仮面の女①
それは私が魔術のない世界に行く数日前の話だった。
私は氷山氷華。左風刀という契約系の氷の魔武を持つ機関出身者である。私はこの氷華という名前が嫌いだった。すぐに機関の出身であることがばれて戦争の道具に使われる。この悩みは私だけの物じゃない。雷恥も火輪もそして風也もそうだ。その風也は魔術界でも3本の指に入る組織に加担している。私とは別の女を守るためだ。
私以外の女のために組織に加担しているというのも許せないけど、さらに私が腹が立ったのは利用されるかもしれない組織に関わっているところだ。苦しい思いをしてきたこと一番知っているはずなのにその女のためにそれを呑み込んで組織いる。許せなかった。
「で、話って何?」
そこは廃墟と化した小さな民家だった。周りに家は一軒もなく整備されていない森が広がっている。木製の古い日本家屋だ。そこに来るように手紙が私の自宅のポストに入っていた。内容は風上風也を取り戻したくないかというものだった。
私は風也を取り戻すならどんな方法でもとる。それがもしはったりで私をはめるための物ならそいつは全力で殺す。そういう覚悟だった。
私は雷恥と火輪もつれて手紙にあった廃墟にやって来た。
そこには畳の上に机と椅子だけが用意されていた。椅子には面をかぶった女らしき人物が座っていた。その後ろには護衛らしき二人の男。どちらも面をかぶっている。
「自己紹介がまだだったね。私はマラーだよ」
「氷山氷華。と言っても私のこと知ってるみたいだったわね」
「そうだね。いろいろと氷山さんのことを調べさせてもらってね」
「ほう」
警戒を怠らない。もし、どこかの組織の人間で風也をネタに私を吊ったのだとしたら、それは私に対する侮辱。死を意味する。
「風上さんを取り戻そうと奮闘していること。魔女を殺そうとしていること。あなたは風上さん・・・・・いや霧也さんに梨華と呼ばれていることも」
面の向こうで目がぎろりと光る。
このことは私と風也、雷恥、火輪しか知らないこと。
「何で知ってるのよ!」
思わず太刀に手が出る。すると護衛が拳銃を取り出し、もうひとりはかぎづめのような武器を取り出した。それに反応して雷恥も火輪も剣を抜こうとする。
「はいはい。落ち着いて」
パンパンと二回手を叩く。その場を簡単に鎮圧した。
そして、場が冷静になったところで話を続ける。
「私たちの情報に信用性があることを認識していただきたかっただけです。無礼を許してください」
そう言って頭を下げる。
どうやら持っている情報は嘘ではないようだ。となるとこいつらは本当に風也を取り戻す方法を知っている。
「本題に入りなさい」
面で分からないけどかすかに笑っているような気がした。
「今、風上さんは魔女の美嶋さんと共に異世界にいる。例のシン・エルズーランの力を伝承した者の護衛を魔女と共に行っているよ」
「風也は異世界にいるの?」
「はい」
ここで初めて風也が異世界にいることを知った。あの力が伝承されたという噂は私の耳に入っている。だが、それが異世界の人物であるというのは驚きだ。
「今、その異世界に行くための穴が全部で4つ。ひとつは組織によって完璧に管理されているけど、それ以外は場所さえわかれば簡単に使えちゃう。組織はまだ穴の捜索を行っていない。使うなら今だよ」
「メリット分からないわ。その異世界に行ってどうやって風也を取り戻すの?いくら魔力が半分になったからと言って私たちが正面から戦っても勝てない魔女がいるのよ?」
「彼女はそれほどの脅威じゃないよ。警戒するべきは風上さんと例の力を伝承した国分教太くんだよ」
「なぜ?」
「魔女は異世界でまた生命転生術を使った。今の魔力はさらに半分」
「その情報は確か?」
「確かで~す」
私たちしか知らないことを知っている連中、間違いを言っているようには見えない。
「それで私たちにはどうしろと?」
「まず、異世界に行って身をしばらく隠してください。時間的に穴はすぐに発見されると思うよ。だから、優秀な空間魔術師のリン・エイリーとその護衛で相棒のリュウガ・フォーロンが調査しにあっちに来ると思うの」
「厄介なふたりじゃない」
どちらも組織内ではに有名な魔術師だ。魔力ランク共に飛びぬけて強いわけじゃない。ただ使う魔術がトリッキーなのだ。知らないとその魔術に対応できない。
「ですが、穴は3つ。人員的にも穴の調査で最初に突撃するのはこのふたりは確実だよ。そのふたりが穴を通った瞬間穴を破壊する。これで援軍は来ません。いるのは雑魚と風上さんと国分くんと魔女だけ。いい作戦でしょ?」
「確かにそれはいいわね。でも、そのタイミングが分からないわ」
「それに関してもご安心を。私たちの拠点は異世界なので隠れ場所もタイミングもこちらで指示するから」
妙な連中。話をするのに素顔を見せてくれない。まったくを持って謎だ。
「ひとつ気になることがあるわ。聞いていいかしら?」
「どうぞ」
「あなたたちのメリットは何?」
面の向こうで薄く笑ったような気がした。
「それはお伝えできないよ。私たちはあなたたちを完全に信用したわけじゃない」
「そう」
個人の情報は一方的に向こうが持っているということね。
まぁ、いいわ。情報は確実そうだし。
「了解したわ。あんたたちの作戦に乗るわ」
「ありがとう」
「今日はこれで終わり?」
「はい、異世界への行き方も後日、同じように手紙で送っておくね」
「分かったわ」
そういって私は席を立つ。
「ああ、そうだ」
マラーは私を呼び止める。
「今の氷山さんだと風上さんとは対等に戦えないよ」
「それはどういうこと?」
すると私の失った右腕を指差す。
風也を助けるために敵の攻撃に割った入った時に失った右腕。結局、風也は助けることが出来なかった。魔女に助けられた。あの時、風也を助けていれば、今みたいな苦労をしないで済んだかもしれない。すべては私の弱さ。その弱さに腹が立つ。
右裾を強く握りしめる。
「その右腕の代わりだよ」
そういって一枚のカードを渡してきた。五芒星の描かれたカード。私のランクなら発動できる限界レベルの魔術の陣だ。
「代わり?」
「そのカードの中にあるのは契約系の魔術。自分の体の一部になってくれる便利なものだよ」
「そう」
確かにこの右腕がないことをどうやって補おうか考えていた。魔術では人間の高性能な体の一部を再現するのは難しい。だから、最初は興味がなかった。何度も試して失敗を繰り返しているからだ。
「それはただの魔術じゃないよ。まずは契約系であること。そして、その契約相手が悪魔であること」
「悪魔?」
魔術は悪魔の術とも言われている。だから、魔術の中には術者を食いつぶす悪魔術というものが存在する。強力であることは確かだが、代償が大きい。通常の契約系の魔術、魔武は魔力を契約料として払うが悪魔術の契約は魔力でないことが多い。それは命だったりする。
「安心してよ。この悪魔術の契約料は魔力だけだから。自分の弱さを補うためならどんな手段も取る。それが氷山さんだと思ったんだけど」
流石の情報力ね。私のこともよく分かっている。
「分かったわ。その契約系の魔術。もらうわね」
「そう。ではどうぞ」
その面の向こうで何を企んでいるのか謎だった。でも、私には関係ない。私は風也を霧也を取り戻すためなら何もかも利用する。それが別件で利用されることになっても霧也を取り戻せるのなら私は躊躇はしない。
私 は右腕の付け根に向かってカードを添えて十字架を打ち付ける。




