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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
風と氷の糸
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風と氷①

 氷華はかなりの美人だ。あれが風上の恋人というのがもったいないと思う。

 でも、やはり気になるのが右腕。あれはないのか。それとも隠しているのか。分からない。

「こんにちは。国分教太君」

「ど、どうも」

 なんで俺のことを知っているのだろうか。俺はもう魔術の世界では有名なのだろうか。その辺はアキとかに聞かないと分からない。でも、ここは魔術の世界じゃないし、異次元を簡単には行き来できないと言っていた。どうして俺のことを名前まで知っているのか謎だ。でも、その前に風上だ。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」

 だが、顔は痛みで引きずっている。刀を振るっていた右腕がうまく動かせないようだ。凍傷で固まっているみたいだ。

「魔女なんかかばう必要なんてなかったのに」

 ゆっくりとこちらに近づいてくる。その氷華の背中には風上の持つ刀とは違い長い刀を持っている。だが、今の攻撃はあの刀によるものではないようだ。そうなると普通の氷属性の攻撃のようだ。

「帰っておいで風也。私と一緒に」

 手を差し伸べながら、歩き寄ってくる。

 その間に入るかのようにアキが立ちふさがる。杖を構えてカードを用意して万全の態勢。だが、ウルフの時と違うところはその自信だ。手足が震えているのがよく分かる。それは相手のことをよく知っているからこその震えなのかもしれない。敵わない。死ぬ恐怖。魔女であったアキには経験したことない感覚。

「なるほどね。魔女が弱くなっていう情報は本当のようね」

「な、なぜ知っている?」

 風上が驚いていた。俺が力を手に入れたことを知られていることよりも、アキが魔女の力を半分以下に落ちていることが知れ渡っていることに風上は驚いている。

「お願いだから帰って来てよ。さみしいよ。また、4人で平和で楽しい生活に戻ろうよ。せっかく機関の呪縛から師匠が解き放ってくれたんだから」

「悪いな。氷華。そうもいかない」

 風上が立ち上がりアキの肩を掴み後退させる。左手には鞘から抜かれた刀をしっかり握っていた。

「何?やっぱりその女の方がいいの?」

「違う。俺はただ命を救ってくれた恩がある。そのために俺はアキナを守る」

「風也さん」

 風上は一度志したことは絶対曲げない。俺も知っていることだ。恋人ならそのくらい分かっているはずだ。

「・・・・・・そうなんだ」

 すると氷華は刀を引き抜く。その時に何かをつぶやいていた。それは契約系の魔武という証でもある。それは俺の思った通りの刀だ。だが、長さから見るとただの刀ではなく太刀だ。それを氷華は片手で軽々しく構える。

「だったら、全身を凍らせてでも連れて帰る。生きていればそれでいい」

 まずい。今の風上は利き腕がけがをしている。アキに氷華を止めれるだけの魔力はない。

「アキナ。俺の腕を治療してくれ。応急処置でいい。動かせるようにしてくれ」

「そんな暇があると思ってるの?」

「あるさ。ここにいるのは俺とアキナだけじゃないぞ」

そう。俺がいる!

「ああ、あの雑魚?」

 あれ?俺って雑魚なの?

「持ち主程じゃないんでしょ?」

 つーか、なんでそうもいろんなことを知っているんだ?

「それほどの情報を誰から?」

「さぁ?誰かな?」

 太刀を構えて氷華が風上に向かって斬りかかるとしてきた。

 風上はアキを抱えて風を起こして俺と移動した時と同じように移動して氷華の攻撃をかわした。だが、片手でうまく微調整できなかったのか地面に強く体を叩きつけられる。その際に刀を手放してしまう。アキは風上に抱かれる状態でけがはない。

「風也さん!」

「早く、治療してくれ」

「させないって言ってるでしょ!」

 やばい!

「アキナを守れ!国分教太!」

 そう風上に言われた瞬間、俺は迷いもなく氷華に向かって両手にはもう当たり前のように力を宿した状態で。氷華は普通に防御すると剣を破壊されるととっさに判断して後ろに飛び退く。少しだが風上とアキとの距離が開く。その間に俺が割って入る。

「邪魔。今、あんたに付き合ってられない」

 氷華どんなすごい魔術師かは知らない。でも、守らないといけないものは俺にもある。それは偶然にも風上とかぶっただけだ。

「はぁ~。やる気みたいね。だったら、私も」

 そういうとたちの刃を覆うように氷が張っていく。そして、まるで大剣並みの大きさになった。それを氷華は軽々しく振り回す。その氷の刃に触れた地面は一瞬のうちに凍りついた。この武器の特徴は刃に触れた物を凍らせるというものだろう。剣の刃がデカくなったのは空気中の水が凍ったものだろう。あの剣に触れたら最後だ。だが、俺の体が凍らされる前に破壊すればいい。簡単な話だ。

