマじゃない」
「オカマじゃねーよ!岡真広!」
「うるさい。消えなさい」
「ひどくない?」
ひどくない。
美嶋がやって来た。その後を追うようにアキと蒼井もいる。
「オカマさんお久しぶりです」
「おお、美嶋のそっくりさん。あと、俺はオカマじゃないからね」
「・・・・・・・・誰だっけ?」
「いや、俺もお前は知らない」
そうか。オカマと蒼井は面識ないのか。存在がゴミカスに近いオカマを認知するのは非常に難しい。そんなオカマと関わっている俺たちってすごいと思う。
「何か悪口言われてるような気がする」
「ああ、もしかしていつも学校に来ない岡くん?」
「そうだよ!俺の名前をまともに言ってくれるなんて嬉しい限りだぜ!」
まともに呼んでほしかったらちゃんと学校来いよ。俺が言えた義理でもないけど。
「岡真広、最初の3文字でオカマなんだ。おもしろいね」
「おもしろくないからな。それと君も俺のことをオカマって呼ぶなよ」
「分かったよ。オカマくん」
「教太。俺の名前って何だろな?」
「燃えるゴミじゃね?」
オカマがいじけてしまった。別に気にすることでもない。無視し続ければ寂しくて向こうからやってくる。不良なのに寂しくて死んでしまうウサギみたいな生き物なのだ。あいつは。
「教太さん」
「ん?」
「そのありがとうございます。無理を言ったみたいで」
「気にするな。ふたりで了承したことだ」
そういえば、霧也も来るはずだが姿が見当たらない。一体どうやってついていくつもりなんだろうな。一応、行き先は伝えてあるのだが大丈夫だろうか?
「何内緒話してるの?」
「空子さん」
「国分くんは大変だね。いろんな女の子からアタックされて」
「それはどういう意味だ?」
「どんくさいね」
謎だ。確かに俺はアキや美嶋から必要ないのにいっしょにいる気がするのは確かだ。嫌じゃないから別にいいけど。
「おら!バスに乗りこめ!」
これまた久々の登場。野澤だ。出番はたぶんこれだけだけど。
「それはないよな?」
「さぁ~」
バスに乗り込む。大きい荷物はバスのトランクに携帯などの小物は手元に持っていく。その小物の中には霧也と通信できるカードを持っている。すでに発動状態にある。触れれば、意思だけで霧也と会話できるらしい。試してみよう。
触れてみる。
『聞こえるか?』
『聞こえるぞ』
おおスゲー。本当に聞こえる。
『今どこにいるんだ?』
『お前の乗る乗り物の上だ』
『上?』
『魔力を使った長距離移動は体力を使うからな』
そのバスの上というのも無駄に体力を使う気がするのは俺だけだろうか。
「俺は教太の隣か?」
「黙れ死ね」
「いい加減に俺の扱い方を考えようぜ」
時間の無駄だ。
『教太。この集団なら敵が攻め込むのは難しい。だが、油断はするな』
『分かってる』
ウルフの時みたいに人がいようが容赦しないで攻撃してくるかもしれない。そしたら俺はここにいる魔術に関係ないみんなを守ることが出来るのだろうか。
大丈夫だ。きっと。
『そういえば、昨日聞きそびれたがイサークってどんな奴なんだ?』
脱獄がどうとか言っていたし。
『イサークは俺たちの組織の人間だ』
それは昨日聞いた。
『2年前の戦争で3つほど部隊の隊長をしていたが、奴を除いて全員死んでいる』
『どういうことだ?』
『最初は上も運が悪いだけだろうと踏んでいたのだが、何かおかしいと感じた者がいて調べた。そしたらとんでもない結果が飛び込んできた』
『それは?』
『それは・・・・・・』
「何険しい顔してるの?」
蒼井の顔を覗き込むように聞いてきた。こいつは俺の心でも読めているのか俺の心境を分かっているみたいだ。美嶋よりも魔術に近いところにいるかもしれない。
「オカマくん。ちょっと席変わってくれない?」
「いや、俺はオカマじゃなくて岡だから」
「変わってよ」
「だから」
「変われ」
今一瞬悪魔的なものが出てきた気がするが気のせいだろう。
「・・・・・・・はい」
渋々オカマは蒼井と席を交換する。こいつといると俺の隠し事がだだもれになっている気がする。
『霧也!しばらく通信を切るぞ!』
『え?あ、ああ』
