属性戦士④
風上のいた機関。世界規模の戦争が泥沼化するにつれてそれぞれの国はその膠着状態を崩す起爆剤を欲していた。それで商売が出来ると踏んだ大人たちが作ったのがその機関だ。成長途上の子供を高値で買取ひたすら魔術を学ばせる。そこには愛情は存在しない。ただ、金のほしい大人の欲求しかない。中には性的虐待を受けた子もいれば、魔術の才能がなく奴隷としてまた売られて子もいれば、逃げ出そうとして問答無用で殺された子もいたらしい。
その機関は今はない。機関出身者のある人物に壊滅した。それもたったひとりで。機関は自分たちで作った兵器で自分の首を絞める形で消え去った。その機関をたったひとり壊滅されたのが風上の師だという。
「風氷のサーベルタイガーという異名を持っていた。まるで吹雪のような猛攻が厳しい氷河期を生きたサーベルタイガーに例えられた。それが俺の師だ。師は風と氷の両方の魔武を持っていた」
「え?風がメインでも氷がメインでもどっちもサブとして使えないぞ」
「例外があると言っただろ?」
「ああ」
俺たちは雷恥と火輪を同じ場所に拘束するために戻ってきた。そして、風上はふたりを交えながら機関での出来事を教えてくれた。
「例外とは転生魔術だ。君の持つ力も転生によるもの。他人のものだ」
「じゃあ、あのサーベルタイガーも他人の魔力を転生させたのか?」
「ああ。師は元々氷をメインだったが機関が強力な魔術師を作るために才能がないと判断された子の魔力を転生させた」
その魔力を転させられた子はその後どうなったのか知りたくない、殺されたのかさらにお金になることをされたのか。想像するだけで泣きそうになる。
「それでその師と今回のことと関係はなんだ?」
「師は俺以外にも弟子を持っていた。氷と風が使えるからな。どちらも教えたいと思っていたのだろう」
「もしかして、その師匠の弟子で氷を使う魔術師が残りのひとりで風上の兄弟弟子という子?」
「そうだな」
やりにくそうだ。今まで同じように腕を磨いてきた仲間と殺し合いをするのか。俺で言うなら美嶋と殺し合いをするようなものだろう。
「それで彼女はどこだ?」
そうか。ついでに彼女なのか。風上は次も同じように戦えるのだろうか。執念だけは強いことは分かっている。アキを守るためなら誰でも利用する。だから、アキの狙われているこの状況は・・・・・・・。そういえば、なんでアキが狙われるんだ?
「なぁ、アキの狙われる原因が分からん」
「私がどうしたんですか?」
俺と風上はお互いに肩をびくつかせる。振り向くとブレザー服姿のアキがいた。俺と同じように学校帰りのようだ。だが、なんでもうここにアキがいるのか謎だ。
「アキナどうやって?」
「秋奈さんに聞いてバスでここまで来ました。お金はオカマさんからもらいました」
美嶋にあのバカめ。無駄な気を遣いやがって。
するとアキは俺たちの後ろで拘束されているふたりを見て懐かしそうに話した。
「雷恥さんに火輪さん!お久しぶりです!」
何かうれしそうだ。だが、拘束されていることを完全に認識するとその表情は明るいものから暗いものになった。
「もしかして、こっちにやって来た魔術師でふたりですか?」
「・・・・・・そうだな」
風上も間を開けて言いにくそうに言う。
アキもこのふたりと面識があるとは意外だ。アキは属性魔術を中心の魔術を使っていなかったし、魔武も持っていないから機関の出身じゃないだろう。名前にも属性魔術もないし。じゃあ、なんで・・・・・・・。
「なんでアキはこのふたりを知ってるんだ?」
「そ、それは・・・・・・・」
風上の方を見て様子を窺っている。すると風上がため息をついた。
「俺が死んだ現場にこいつらもいた」
「え?」
「そして、俺を生き返らせるようにアキナに催促したのがこっちに来ている残りの機関出身の魔術師。名前は氷山氷華。俺の恋人だ」
「え?関係はかなり前に破綻したって聞きましたよ?」
「俺はそのつもりだったが、向こうが拒否してな。ちょくちょく連絡してる」
「でも、その連絡すらも途切れたっす」
ここまで大人しく黙っていた雷恥がここで口を口を割った。
「魔女の護衛が忙しくて会うのもまばらでどんどん組織の道具として存在感が増していく。これじゃあまるで機関にいたときと何も変わらないっす。会いたいときに会えなくてただの商品、物として扱われる。氷華さんは先輩がそういう風になっていくことを一番の恐れていたっす」
すると今度は火輪が口を開く。
「風也さんを取り戻すには組織を潰すしかない。でも、規模も違うし、機関で鍛えられたとはいえ数も質も違う。到底敵わない。じゃあ、風也さんと取り戻す方法はただひとつです。風也さんを縛っているものを壊せばいい。それが氷華さんの出した答え」
だから、アキが危なかったのか。風上はそれを最初から承知だったのか。なんで分かったのだろうか?
