迫る影②
アキと霧也の住むアパートは俺の通う高校にほど近いところにある。少し歩いたところに商店街がある便利なところだ。俺は押し倒されたせいでひじやひざに擦り傷を負っている。夜の冷たい風と激しく動くことによって地味に痛む。でも、俺はそんなことを気にせずに走る。さびて壊れそうな階段を駆け上がりアキたちのいる203の扉を叩く。
荒れた息を整えながら待つこと数秒。木の扉が開いた。
「誰ですか?」
「アキィィィ!!」
アキが出てきた。その服装を見て驚愕する。
アキは風呂上りらしくほてっていて暑いのか服の前のボタンを開けていて胸の谷間が覗かせている。疲れていて中腰になっていた俺の目の前にそれがどーんと現れたのだ。驚かない方がおかしい。
「どうしたんですか?そんなに慌てて」
「話したいことがある。今いいか?」
「いいですけど」
不思議そうな顔をしていた。すると部屋の明かりで俺の擦り傷を見てアキが慌てる。
「だ、大丈夫ですか!怪我してるじゃないですか!」
「大した怪我じゃない」
「なんだ?また来たのか。ここはお前の家じゃないぞ」
奥から霧也も出てきた。
「ちょうどいい。ふたりともいるのか。これを見てくれ!」
俺はさっき拾った面を見せる。
すると霧也もアキも顔色が変わる。
「お前これをどこで」
「さっきそこで。拳銃を持った男からだ。俺のことを教術師と言ったからきっと魔術師じゃないかと思う」
アキは俺の擦り傷を治療しながら言う。
「それはおそらくマラーのものです」
「マラーの!」
俺たちにやたらとちょっかいを出す。あのマラーの物なのかよ。じゃあ、もしかしたらイサークという男も利用されてるんじゃないか。
「これを教太にやった男はなんと言っていた」
「それは・・・・・・・」
アキと霧也にマラーの部下らしき男から聞いたことをすべて話した。
「どう思う?」
「罠だな」
俺もそう思う。
「厄介なのはイサークさんを使ってくるということですね。もしかしたら、今回の脱獄もマラーの仕業かもしれません」
「だが、謎なのはなんでそんなことを俺たちに教えるようなことをしたんだ?」
俺の方を向いて疑問形で尋ねるな。俺が知るわけないだろ。
「今回が3回目だとしたらすべての回において標的が違う。共通点が見当たらない」
目的がさっぱりだよな。何かを試しているみたいだけどその何かが分からない。
「一応、組織に伝えますか?」
「そうだな。それと明日からの宿泊研修は行くな」
確かにそうかもしれない。どんな罠があるか分からない。でも、俺はいいかもしれないがアキはそうもいかない気がする。
「・・・・・・・・・」
「どうしたアキナ?」
「いや・・・・・なんでもないです」
アキの中のふたりのアキが戦っている。魔女のアキと女の子のアキだ。罠かもしれないから行くべきではないという魔女のアキと初めての宿泊研修に行きたいという女の子のアキだ。俺はどちらを味方するべきか。それは決まっている。
「なぁ、霧也。これをチャンスと考えてもいいんじゃないか?」
「・・・・・・・何を言っている?」
「マラーが仕掛けた罠にマラー自身がいないとは考えにくい。何を企んでいるのか分からないのなら本人を捕まえればいいんじゃないか?」
「マラーは未だに表舞台に出てきていない未知の人物だ。どんな魔術を使うのかも分からない。それに今回利用されたイサークは今まで教太が戦ってきた相手とは格が違う。前回のようにうまくいくとは限らない。アキナの安全が保障されない以上行かせるわけにはいかない」
「俺の力は魔術の世界でも4本の指に数えられるほどの物なんだろ?」
「どうしてそれを?」
霧也はアキナを睨みつける。誰に聞いたかは聞かなくても確かだ。アキはその霧也の視線を避けるように目線を外す。
知ったことは仕方ないと思ったのか改めて俺の方を見る。
「いくら元の力が強くても完全に使えていてないことは分かってるよな?」
「あ、ああ」
「そんな状態ではダメだ」
「それでも俺は行くぞ。俺は自分の力を信じてるからな。約束は絶対に守る」
すると霧也は強く机をたたく。それは怒りによるものだ。その勢いにアキが怯えている。だが、霧也もアキを守るために本気で言っていることは分かる。でも、俺は女の子のアキを優先させたい。
「その自分勝手な行動が約束を守れない原因につながる。そんな確証もない力でどうアキを守るんだ!」
「どうにかなるよ!今までだってそうだっただろ!」
「それは運が良かっただけだ!だが、今回は相手が悪い!俺が正面から戦っても敵わない相手だ!」
「逃げるのかよ!」
「確実な方法をとるためなら時に逃げることも大切だ!」
「臆病者が!」
「時に臆病になる必要もある!アキを守るためなら俺はプライドなんていらない!教太のように変なプライドは俺にはない!」
「プライドの問題じゃない!」
「ちょっと止めてください!」
アキに止められる。言いあう俺たちも一時停戦になる。
「こうやって私たちに亀裂を入れるのもマラーの作戦かもしれないですよ」
「う」
確かにそうかもしれない。マラー側は俺の目的を知っていた。きっと、魔女であったアキを普通の女の子にしたいという願いも知っている可能性もある。霧也のアキを守るという執念の強さも知っていたのかもしれない。だから、こうやってケンカして俺たちを孤立させようとしていたのかもしれない。
「教太さんは私がこの研修を楽しみにしていたことを知っていたから。風也さんも私のことを思ってプライドも捨てて止めてくれた。私はうれしいです」
「・・・・・・・アキ」
どうしていいか分からなくなった。ここは俺たち二人がどういっても無駄だ。
霧也の方を見ると俺と同じような考えのようだ。目配りで意思が伝わる。
「アキナはどうしたい?ここに俺たちはいない。魔術もいない。魔女もいない。アキナの意見を聞かせてくれ」
「・・・・・・・・・・私は・・・・・・行きたいです」