「邪魔だから退いて!」

 氷華は俺に向かって跳び上がって斬りかかろうとしてくる。無敵の槍なら簡単に破壊できる。だが、あれは隙がデカいと風上に指摘された。なら、

 俺は地面の思い切り殴る。地面の石や砂が破壊されて噴煙が上がる。氷華はその中に飛び込んでいく。そして、剣を振り下ろすと周りの空気が凍り、噴煙が収まる。そこに俺はいない。

 とっさに横に移動して氷華の右側に移動する。氷華は左手だけで剣を振っている。隙が右側にできると思ったからだ。そして、その大きな剣を咄嗟に俺に向けて斬りかかっても遅い。だから、おそらくやることはあの剣で攻撃をしのごうとするはず。そこが勝負だ。

 俺は走り込みながら左手で右手首を掴む。俺の力の直列つなぎの技。

「無敵の槍!」

 ランスの形をした靄で俺は氷華に向かって突撃する。刀を破壊した時点で力を解けば、氷華は死なない。そう考えての攻撃だ。だが、氷華が薄く笑った。

「素人ね」

「何?」

 その時、俺は滑ってバランスを崩した。それは俺の凡ミスではない。足元が一面氷が張っていた。足場いつの間にか悪くなっていた。あの氷華の攻撃によるものだろう。あの一撃が地面にあたり一面の地面を凍らせた。

「甘いわよ。そんなんじゃ魔術の世界では生きていけない」

 走り込む勢いは衰えず、態勢を崩した状態で氷華に突っ込む。それはまるで俺が斬ってくださいと言っているみたいな状況だった。

 氷華は剣を振りかざして俺に斬りかかる。俺は咄嗟に発動中の無敵の槍を氷華の剣に向ける。そして、剣の氷の一部が靄の中に入った瞬間、氷の破壊が始まり俺を斬りこむ前に氷がすべて破壊された。氷華の攻撃が不発に終わった。俺は体をひねらせて剣のみの攻撃をかわして氷の滑る勢いを使って氷華と距離を置く。

「咄嗟の判断力はさすがね」

 再び剣の周り氷が張る。

 氷華と立ち会って思った。氷華は近接攻撃にはめっぽう強そうだ。あの剣に触れることが出来ない。さらに足場を悪くさせられる。逆にむこうはそれに慣れているみたいだ。アキが使うような火の玉のような攻撃が有効のようだ。だが、今の俺には遠距離の魔術はない。

「でも、所詮その程度」

「だが、よくやった」

 その瞬間、風上の攻撃が氷華を襲う。氷華はその攻撃を剣で防ぐ。風上の刀には風がまとっているせいか凍りつかない。氷華が振り払う。風上も距離を置く。よく見ると少し剣先が凍っている。それは振りかざすことで振り払っている。