すると蒼井が不思議そうに首を傾けてこちらを見る。俺もそれに合わせて首をかしげる。こいつがいるのはいろんな意味で怖い。
「俺に何か用か?そうじゃなかったらあいつと席を変わる意味が分からないぞ」
「うん。あのふたりがいるところだと訊きにくいし、それに国分くんなら知っていると思ってね」
「何を?」
すると担任の野澤がバスに入ってきて人数を確認し回る。その間だけは蒼井も大人しくなる。何を企んでいるか分からないキツネのようだ。引き込まれていけない。俺は確かにアキを守り美嶋を魔術に関わらせないようにするのが目的だ。でも、それらをする根本的な目的はこの平和な日常を守ることにある。だから、蒼井はもちろんオカマにも魔術に関わってほしくない。そのためなら俺が犠牲になる。すべての魔術を俺が背負うつもりだ。今回のマラーの罠も俺が全部受け持ってやるつもりだ。
野澤が点呼を終えてバスが目的に向けて走り出す。霧也はちゃんとこの上にいるのだろうか?あいつのことだ。いざとなれば、得意の風を使った移動で追いかけるだろう。
「さて、訊いていいかな?」
「ああ。さっき言ってた二人って?」
「美嶋さんと三月さんだよ」
・・・・・・まさか。
「気になってたんだけど、あのふたりって双子とか?」
やっぱり勘づいている。美嶋とアキが同一人物であることを。やばいな。
「そ、そんなわけないだろ」
「そうかな。髪の色と口調以外はそっくりなんだけどな」
確かにそうだよな。遠くから見たらどっちだか見分けがつかないよな。
「ふたりに直接聞けばいいだろ」
ここは俺の負担を少しでも軽減する。アキはともかく美嶋は完全にアキのことを親友であって他人だと思っている。蒼井の鋭い観察眼や勘から逃れることが出来る。アキの場合だと隠しきれるか保証できない。
「いや、もしかしたら生き別れた姉妹で何かと重たいわけがあるかもしれないよ。そんな過去を詮索したくないと思ったわけだよ」
その結果二人と仲のいい俺に訊いた。もし、蒼井の立場なら俺も同じことをしていると思う。
「それに国分くんは以前から三月さんのことを知ってるみたいだったよね。君みたいな人と交流するのが下手な子が一日で私と同じ関係になれるなんておかしいよね」
確かにそうだ。中学の一件以来俺は人との交流が異常に下手になったのは確かだ。怪しまれるのも不思議じゃない。
「いや・・・・・アキとはな・・・・・その」
「なんで古い付き合いの美嶋さんは名字で三月さんは下の名前で呼んでるの?おかしくない?三月さんと国分くんの関係って何?」
どんどん追い込まれている。アキと俺の関係は魔術が関係している。あの時、アキとたまたま出会い。興味を持ったのがすべての始まりだ。あの時からアキとしか自己紹介をされていなかった。今更別の呼び方はできない。それに三月というのはとりあえずの名前でアキの本名じゃない。だから呼びにくい。
なんて言えるわけないだろ!
「・・・・・何か隠してる」
「な、何も隠してない」
「じゃあ、なんで目線をそらすの?」
「それはお前が迫ってくるからだろ」
ジーと俺のことを見つめてくる。ダメだ。プレッシャーで押しつぶされされそうだ。
『仕方ない奴だ。少し変われ』
それは非常に久々に聞いて懐かしく感じた。
「あいつとは俺の遠い親戚の関係だ。両親が亡くなって少し心を病んでる。ああやって明るく接しているが偽りだ。あまりそのことについては首を突っ込むなよ。分かったか」
「う・・・・・うん」
俺が突然すらすらと話したものだから蒼井は驚いていた。もちろん俺の意思ではない。ゴミクズが俺の体を勝手に使って言ったことだ。前にも同じようなことがあった。前と違うのはそこに俺の意思があったということだ。
『この女とはなるべき関わるな。なかなか鋭い奴だ』
分かってる。
「何か美嶋が呼んでたぞ」
「え?」
「急らしから急いで行ったら?」
「分かったよ」
首をかしげながら席を立つ。その間にゴミクズと席を交換した。これで大丈夫だろう。
「あのなんで交代するんだ?」
「言いから言うことを聞け。それしか能がないだろ」
「・・・・・・・俺って人間として扱われてるか?」
さぁ~?