「えっと・・・・・・・・わ、私」
どうしていいのか分からないアキがあたふたと慌てる。その手足は震えている。自分のせいで多くの人が苦しんでいる。魔女だったころの名残がまだ残っている。それは深く強いことを改めて知らされる。
「俺たちの敵は魔女っす。すべては俺たちの前に現れたのが原因」
「魔女のいるところすべて戦場。魔女がすべてを奪って壊した」
「なんでそんな奴を守る必要があるんっすか?」
「そんな人殺しに何の価値があるの?」
「魔女がいるからっす。先輩も氷華さんの変わったっす」
「なんで風也さんが死んだのに魔女が生きてるのよ」
「テメーら黙れ!」
叫んだのは俺だった。風上も止めにかかろうとして先の俺が止めた。
「なんっすか!部外者は黙ってるっす!」
「そうよ!何も知らない素人!」
「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!分かってないのはお前らだろ!アキがどんな思いでに魔女をやって来たか知らないくせに!守りたいものが守れないで守ろうとすると空回りして批判されてそれでも必死になって人を助けようとしているアキの姿をお前らは見たことあるのか!所詮客観的に見て判断しただけだろ!よく見ろよ!アキにはいいところが山ほどあるんだ!」
言いたいことはまだある。でも、これ以上言うとまたアキが泣いてしまいそうだったからここまでにした。
「うるさいっす!そもそも、お師匠のタイガーさんが死んだ原因の根本をその身に宿している奴が何を言ってるっすか!」
それを言った瞬間風上は鞘に収まった刀で雷恥を思い切り殴った。それは躊躇も手加減もないものだった。
「な、何するっすか?」
「風也さん?」
明らかにふたりも動揺していた。それは普段の風上じゃないのだろう。俺でも分かった。
「それは彼に言うべきじゃない。彼も伝承したくてあの力を持っているわけじゃない。こっちの世界に俺たちの私情を巻き込むな」
風上がきつく言う。魔術は人を不幸にする。他にもこの力で誰かを不幸にしているんじゃないのか?
ゴミクズ。お前は一体俺にどれだけのことを隠している?
「アキナ。そういうことだ。どこかに身を隠せ。本気の氷華は俺でも止められない。だから・・・・・・」
「嫌です」
「アキナ!」
本気の怒鳴り声にアキも一瞬肩を震わせる。でも、続ける。
「私は恨まれています。雷恥さんにも火輪さんにも氷華さんにも、そして多分風也さんや教太さんにも」
「おい、それは?」
「私ってすごく自分勝手でバカなんです。人のためと思っていても結局は重荷を背負わせてしまう。風也さんを生き返らせたせいで風也さんには私を守る責任、氷華さんたちには風也さんを取り戻す使命。教太さんには最強の教術とそれによって未知の敵に狙われる恐怖。さらに無関係の友人の巻き添え。すべて、私のせいですよね」
言われるとそうかもしれない。アキと会ったことで俺は教術を転生して、美嶋が死んで魔術の世界に足を踏み入れようとしている。何も変わらない日常が変わろうとしていることは確かだ。
「だから?」
「え?」
「俺も無から有にはしたのは誰だ?引きこもりがちで学校に不真面目だった俺たちを学校に行かせるようにしたのは誰だ?紛れもないアキだろ?俺は確かに重荷を背負わされた。でも、その分大きな物をもらった。そのためなら俺はこの重荷を糧にする。もう、決めたことだ」
「教太さん・・・・・・」
「なんだか楽しそうね」
冷たい声が暖かな俺たちに突き刺さる。何かが飛んでくると轟音が聞こえた。振り向くとアキに向かって巨大な氷の針が飛んできていた。俺もアキも反応できない。ひとり反応する人物がいた。風上だ。
刀と体全体を使って氷の針の軌道をずらす。氷の針は山の斜面に激突して粉々に砕けだ。だが、その周辺は一面氷の世界になっていた。すべての物が凍っていた。
「なんだ?」
訳が分からない。
「風也さん!」
アキの緊迫した声。今にも泣きそうな声だった。アキの方を見ると服の裾が剥がれそこがやけどをしたみたいになっている風上を抱えていた。顔しかめて痛みに耐えている。状況から見ると風上の怪我は凍傷。あの氷の針のせいだ。
「なんでよ。風也」
声の先は暖かな5月だと思えないほどに冷たく寒い。白髪を毛先だけまとめた白い女性。まるで雪女みたいだ。冷たく冷酷そうな顔にまだ幼さが残る女。服装は明るめの青色の長そでジャケットに短いスカート。
そして、違和感がるのは長そでの右腕が袖を通っておらず、風に自由に揺られている。
そう、あの凍えるような美人さんが・・・・・・。
「久しぶりだな。氷華」
氷に縛られた女。彼女が氷山氷華だ。