「怪我はいいの?」

「動けばそれでいい」

 刀を握る右腕は震えていた。まだ、完治したわけじゃない。でも、今の風上は誰にも止められない。

「刀を壊せなかったわね」

「いい刀だからな。師匠の使っていたものだ。それもそうだろ?」

「そうね。左氷刀。師匠の愛刀ね。その愛刀に愛刀が破壊される。師匠もさぞかし悲しむでしょうね」

「それでも俺はお前の元には戻らない」

「頑固」

 氷華は風上に斬りかかる。風上はそれをかわして氷華の右側に移動して攻撃をする。だが、斬りかかる直前で風上は刃を止める。

「どうしたの?魔女を守るためなら斬りなさいよ」

 抵抗しない。それは風上が自分を斬れないことを分かっている証拠だ。

 氷華は動きを止める風上に斬る。風上は後ろに飛び退いてかわす。

「すばしっこいわね。まぁ、機動力は風属性の魔術の特徴だし」

 風上は明らかに様子がおかしい。雷恥や火輪のような勢いがない。迷いだらけだ。

「さて、さすがにこの左氷刀だけだと風也には敵わないわね。攻撃が当たらない。私たちの剣術の型は二刀流だしね」

「でも、その二刀流はできない。そうだろ?」

「そうね。魔女のせいで風也は命を、私は右腕を失った」

 じゃあ、あの空っぽの右裾はそういうことだったのか。隠しているのでなくないのか。左手だけであの太刀を振り回しているのもおかしいと思っていた。

 氷山氷華には右腕がなかった。

「だから、私があきらめたと思うの?」

 氷華は刀を地面に刺してポケットから十字架を取り出した。

「私はね風也が死んだは私が弱いのも原因だったと思うのよ。この右腕がないのも弱かった私への罰」

 そこにはない右腕を強く握りしめながら氷華は言う。

「風也も戻ってこないのも私の力不足。力がないことにすごく悔しい。風也が私を見てくれないのは私がちっぽけで弱くて何もないから」

 ちっぽけで何もない。無に近い俺と同じみたいだ。俺ももがいたものだ。自分の特徴を求めて。

「だから、風也。私を見て。私こんなに強くなったよ」

 氷華は十字架を右腕のあった付け根に強く打ち付ける。すると青く光る円が発生。そこには五芒星が描かれている。すると空っぽの右裾を引き破って現れたのは冷たく透明に輝く氷の腕。関節の部分は尖っていてとても人の腕はない。うろこのような模様があり、毒々しい。例えるならドラゴンのようなとげとげしい腕だ。

「ブリザード・アーム」

 アキがそう言った。

「さすが魔女ね。力はなくても知識は豊富ね。そう、これはブリザード・アーム。この左氷刀と同じ契約系の魔術。魔武じゃないけどね。右腕がないなら作ればいいってね。魔術って便利」

 左手で刀を再び握る。

「それにこれすごいのよね」

 そういって氷の腕の手のひらを俺たちの方に向ける。すると周りの冷気が氷の手のひらに集まっていく。そして、氷柱のような氷の剣が完成した。

「これで二刀流」

 長さは風上の持つ。刀と同じくらいの長さ。短刀だ。

「さぁ、風也。いっしょに帰るわよ」

「俺は帰らない」

「いい加減に言うことを訊きなさいよ!」

 二本の剣を従えて氷華が風上を襲う。風属性は氷属性に弱く。氷の攻撃を刀でまともに受けることが出来ない。氷柱の短刀の攻撃を交わすが太刀の強力な攻撃が来る。まともに受けることのできないこの攻撃を風上は刀で受け流して回避するが剣が凍りつく。その後、交差する形で短刀の攻撃が来る。風上は体をひねってかわそうとするが、かすって腹部から血がにじみ出る。しかし、氷華の攻撃は止まらない。一歩踏み込んで今度は太刀で斬りかかってくる。風上は風を起こして自分を吹き飛ばして攻撃をかわす。

「苦しそうね」

「そうだな」

 風上に余裕はない。素人の俺でも分かる。風上は攻撃をしようとしていない。戦意がまったく感じられない。

「風也は私の物。あの時に交わした愛は偽物のはずがない。私には風也が必要。風也には私が必要。それを邪魔するならそれが例え風也でも許さない。だから、私が冷静の間に剣を鞘に納めてよ。魔女を殺すだけだから」

 これは完璧な嫉妬だ。氷華は風上がアキに奪われたと思っている。それもそうだ。恋人という関係にも関わらず、風上はアキと共に過ごしている。勘違いしてもおかしくない。

「・・・・・・・・」

「何その目?」

 風上が氷華に向ける視線。それは敵意を示す目だった。敵を怯ませるような睨みつけるような目だった。

「私より魔女の方がいいんだ」

 その時俺が感じたのはどす黒く冷たいものだ。あの氷華という女は本当に風上のことが好きだったんだ。でも、風上はそれに答えてくれない。その答えに嫉妬し悲しんでいる。

「だったら、そんな風也は風也じゃない!」

 激怒した。氷華は正面から風上に斬りかかる。さっきと同じように短刀で斬りかかってくる。

「俺は師に教わったこと。戦局を我が物にする。氷華。今の君は俺の挑発に乗って単調な攻撃を仕掛けてきた。それが運のつきだ。俺の型も二刀流だぞ」

 風上は持っていた刀を右から左手に持ち帰る。そして、取り出したのは短刀よりさらに短い刀小刀だった。

 左手で持つ右風刀の風が止んだ。そして、代わりに小刀から発生したのは雷だった。

「何!」

 雷を帯びた小刀で氷華の氷柱の短刀を受け止めて砕いた。氷属性は雷に弱い。そして、その雷は腕の方にも伝わったが破壊するほどの物ではなかったが、全体が緩くもろくなっていた。そこに風上は風をまとった右風刀で斬りこむ。ブリザード・アームはいとも簡単に砕け散った。

 その氷華の表情から驚きで目をいっぱいに見開いている。

 危険を察知したのか後ろに一歩引く。

「奥の手は限界まで隠しておく。基本だろ?」

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